世界女酒場放浪記 #03
日本酒利酒師 松本真梨子が行く世界女酒場放浪記
第3回「日本酒の魅力② 日本酒造りも人生も基礎が大事」
前回は、お米を糖分の含まれる麹に変化させる作業についてお話ししましたが、今回はいよいよ日本酒のアルコール発酵について語りたいと思います。
これも大変複雑…大きなタンクでお酒を作る前に、まずは小さなタンクで酒母(しゅぼ)というものを作ります。約20~30日かけて大きなタンクで日本酒が作られるのですが、その間、酵母がしっかり働くように、まずは小さなタンクで酵母をたくさん培養しなくてはなりません。人間もそうですが、赤ちゃんがいきなり社会に出ろ!と言われても何もできませんよね。可愛い子には旅をさせよとは言いますが、それにはある程度の攻撃力と防御力が必要です。そう、漢字をみても”酒の母”で”しゅぼ”、まず始めに日本酒造りのもととなるものを作るわけです。多く使われている方法として、タンクに「水、麹、蒸し米」そしてアルコール発酵するための「酵母」と雑菌を抑えるための「乳酸菌」を加えて、約2週間かけて酒母をつくります。
8年勤めていた会社を退職して、やっと自分の時間がとれたので、日本酒造りをしっかり体で理解し蔵で働いている方々の気持ちに近づきたいという想いから、長野県諏訪市にある”真澄”で有名な「宮坂醸造」さんに1週間ちょっと×2シーズン、酒蔵に泊まり込みでお酒造りを手伝わせていただいたことがあります。朝、夕方は麹造りを手伝い、そのほかの時間は、酒母作りを中心に関わらせていただきました。
毎日、酒母室(酒母をつくる部屋)に行き、温度を測ります。理想となる値に近づくよう、コンロで暖めたり、氷を入れた筒で冷やしたり…また何回も棒で混ぜて温度が均等になるように手を入れます。毎日毎時間、室温が異なる上に、タンクによって発酵の度合いが違うため、1日に何度もタンクごと様子をみなくてはいけません。その時、違うタンクの酒母が混ざらないように温度計ですら毎回洗い、掃除する際もタンクごとに布巾を変え、酵母の活動がうまくいくよう手をかけていくわけです。
アルコール発酵が進むと、それと同時に二酸化炭素が出るので、表面がブクブク泡立ってきます。「昨日手を入れた子が、今日はもっと元気になってる‼」「同じ原料なのに何でこの子の発酵は活発なのに、こっちの子はおしとやかなの…?」数日の滞在にも関わらず、既に、造り途中のお酒を“我が子”扱いしてしまう程!こうして酒母を作り終えた後、ようやく大きなタンクにてお酒(醪(もろみ))造りを開始できるのです。
日本酒造りは、子育てによく似ているなぁと感じます。次号は醪造り(別名「仕込み」)についてお話ししたいと思います。愛娘(息子?)は社会(大きなタンク)に出たとき、どう変わっていくのか…不安ながらも楽しみですね。まだまだ寒いトロント、雪でも見ながら熱燗で1杯やりませんか?
松本 真梨子
築地生まれの江戸っ子。食にこだわるスーパーマーケット成城石井で8年間勤務し、本店のお酒担当主任兼副店長を経験。日本酒利酒師、ワインアドバイザー、ウィスキーエキスパート、テキーラマエストロの資格を持つ、自称ノム(呑む)リエ。2014年3月に渡加し、現在、昼は酒蔵CANADA、夜はKoyoi North Yorkで働く。