トロントのジャパンファウンデーションにて米国の国立学術文化研究機関スミソニアン協会のRobert Pontsioen博士による「生人形」の 再発見に関するレクチャーが開催
‘Secrets of the Smithsonian Samurai:Rediscovering the Lost ‘Living Dolls’ of Japan’
2月6日、トロントのジャパンファウンデーションにて、米国の国立学術文化研究機関スミソニアン協会のRobert Pontsioen博士による、1893年にシカゴ万国博覧会で展示された「生人形」の 再発見に関するレクチャーが開催された。生人形とは江戸時代の後期から明治時代にかけて制作された日本の見世物であり、実際の人間に見えるほど精巧な細工が施された日本独自の工芸品である。
レクチャーの冒頭ではジャパンファウンデーションの清水優子所長によるRobert Pontsioen博士の紹介と、生人形の19世紀後半の日本とアメリカにおける文化的位置付けについて前置きが行われた。
Robert Pontsioen博士は、ワシントンD.C.のスミソニアン博物館群の一つである国立自然史博物館のAsian Cultural History Programの研究員であり、研究内容は日本と他アジア各国の伝統的な芸術と工芸品、工芸品の再生産、そして文化継承促進の戦略と文化保護に重点を置いており、広範囲に渡る職人コミュニティに関する実地調査も行なっている。
Pontsioen博士は、生人形の歴史と時代考証に始まり、綿密な考証で多岐に渡って江戸の風俗を記録した伊藤晴雨の作品の紹介や、スミソニアン協会のコレクション、そして美術館での研究内容についてなどを網羅的にカバーしつつ、生人形のパーツが近年に発見されるまでの歴史的スペクタクルを語り聴講者を魅了した。
1893年にアメリカ合衆国イリノイ州で開催されたシカゴ万国博覧会は、世界でも類を見ない科学技術の発展と工業を中心テーマとした国際博覧会であった。日本は諸外国との交易推進を目的に万博メイン会場の館にて様々な工芸品と美術品を展示し、宇治の平等院鳳凰堂を模した日本館「鳳凰殿」と日本庭園を建設し、来場者を驚かせた。これらの華麗な工芸品に注目が集まる中、同じく展示されていた侍の姿を施したマネキンを含む八体の「生人形」は、工芸的に高い価値があるにも関わらず正統な工芸品として見なされていなかった。
これらの人形をスミソニアン協会は博覧会の終了間近に購入し、国立美術館にて60年代まで断続的に展示していたが、展示後に生人形達は行方をくらまし、この何十年の間失われていたと考えられていた。しかし、近年人形のパーツが見つかり、長年生人形を追ってきた博士の元に渡ったという経歴である。
全世界でも現存している作品数が限りなく少ない生人形だが、発見された生人形の頭部などのパーツは損傷劣化が生じており、まだまだ明かされていない謎が数多くある。生人形の作者が誰なのか?8体の人形が成すジオラマは、どのような歴史的な場面を再現しているのか?日本以外の国でも生人形は今存在しているのか?
様々な謎が残るが、レクチャー後は生人形の文化的価値についてや、博士の研究に関する質問が飛び交った。
取材・文=菅原万有