ソチ五輪金メダリスト羽生選手専属のマッサージ・セラピストが教える身体と健康 #01
青嶋 正
RMT:カナダ公認マッサージセラピスト / 日本オリンピック委員会 日本スケート連盟の強化スタッフ
皆様こんにちは。トロントで指圧鍼灸のクリニックを約20年余り経営しておりますが、日系コミュニティにおいては思いのほか知名度が低いといったご指摘を頂きこの度、コラムを書かせて頂くことになりました。私がこの仕事を続けてきた中で、様々な症状を訴える患者さんから得た情報を、今後皆様の生活に直接お役に立てて頂けるよう、出来るだけ簡単な形で情報発信して行きたいと思います。
私が数多くのアスリート達を診てきた中で、人の体が訴える症状というのは時として本人も感じていない意外な部分からの影響を受けていることが多くそこを無視して根性や忍耐という名の下に体や精神を酷使して最悪の結果を招くというケースを幾つも見てきました。自己分析力を持たないと、人の言いなりになり、本人が気付かなければいけない部分を見逃して故障に繋がるということです。
アスリートの問題は単に使いすぎた身体の問題だけではなく生活環境、人間関係等も含む様々な問題が含まれることに気が付いたので、様々な角度から治療計画をたて、必要であれば他分野の専門家に助けを求めたり、アドバイスを受けるというスタイルが自然と確立されました。
余談になりますが、オリンピックを通じて非常に注目度が高いフィギアスケートの分野で、過去20年間に行われた5度のオリンピックに合計7人のオリンピアンを送り込み 、今回金メダルを勝ち取るまでに、コーチや振付師等とは別に、直接スケートとは関係のないプライベートな部分で選手のサポートを担ってきたメンバー、“金メダルお助けブラザーズ”、略してKOB50を紹介します。50というのはメンバー全員、私も含めて50歳代のオヤジ達という意味です。
- 不動産エージェント: 羽生選手もトロントの父のように慕う最も信頼を置く存在。
ビザに制限があり、慣れない土地での暮らし振りを考慮しての住まいのアレンジから始まり、選手の知名度が上がるに連れてボデイーガード的な役割。生活面でのアドバイス、お世話そして時には送迎等も頻繁におこなっている。 - 別種目のアスリート: 過去2年間スポーツマンシップを羽生選手に伝授し、スランプから彼が抜け出すきっかけをつくり、金メダルを勝ち取った今でも練習の原点を見出してくれたと羽生選手から感謝されている。
- 心理療法士: 浮き沈みの激しい時から心のコントロールの仕方を伝え、強いストレス下にある選手の心の支えとなり、癒しの存在として頼りにされている。
- 鍼灸指圧マッサージ師仲間: 選手の体調等、情報を共有し私のスケジュールが合わない時や緊急時にはリリーフとして完璧な施術を行ってきた影の功労者。
- 等など他にも多くの方々の助けとチーム力のおかげで、ソチオリンピックでは、7人目にして金メダルという結果につながりました。
私の元にはアスリートだけではなく “待った無し”の治療を 求めて色々な分野で活躍する人達が訪れます。
例えば、
外科医:手術が続いて目が霞む、今日も手術があるがなんとか視野を回復して欲しい
ピアニスト:明日リサイタルがあるが小指が動かなくなった、小指を動かして欲しい
ハリウッド女優: 風邪をひいたが撮影があるので2時間だけ鼻水を止めて欲しい
バレリーナ:今夜ステージがあるのだが、股関節が動かなくなった、なんとかステージに立たせて欲しい。
ご紹介するときりがありません。
この様な、緊急時にも多方面から得た情報力そしてチーム力を生かした的確な対応が可能となった現在、良い結果を出して各方面から喜ばれています。
今後このスキルを、羽生選手のように特定の選手だけではなく、色々な分野で活躍されている方々に役立たせて頂けたらと考えております。次回は具体的にどのようなアプローチをするのか、また羽生選手を具体例にあげ、昨年度行われたフィギアスケートの世界選手権の様子を治療師、トレーナーとしての視点からお伝えしたいと思います。