世界女酒場放浪記 #06
日本酒利酒師 松本真梨子が行く世界女酒場放浪記
第6回「お酒の楽しみ方 不思議な1杯のグラスワイン 後編」


「ぜひコメントして下さい」ワイン博物館のスタッフのフランス人はニヤリと笑みを浮かべながら私を見つめました。 職業柄、仕事でお酒のテイスティングをよくするもので、香りや味を色々な言葉で表現し、出来るだけ客観的かつお客様が想像しやすい沢山の言葉で説明するのを心掛けています。
しっかりとグラスの中の液体を確認し、私はコメントしました。
『輝きのある、少しグリーンを帯びたライトイエローの外観。香りは…レモンやグレープフルーツ、青りんご、そしてハーブ、それもドライでなくフレッシュハーブ。味わいは香りからとれたような柑橘系主体で、シャープな酸味とレモングラスのようなハーブ、余韻は軽~中程度のライト~ミディアムボディ…こんな感じでしょうか?』
彼の目はみるみる内に丸くなり「…プロですか?」と仰天しながら話しかけてきました。『はは、実は日本でお酒売っていたもので。』少し恥ずかしながら伝えると、『お姉さん、名前は?』もう一つのグラスを私の目の前に置き彼は質問しました。「まりこです。」新しいボトルのコルクをあける彼を見ながら私は答えました。『ねぇ、まりこさん。あなたのコメントは素晴らしいです。でも…飲んで何を“感じ”ましたか?…もっと自由に心で感じてみて…さぁ目を閉じて…』暗示がかかったかの如く、私はゆっくり瞼を閉じ、口に赤ワインを含みました。
するとどういうことでしょうか。小さい花が咲く緑の丘に小川が流れ、水車がついている石造りの家がまず見えてきたのです。その横には少し大きなテーブルが置いてあり、多分おばあちゃん(フランス人)の家なのでしょうか?子供がまわりでかけっこをし、はしゃぎながら、みんなでランチを楽しんでいる光景が目に浮かんできたのです。
「とっても温かみのある可愛らしいワインで…」私はそのイメージを彼に伝えました。彼は満面の笑みを浮かべながら『これがあなただけの1杯なんです。』と言ったのでした。『まりこさん、あなたは仕事でワインを扱っているから白ワインの時しっかりしたコメントをしてくれましたが、本来お酒は嗜好品で楽しむもの。ちょっとだけ方法を変えてみて、周りは気にせず本来の素直な心で感じてみると、見えてくる世界ももっと変わってくるんですよ。
面白いのが、全く同じワインでも、例えば誕生日に飲む時とお葬式の時に飲むワインじゃ全く違う味を感じる。学生の時に飲むのと母親になった時に飲むのと還暦になった時に飲むワイン、見えてくるものが違いますよ、きっと、ね!あなただけの1杯、見つけて楽しんで下さい。』あっけにとられてワントーン高めにお礼を言うと、『ちょっといじわるしちゃいましたかね?はは』とはにかみながら彼はグラスを片付け始めました。
心で感じながら、お酒を飲んでみる。たまにはそんな事してみるのも面白いと思います。香りや味で誰かを思い出したり色褪せない記憶が蘇ったり、どこか知らない世界を想像したり…それがたとえさみしい事、辛い事でも、なんだか豊かな人生になるんじゃないかな、って思います。

皆さんも今宵の1杯をぜひ楽しんで下さいね、乾杯!!(と、ちょっとかっこいい事言いながら、昨夜は朝5時まで飲みストリートカーで寝過ごして記憶があまりない私でした苦笑…トホホ)
松本 真梨子
築地生まれの江戸っ子。食にこだわるスーパーマーケット成城石井で8年間勤務し、本店のお酒担当主任兼副店長を経験。日本酒利酒師、ワインアドバイザー、ウィスキーエキスパート、テキーラマエストロの資格を持つ、自称ノム(呑む)リエ。2014年3月に渡加し、現在、昼は酒蔵CANADA、夜はKoyoi North Yorkで働く。





