カナダでゲーム屋三昧 #006
Small is Beautiful
いま一番成功しているMobileゲーム会社って知ってますか?昨年10月にSoftbankが3000億円もの価格をつけ、半分を株式買収したSupercellというフィンランドの企業です。まだ出来て3年で90名足らず、しかも出したゲームはたったの2本。「Clash of Clans(CoC)」というお互いの陣地をキャラクターでせめあうバトルゲームと、「Hay day」という農園育成ゲーム。この2つだけで毎月100億円以上もの売上をあげ、世界135カ国のAppstoreで売上1位を獲得しています。最近日本に帰ったら山手線でCoCジャックがおこっており、車内広告全部コレになってました。恐るべし成長力と普及力です。
では2番目に成功している企業といえば…?いまや2億人が遊ぶパズルゲーム「Candy Crush」のKing.com、2003年設立です。英国企業ですが、実はもともとスウェーデンで始まった企業です。でもあまり聞きなれないなという人でも「Angry Bird」はご存知でしょう。この生みの親Rovioもまた、2003年設立のフィンランド企業なのです。2009年にリリースされたAngryBirdがMobileゲームという市場のまさに始祖であり、同じ北欧企業のSupercellとKing.comが2013年にその市場を大きく開拓してきたというのが世界の潮流であり、モバイルゲーム市場はまさに北欧にはじまり北欧に拓かれるといった状況です。
フィンランドにスウェーデン、それぞれ500万人と900万人というちっぽけな国から、なぜこんなにもザクザクと宝の山が生まれているのでしょうか??もともとハイテク企業こそは北欧国家という趣もあり、かつては単独1社でノルウェーの国家GDPの4%も稼ぎ出すNokiaが君臨しておりました。現在でこそ不調ですが、この企業を辞めた人間から生まれた事業は300にも及びます。そもそも北欧国家群はすべからくビジネスマインドと親和性が高く、非常に起業家精神たくましい会社です。2012年の国際競争力ランキング、ビジネス環境ランキング、グローバルイノベーションランキングなどたどっていくと、実はスウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーの4カ国が世界Top4となっていたりします。取締・役員の女性進出比率も2013年時点で世界1位ノルウェー36%、2位スウェーデン27%、3位フィンランド26%となっております。ちなみに…日本は1%でございます。
なぜこうした小さな北欧国家が、50倍以上もの規模を誇るゴリアテ・USAに挑めるのか。1つは「インドア気質」。北欧は夜と長い冬が特徴からわかるように「最強のインドア民族」です。長い長い自宅時間を楽しむための生活の知恵に満ちており、IKEAにはじまりiittalaやmarimekkoといった高級家具の生産地として名高い土地です。そんな内向性の強い遊び嗜好は、彼らの強い創造意欲へとつながっていきます。その結果、生まれたゲーム会社が「Angry Bird」で有名なRovioヘルシンキで1990年代初旬からおこなわれてきたゲームフェスティバルでは1.3万人のスタジアムを借り切っての規模になってきました。大学もビデオゲームの専攻分野を続々と設立しています。
ただそもそも創造性が豊かだからといって、その存在が容易に認められるわけがありません。北欧国家がここ最近目立ってきた背景としては、やはり「ネットの力」が大きいです。もともとは小売店と結びついた物流・流通チャネルを確保できる事業が世界を席巻しており、それはまさに植民地化の過程で、世界中に物流網をはりめぐらせた英米の歴史的遺産がフルに生きる時代だったわけです。語学バリアを取り払う言語帝国主義を体現したEnglishもまさにそれです。ただ2000年ごろから既存の流通チャネルを無視して、PCから携帯からダイレクトにコンテンツがアプローチできる時代にかわりました。アーティストがアーティストの生み出した「生」の状態で勝負しやすい時代になってきたのです。
規模が競争優位になった時代は終わりました。それはゲームのみならずあらゆるメーカーがいま実感するところです。上から下までの意思伝達がどんどん遅くなる大企業は、創造性の高いコンテンツを生み出すのに、阻害要因ばかりがめだつ時代に入りました。創造とはいったい何でしょうか。それはむしろ「小さいこと」「特殊であること」「マイノリティであること」といったことがUniqueなものにつながりやすいのです。
1973年に唱えられた「Small is beautiful」という言葉は、いま半世紀ちかくたってはじめて名実ともに世界がそう変わっていく節目に我々はいます。「小さな政府」と「起業家精神」、「マイノリティ価値」をフルに活かした北欧民族は、いままさに創造性の最先端にあります。でもこれって…日本も一緒じゃありません?こんな小さい極東の国で、浮世絵から漫画まで細々とした細工を紙面に凝らして、本当は300年前からUniqueを地でいく国ではなかったでしょうか?500万人で3億人の国を打ちまかせる時代なら、10人程度の我々のスタジオだってSupercellやRovioを打ちまかせるはず。その鍵を「異端を敬い、個人を尊重する」北欧文化に学びたいと思います。
中山 淳雄
1980年宇都宮市生まれ。2004年東京大学西洋史学士、2006年東京大学社会学修士、2014年Mcgill大学MBA修了。(株)リクルートスタッフィング、(株)ディー・エヌ・エー、デロイトトーマツコンサルティング(株)を経て現在 はBandai Namco Studios Vancouer. Incに勤務。コンテンツの海外展開を専門に活動している。著書に『ボランティア社会の誕生』(三重大学出版:第四回日本修士論文賞受賞作、2007年)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書、2012年)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHPビジネス新書、2013年)、他寄稿論文・講演なども行っている。