ビジネスインタビュー:並木由美子さん DMZ, Global Programs Specialist|特集「AI新天地カナダ」北米最大規模のテックカンファレンスCollision2023から見えるフロンティア
世界ナンバー1の大学併設インキュベーターにも選出されたことがあるトロント発のインキュベーター「DMZ」。カナダで最初のインキュベーターパートナーとして「JETRO Global Acceleration Hub」にも参画
2010年に創設以来、13年間で800社以上のスタートアップを支援してきた「DMZ」。本社はトロントにあるが、アジア、アフリカ、中南米10か国以上で様々なプログラムを展開し、各地の起業家を支援している。その「DMZ」でグローバル・プログラム・スペシャリストとして日系企業などを担当している並木さんにお話を伺った。
Q1 老舗のトロントのインキュベーターとして知られるDMZですが、カナダや世界におけるこれまでの取り組みや実績などを教えてください。
DMZは本社はトロントにありますが、アジア、アフリカ、中南米10か国以上で様々なプログラムを展開し、各地の起業家を支援しており、これまで約25億ドルの資金調達支援、約5千の新規雇用を生み出し、コミュニティーにも貢献しています。
UBI Globalという調査会社のランキングで2015年から2021年まで世界トップ大学併設インキュベーターに選出されています。現在までに、DMZがカナダ国内で唯一これら認定を受けたインキュベーターです。
この実績により、2022年からは全世界のインキュベーター・アクセラレーターをリードする存在として、ランキングを選定するパートナーとして参画しています。
Q2 今年度はJETROの日系スタートアップの海外展開支援プログラムにおいてトロント事務所とパートナーシップを組んでおりますが、具体的な取り組み内容や実績などを教えてください。
DMZは今年5月にカナダで最初のインキュベーターパートナーとして、「JETRO Global Acceleration Hub」に参画し、現時点で8社の日系スタートアップを支援しています。具体的には、DMZが提携するメンターからのメンタリングセッションの提供、北米でのコネクションを増やしていただくために、DMZネットワークのスタートアップやパートナー組織を紹介しています。
また、CollisonのDMZブースでは、JETROスタートアップのピッチイベントを開催し、より多くの投資家、企業担当者、スタートアップなどに北米のキープレーヤーに日系スタートアップを紹介する機会を作りました。
Q3 日本では「Landing Pad Tokyo」という中小企業の技術の先進化を進めるインキュベーターと提携するなど、最近日本への展開や日本企業とのコラボレーションに積極的なDMZですが、具体的な取り組み内容や実績などを教えてください。
3つの取り組みを紹介させていただきます。「Landing Pad Tokyo」とは、日本の中小企業のイノベーションを推進すべく、DMZの持つ成功事例の共有、アクセラレーションプログラム構築、カナダのスタートアップや最新技術、経営手法の紹介などを行ってます。
次に、スタートアップ業界の男女格差を解消すべく、「EDGEof Innovation」と共同で、今年3月東京にて女性起業家向けのイベントを行いました。前半ワークショップでは、女性起業家が抱える課題とその解決策について議論し、後半のネットワーキングでは、参加者同士が交流できる場を提供させていただきました。
最後に、山梨県立大学の戸田先生のグローバルビジネススキルのクラスで、DMZが提供するオンライン学習コンテンツLaunchpadを使用いただくなど、アントレプレナーシップ教育の支援もしています。
Q4 今回のコリジョンでの活動内容や全体的な感想を教えてください。
DMZは今回コリジョンで過去最大規模のブースとステージを設け、DMZステージでは3日間を通して23のセッションを開催し、グローバルスタートアップ、パートナー企業、投資家、その他業界リーダーに登壇いただきました。その1つとして、JETROスタートアップ9社によるピッチイベント行い、多くの観客に日本のスタートアップを知っていただく機会を作ることができたと思います。
また、コリジョン前日には「DMZ Insiders Event」という招待制のイベントを開催し、200名以上の投資家やスタートアップ、そして「Globe and Mail」の編集長David Walmsley氏をはじめとする業界のリーダーに参加いただきました。
イベントのメインコンテンツとして、DMZが支援するテックスタートアップ9社によるピッチコンペティションを行い、「Chexy」のLiza Akhveldzian氏が見事優勝し、賞金5万カナダドルを獲得しました。「Chexy」は、入居者が家賃を滞りなく支払うことで報酬を得ることができるカナダ初の決済プラットフォームを開発しています。
準優勝は、顧客データを収集・分析する革新的なデータプラットフォームを開発する「Formaloo」のFarokh Shahabi氏で、賞金1万5千カナダドルを獲得しました。これら以外にも様々なイベントを開催し、非常に充実した1週間でした。また、多くの日本人起業家、投資家、企業の方にもお会いすることができ、トロントが注目されていることを嬉しく思い、またさらにトロントの魅力を知っていただけたのではないかと思います。
Q5 スタートアップ市場におけるトロントを含めたカナダの立ち位置や将来性・展望はどのように捉えておりますか?
