第8回 日本女性はなぜ 海外移住するのか|カエデの多言語はぐくみ通信
今月は少し趣を変えて、私がなぜカナダに移住することになったのかをお話ししてみようと思います。私はカナダ人の夫と日本で結婚した時は、移住する気はまったくありませんでした。カナダのことを何も知らないし、仕事も持っていたので、特に移住する理由もなかったからです。しかし、どうしても移住しなければいけない状況になりました。近年海外移住する日本女性が増えています。SNS上でも海外移住を希望する女性の投稿がたくさんあり、その理由も私のものと似ていると感じます。では、私の場合をご紹介しましょう。
残業ばかりの毎日
日本で働いていた時は、一時在籍していた有名企業以外は残業が当たり前でした。とにかく帰りが遅く、会社を出るのは毎日夜の9時か10時。それが嫌で結婚を機に外資の日本法人に転職しました。やがて私は「主任」となりある部署を任されました。その部署は問題が多く、誰もなり手がなかったので私にその役目が回ってきたのでした。他部署で私と同レベルの仕事をしていた社員は全員男性で役職は皆「部長」でした。
その会社では女性が電話に出るという暗黙のルールがあり、役職のある先輩女性と私も電話を取っていました。なぜ女性は役職にあっても電話を取らないといけないのか?と疑問に思い取るのを止めたら、女性社員からクレームが来ました。私は部全体を取り仕切っていても女性事務員という扱いでした。そして他部署からは、部の責任者として責任を追及されるものの役職が下なので命令されたりと、責任と地位の乖離や指示系統の混乱がありました。しかし、そのアンバランスさにも気づかないまま仕事に追われ、結局そこでも残業をしていました。
降格してラベル貼り
その会社は100人以下の小規模企業で、IT部署というものがなく、コンピューター知識のある人が善意でパソコンやソフトの購入、インストールをしていました。私の部署にも、オーダーや在庫管理に必要なのでコンピューターシステムはありましたが、25年も前のことで、私もパソコンの知識はほとんどありませんでした。誰も頼る人がいないのでソフト会社と保守契約を結び、問題が起きる度に電話の向こうのエンジニアを頼りに私が解決していました。
私の職務の責任は部長クラスですが、役職が低く権限がないし、女性なので社内では軽んじられていました。しかし、問題を解決するには協力が必要です。周りの社員にペコペコ頭を下げながら、どうにか山積みの問題を解決した時、次は今より改善しろという他部署の部長からの要求がありました。しかし、そのためには色々な社内改革やITシステムが必要ですが、その部長が協力してくれるわけではありません。思い通りにならないので、その部長が私にパワハラをしてくるようになりました。そして、私は役職を解かれて降格になりました。
降格となった私は、毎日ファイルの表紙にラベルを貼る仕事をさせられました。それまで赤ちゃんのいる身で毎日遅くまで残業して頑張っていましたが、その時初めて、自分と家族の将来を考えました。そして夫の国、カナダに移住することにしたのです。
娘の将来のために移住
当時私の部下は全員女性で、私が主任になってからは嫉妬でそのうちの何人かは私と口をききませんでした。私の何かが気に入らなければ、彼女たちはすぐに給湯室に籠ってはひそひそ話したり、他の男性部長に頻繁に私の愚痴を言いに行きました。私の降格は彼女たちの告げ口にも一因があるでしょう。日本の女性が男性に庇護を求めたり、他の女性を蹴落として自分を守ろうとするのも、日本社会が女性にとって生きづらいという構造に問題があるのでしょう。
さて、私が移住を考えたのは、実は娘のことが一番気がかりだったからです。娘は成長後に日本で能力を発揮して生きることができるのだろうかと、ファイルにラベルを貼りながら考えました。男尊女卑、残業問題、パワハラ、セクハラやワンオペ育児等、女性が日本で生きるにはさまざまな困難があります。特に男女平等世界ランキングは121位という悲惨な状態ですし、日本の労働生産性は世界第34位と経済破綻したギリシャよりも低いのです(*参考資料は為替やデフレの影響を調整済み)。日本は生産性の低い中小企業が企業数の99%を占め、雇用の約7割を占めることも、毎日の残業や社会の男尊女卑と無縁ではないでしょう。生産性が低いにも関わらず新しい考えを取り入れられないということは、古い体質から脱却できないということです。
結婚生活においても、日本は共働きでも女性のワンオペ育児が主流です。日本に帰省した時、30代の甥の奥さんとカラオケに行くと、子守りをしている甥から30分ごとに「まだか」と電話がありました。彼らが実家に来た時は、子どもを奥さんに任せてスマホゲームをしている甥の姿に、まだ昭和を見ている気分でした。私は娘に、女性だからと男性に気兼ねしてキャリアアップを諦めて欲しくないのです。そして移住後20年経ち、現在娘はカナダでのびのびと女性であることを謳歌しています。
さて、私の退社後、例の女性社員たちから愚痴を聞いていた男性部長が私の後任になりました。彼はパソコンの知識がなく、もったいないからと保守契約を打ち切りシステムが動かなくなったという話をその後伝え聞きました。
【参考】東洋経済 *デービッド・アトキンソン「日本の労働生産性は『韓国以下』世界34位の衝撃」、中原 圭介「日本の労働生産性が半世紀も先進国ビリの理由」
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