トランペット合格者は世界でわずか3人。ジュリアード音楽院に合格したオークビルの高校生トランペッター ウィリアム・レザーさん インタビュー|特集「カナダの夏を彩ってくれる極上の音楽」
「カナダの時の人に迫るシリーズ」
高額の学費を前にファンドレイジングを募り、カナダメディアも大声援!
ーまず最初に、音楽を始めたきっかけを教えてください。
僕が4歳の頃、“Oswald”というアニメのメインキャラクターであるタコがピアノを弾いているのを見たことがきっかけでした。僕もOswaldのようにピアノが弾けるようになりたいと思い、6か月間ずっと母にピアノ教室に通わせてくれるよう頼みこみました。そして7歳には父も演奏をしていたトランペットを吹くようになりました。いまでもピアノは演奏していますし、一番得意な楽器でもあります。ですが、ジュリアードを受けるときは楽器を1つしか選べないのでピアノは個人的に勉強し続けていきたいです。
いつも信じてくれている人がいるからこそ力を発揮できる
ートランペットを始めたのはお父様の影響がとても強いようですが、ウィリアムさんにとってお父様はどのような存在ですか?
父がいつも私の力を信じてくれるからこそ自分のベストが尽くせていると思っています。父にとって僕は第一に息子であり、僕のミューシャンとしての顔はあくまで2つ目の顔なんです。だからこそ、いつも僕が元気かを気遣ってくれますし、父のそういう気配りができるところに憧れています。僕にとっては父が一番最初にトランペットを教えてくれた人なので、一緒に演奏している時はとっても楽しいです。
ー幼い頃から音楽に興味を持っていたようですが、今まで音楽をやってきて大変だったことと印象深かったことはなにかありますか?
まだこれと言った大変なことはないですね。自分の好きな道を進めているという事が本当に嬉しいので、大変なことでも苦になりません。印象深かったことは、これまで人に恵まれていたことです。ピアノの先生をはじめ、トランペットの先生も音楽業界ではとても活躍している方々でしたし、そんな方々から指導を受けられたことは僕の人生の中で大きな糧になっています。その中でも、世界的に活躍しているミュージシャンのウィントン・マルサリスに直接会って少しレッスンをしていただけたときは言葉にできないくらい嬉しかったですね。
ーピアノにトランペットという2種類の楽器を演奏しているんですね。演奏するのが楽しい曲はありますか?
演奏するシチュエーションや楽器によって異なるので、特にこれと言った曲を1つだけ挙げるのは難しいのですが、いくつか挙げることならできます(笑)。ピアノで弾くならリストのハンガリー狂詩曲第6番、ショパンのバラード1番、モリスのラ・ヴァルスが気に入っています。トランペットでは、トマジのトランペット協奏曲が思い出深いです。実は、ジュリアードのオーディションでも演奏した曲なんです。オーケストラで演奏するとしたらマーラーの交響曲第1番を演奏するのが好きです。
ー人としてはお父様を尊敬しているとのことでしたが、ミュージシャンとして尊敬している方はいますか?
最初に挙げたウィントン・マルサリスを尊敬しています。彼は現代において最も著名なジャズ・ミュージシャンの1人で、クラシックの奏者としてもよく知られています。これまでにクラシック音楽とジャズ音楽でグラミー賞を獲得していることからわかるように、1つのジャンルに絞らない活動をされているところを特に尊敬しています。
ただ単に才能があるだけではトップに立てない
ー今年、ジュリアードは世界でトランぺッターを3名しか合格としませんでしたが、ウィリアムさんはご自身が合格した決め手は何だったと思いますか?