カナダの人口は日本の半分以下ですが、北米全体で考えると日本の3倍以上あり、いまも成長を続けています。トロントからアメリカの人口60%強に飛行機90分以内でアクセス可能です。また、カナダは移民政策に非常に積極的で、海外から有望なスタートアップを呼び込むことも政策の1つとしてうまく機能しています。そうしたスタートアップの北米でのビジネス展開をスムーズに進められるよう、DMZをはじめとする支援機関が手厚くサポートしています。
さらに、カナダは次世代の起業家を育成することにも非常に積極的で、DMZも学生向けにアントレプレナーシッププログラムを多数展開しています。これらの点で、トロントは今後も成長を続けるマーケットになると考えています。個人的な実感として、トロントはシリコンバレーなどアメリカの都市に比べて、安全で物価も安く、外国人にも非常に優しく、北米進出を検討するスタートアップの最初の拠点として非常におすすめです。
Q6 DMZでは日本でのビジネス拡大に向けたパートナーシップやプログラム構築の業務などを担当されている並木さんですが、これまでのご経歴やDMZで働く意義などを教えてください。
日本では、楽天株式会社でECコンサルタントとして楽天市場の出店企業のサポートをし、その後、アメリカン・エキスプレスにて、オンラインでの新規会員獲得を行うチームでアフィリエイトチャネルの責任者を経験しました。
その中で、職場での男女格差や大量にものを消費し廃棄する社会へ疑問を抱き、サステナビリティについて学ぶべくカナダに来ました。トロントのカレッジでは「Sustainable Business Management」を専攻していました。DMZでは様々なコミュニティー(女性、黒人、移民等)に向けたプログラムを展開していたり、気候変動関連の問題に取り組むスタートアップを支援するプログラムを構築していたりと、非常に刺激的な環境で毎日働いています。
Q7 ビジネスにおける日本の現状をどのように捉えているか、また日本企業への期待などがあれば教えてください。
日本は大きな経済を持っており、まだその中だけでビジネスが成り立つ環境です。ただ、日本は世界的に他にない非常に強いブランド力を持っており、それをぜひ最大限生かして、さらなる成長を目指して、世界に挑戦してほしいと思います。DMZのプログラムには全世界のスタートアップから応募があり、実際に参加している起業家は国籍もバックグラウンドも様々です。その中で、まだまだ小さい日本発スタートアップの存在感が今後高まることを期待しています。カナダは、日本よりも新しく来る人や挑戦することを歓迎し、失敗を許容する社会だと感じます。日本では想像もできなかった出会いや発見ができるのではないかと思います。
DMZ
トロントメトロポリタン大学を拠点とする世界有数のスタートアップ・インキュベーター。次世代のテック起業家に、影響力のあるスタートアップを立ち上げ、拡大するために必要なツールを提供。顧客、コーチング、資金、コミュニティーへのアクセスを提供し、それぞれのスタートアップが次のマイルストーンに到達できるよう、カスタマイズされたプログラムを通して支援を行っている。