カナダでゲーム屋三昧 #002
カナダのゲーム産業づくり
実はこの5年くらいでカナダのゲーム産業は急激に伸びてきており、Montreal、Vancouver、Torontoはゲーム開発者のメッカのような状況になってます。
なぜか?
カナダは映画産業・ゲーム産業に対して、特別な税制優遇をしており、人材誘致・産業誘致をして自国の一大産業にしようとしているのです。
アメリカのハリウッド映画や日本の漫画のように、産業メッカとしてのステータスを確立すれば、たくさんの雇用が生まれます。ゲームを作りたい人はカナダに集まるようになるし、多くの若者がゲーム産業に就職しようと学ぶようになります。カナダのGDPも上がるし、結果的に税金も増えるので短期で税金を減らしてでも長期で稼ごうというモデルなのです。色々な税制優遇があるのですが、一般的なものは開発に使った人件費の3-4割が税金還付で戻ってくるというもの。1億円でつくっても、ゲーム作りなんてほとんどが人件費。3割がもどってくれば7000万円でゲームをつくったのと同じ。映画に関してはなんと使った費用の50%まで控除されるという状況。
BC州が17.5%で、Quebec州が26〜30%、Ontario州はなんと35〜40%です。カナダの州同士でも競い合っており、最近は大幅な控除をしているQuebec州、Ontario州にBC州から人が大きく動くことにもなりました。
バンダイナムコもご多分に漏れず、税制優遇の甘い香りに誘われてやってまいりましたが、やはり東部の寒さは耐え切れず、、、BC州までで力尽きました、、、。
日本でもクールジャパン構想として政府が産業育成のためにファンドをつくったり色々施策を打ってますが、、、やはりカナダの産業誘致はサンフランシスコやシンガポールとならび、世界的にも成功事例としてもてはやされるだけあって、図抜けています。まず人。産業誘致なんていうと公務員なイメージですが、まっったく違います。MBAホルダーやベンチャーインキュベーター、自らゲーム会社の立ち上げ経験者、さらには日本のゲーム会社向けに日本総合商社の出身者が州政府に雇われており、そんなスーパーな経歴の方々がこれまた想像をはるかに越えるサービスを提供。地元で成功しているゲーム会社のリストアップからアポイント設定、さらにはまさかの会議の同席と通訳までやってくれるのです。これは「産業誘致」なんて言葉じゃおさまりきれない。もう国全体がベンチャーインキュベーションをやっているような感じです。
産業ってそのまま人づくりなんです。
前回連載では、今携帯ゲームが10年ぶりのゴールドラッシュで、という話を書いたかと思います。僕が前に属していたDeNAという会社も、携帯でのオークションやEコマースなどを生業とする、いわゆる「ネット企業」でした。2009年末に、ゲームをつくったこともない20代の企画者とエンジニアが、Webページでもつくるかのようなノリで3か月でこしらえた「怪盗ロワイヤル」が、社内アンケートで9割が「こんなもの売れない」とコメントしたそのタイトルが、ゴールドラッシュの幕開けでした。ただ、1本あてただけでは、ゲーム開発者は「ネット企業」には集まってくれません。新興企業でゲームをつくるには、例外的な給与やタイトルでトップ人材を引っこ抜きながら、未経験の人材をプロに仕上げる「人づくり」が必要でした。ゲームづくりは未経験でも金融のSI経験者だったり、とにかく新卒でなんでもできる人材にコードをかかせてみたり、とにかく試行錯誤しながら、親和性の高い人材を選び、採用し、育成してきました。2010年から2013年までの間に、日本でゲーム作りに関わる人は、推計値ですが2倍近くに増えたはずです。
明治維新の時代、欧米化を急務として当時の首相よりも高い給与でお雇い外国人を招きながら、繊維業、鉱業の欧米技術を取り入れていったのと同じこと。スタートアップには多大な投資が必要でカナダもそうして、世界中からトップ企業、トップ人材を特別待遇で集め、国内でもそれをめざす若者の熱意を育成し、10年計画で産業を大きく盛り立てていくのです。
国づくりや産業づくりって壮大で特別にみえて、一企業がやっている草の根の活動とそんなに変わらないんです。
昨年僕は別の仕事でミャンマーにいったのですが、そこで政党の外相大臣から言われたのが「10年前に中国やベトナムで産業をつくった人材がまず欲しい。そのノウハウがあれば、まず何をすればいいかが分かるからだ」ということでした。人さえいれば金は惜しまず、まずは経験とナレッジを国に導入したい。まさに国造りは人事の仕事からはじまるのです。
現在のカナダの取り組みを見ておくことは、一ゲーム産業の視点だけでなく、「国づくりの一成功事例」のノウハウ伝承のために、不可欠ではないか、と誇大妄想的に夢想している今日このごろ。
中山 淳雄
1980年宇都宮市生まれ。2004年東京大学西洋史学士、2006年東京大学社会学修士、2014年Mcgill大学MBA修了。(株)リクルートスタッフィング、(株)ディー・エヌ・エー、デロイトトーマツコンサルティング(株)を経て現在 はBandai Namco Studios Vancouer. Incに勤務。コンテンツの海外展開を専門に活動している。著書に『ボランティア社会の誕生』(三重大学出版:第四回日本修士論文賞受賞作、2007年)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書、2012年)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHPビジネス新書、2013年)、他寄稿論文・講演なども行っている。