カナダでゲーム屋三昧 #004
「大当たり」の哲学
宝くじの1等の確率って知ってますか?よくゲーム業界はギャンブルだといった言われかたをします。実際に自分もやって、全くそのとおりだなあと思います。今、世界一伸びている市場はAppleのiPhoneとGoogleのAndroidですが、それぞれゲームアプリだけで50万個近いんです。その50万個全部の売上の中で、一番売れているタイトルの占める割合って想像できます?実は「Clash of Clans」「Candy Clash」「Puzzle&Dragons」の3タイトルだけで、1/3を占めるんです。全体の0.0006%にすぎない最上位の3タイトルだけで、すべてのゲームの売上の30%のシェア。
似たような話はいくらでもあります。ポテトチップスといえばカルビーですが、日本市場の半分以上のシェアをもつ彼らの、毎年80種類を超えるラインナップで、結局売上って「コンソメ」「うす塩」の2つで全体の30%の売上なんです。映画産業だって邦画の2013年年間1200億円市場のなかで、『風立ちぬ』『モンスターズ・ユニバーシティ』『ONE PIECE FILM Z』のTop3であわせて280億。500本くらいあるうちの上位3本だけで全体の25%の売上。バンダイナムコも年間5000億円の売上のうち、『ガンダム』『仮面ライダー』『ONE PIECE』のTop3のIP関連商品で約1400億、やはり全体の30%くらいのシェアをしめています。
全体の0.5~1%に満たないトップタイトルが、全体の3~5割の売上を占める、という比率は、業界は違えど「人の嗜好」にのっかる産業には全てあてはまる法則のようにも感じます。死屍累々で失敗作の山のなかできらりと光る唯一のヒット作。他の業界にはない特性です。近いのは製薬業界さんくらいでしょうか。なんでこんなことが起こるかというと、人って「他人が持っているものはイイ!(・∀・)」と思ってしまうものなんです。「普及率15%のカベ」というのがあり、100人のうち15人がもっているかどうかが「みんながもっている」の分岐点と言われます。通話専用の旧式携帯から、ネット検索を中心とするスマートフォンに移る過程でも、2010年に日本人のシェア20%越えたあたりから急激に持つ人が増えて、現在新規で携帯契約する人はほぼスマートフォンといっても過言ではないでしょう。
『アナと雪の女王』が大ヒットしております。1000億円の興行収入というのは、実は『アバター』や『タイタニック』といった歴代トップ10にたった半年ですでにランクインしている歴史的ヒットの部類に入ります。で、日本でもすでに2ヶ月で150億円、中身をみてみると半分以上が「年1-2回しか映画をみない」ライト層なんです。だいたい15%が見終わるほどのヒットを飛ばすと、通常ゲームでも映画でも「特に好き好んではやらない」マジョリティの5割くらいの集団がざざざーっと流されて向かっていくんです。
こうして人の好き嫌いに関わる産業にいると、芸人ではないですが「一発屋で終わりたくない!みんなにたくさん笑って欲しい!」という気持ちになります。それにはゲームがもともと好きな15%よりも、むしろ50%の「嫌いじゃないけど、まあ暇があれば」の過半数の人に振り向いてもらえるかが勝負なんです。そしてほんのわずかの確率でそこに至れると、急激にトップ街道まっしぐら、スター状態になるわけです。
実際にこれをやっていると笑い事じゃなくて、事業の生死がそんな1%とか2%とか到底無理といった確率のものに依存してて、正気ではやっておれません。ということで、とにかく必死にマーケティングするわけです。過去人気になったゲームはすべて手をつけますし、何が最近ホットで人々が何を見ているか、まあ気になって気になって仕方がないんです。しかも競合がなにをやってくるかでだいぶ影響されます。『土竜の唄』とか『トリック』とか普通に考えたらトップクラスの映画も『アナ雪』とタイミングがかぶってしまったせいで、興行収入の奮いにも限界が見られます。
半ば脅迫神経的にまわりのことばっかり考える確率商売のなかで、丹念にユーザーと会話しながら「人々が好きと思える種(それは1年単位くらいで入れ替わりますが…)」を一瞬つかまえて、デリケートに事を運んでいくと…実は普通にやると成功確率は1%のところが20%くらい、すでに知っている業界・ユーザーで経験値のあるパートナーと組んでIP使ってMAX成功率50%といった、まあ人間的な数字に近づいてくるわけです。
我々は残念賞のない世界で戦ってます。2番手だと人の記憶に残らないんです。まわりには失敗例ばかりが積もっており、一体どこに向かってどう走ればよいか暗中模索でやっております。ということで、「遊びを仕事にする大変さ」をなかば愚痴がいいたくて書いてみました。雨降るバンクーバーで背中を丸めたしがないゲーム屋がおりましたら、やさしく背中を見送っていただけると幸いです。
ちなみに宝くじの1等確率は0.00001%、日本人で10人選ばれるかどうかの確率です。そんな拙い確率にすがるくらいなら、ぜひ弊社の株でも買っていただきたく!今年は東洋経済の「新・企業力ランキング」で、任天堂さんやセガさんをおさえて堂々126位、ゲーム会社No.1の超優良物件でございます。
中山 淳雄
1980年宇都宮市生まれ。2004年東京大学西洋史学士、2006年東京大学社会学修士、2014年Mcgill大学MBA修了。(株)リクルートスタッフィング、(株)ディー・エヌ・エー、デロイトトーマツコンサルティング(株)を経て現在 はBandai Namco Studios Vancouer. Incに勤務。コンテンツの海外展開を専門に活動している。著書に『ボランティア社会の誕生』(三重大学出版:第四回日本修士論文賞受賞作、2007年)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書、2012年)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHPビジネス新書、2013年)、他寄稿論文・講演なども行っている。