たくさん練習をして、審査員が興味を持ってくれそうな曲目を選んだことが大きかったのではないかと思います。ただ単に才能があるだけでは十分ではなく、繰り返し練習をして、万全の備えをする意識を持っていることがトップに立つ人に求められる資質だと思います。僕は天才だと言われていますが、それだけでは十分ではないということはウィントンと会って痛感しました。彼は僕のような天才を15人は見てきたけれども、その中で成功したのはたったの1人だったと言いました。その理由は、才能に恵まれている人の中には努力をしない人も一定数いるからです。だからこそ僕は自分の才能に頼るだけということはせず、毎日何時間も練習をしています。その甲斐あって、ジュリアードに合格したときは正直あまり驚きませんでしたね(笑)。
ー合格通知を思いのほか冷静に受け止めていたんですね(笑)。ご家族や友人の反応はいかがだったでしょうか。
皆とっても喜んでくれました。ですが、とてもお金の掛かる学校ですので、家族や親戚、そして友人がファンドレイジングを手伝ってくれています。
ー話題になったファンドレイジングについて教えてください。
僕がFacebook上でジュリアードに合格したことを投稿したのを家族ぐるみで仲良くしているアンドレー・ドミスが見たことがきっかけでした。その投稿を見た時から彼は、莫大な学費が問題になると思い、すぐに僕の母に何か手伝えることは無いかと連絡を入れてくれたんです。そして彼が思いついたのが、YouCaringというサイトでのファンドレイジングでした。
ファンドレイジングで感じた人の温かさを僕も返していきたい
ー積極的に協力をしてくれたなんてとても素晴らしいご友人をお持ちですね。
本当にそう思います。こんなにもたくさんの人が僕を応援してくれているという事がとても誇らしいです。このファンドレイジングを通して、僕の夢を応援してくれる人の多さ、人の温かさを知ると同時に、僕自身も夢を追いかける人たちの応援をしたいと思うようになっていきました。世の中には、トップの大学に合格しても学費の関係で進学を断念せざるを得ない方がたくさんいます。そんな方々のために、色々な方の協力を得て財団の創設を行うことになりました。僕のYouCaringページで集まった募金の内10%を学費を支払うのが難しい方々へ分配する仕組みになっています。ジュリアードでの4年間の学費が集まれば、その額からはみ出した分は全て財団に寄付する予定です。
ーそうして皆さんの協力を得て進学する学校ではどのようなことに取り組んでいきたいですか?
将来的にはピアノとソロのトランぺッターとして活動していきたいと思っています。そのために、ジュリアードのトランペット課程のなかで一番のミュージシャンになることがいまの目標です。この目標を掲げることで自ずと意識が変わり、演奏技術や音楽センスが磨かれていくことが楽しみです。
ー演奏をしている時に色が見えるという話を聞いたのですがこれはどういうことか教えていただけますか?
“Synesthesia(共感覚)”と呼ばれるものですね。古代ギリシャ語で“syn”は一緒に、“aisthēsis”がセンセーションという2つの言葉で成り立っています。共感覚は神経学的現象なのですが、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚を生じさせる現象です。演奏をしている時に色が見えるのは音楽的共感覚です。同じタイプを持つ人の中にはモーツァルト、ベートーベン、リストという歴史的音楽家もたくさんいます。ちなみに、僕とモーツァルトは同じ誕生日なんです(笑)。
ー歴史に名を刻む音楽家とも共通点が多くあるんですね。そんなウィリアムさんにとって音楽とはなんですか?
音楽は国境を越えた言葉だと思います。音楽を通じて文化や人種の壁を越えて人々は繋がれるんだということを気づかせてくれるのが音楽だと思います。
ーミュージシャンとして将来取り組んでいきたいことはありますか?
僕にとってミュージシャンになるということは自分の好きなことで人生を生きていくということです。ですが、ただミュージシャンとして活躍するのではなく、他の人も僕と同じように自分の夢に突き進んでいけるようにサポートしていきたいです。特にクラシック音楽は敷居が高いと思われがちですが僕がその意識を変えていくことの役に立てたらと思います。
ー最後にTORJA読者へのメッセージをお願いします。
皆さんへのメッセージは3つあります。1つ目は自分が一生懸命になれることを知ってください。2つ目はゴールを明確にきめること。3つ目はそのゴールを達成するための計画をしっかりと立てることです。自分のゴールにたどり着いたらそこで満足せず、皆さんにも様々な挑戦を続けていってほしいです。
William Leathers
Oakville Trafalgar Secondary Schoolに通うカナダで話題沸騰の17歳トランぺッター。4歳からピアノを、7歳からはトランペットを始めた。Toronto Symphony Youth OrchestraとHalton Mississagua Youth Orchestraには最年少記録である12歳で入団。世界的音楽家にも天才と認められ、今年はニューヨークにある音楽の名門、ジュリアード音楽院に合格。その莫大な学費をYouCaringというサイトで募っている。
Instagram: @leathersboy
ファンドレイジングHP: youcaring.com/williamleathers