カナダ人 酒ソムリエが魅了される日本酒の世界 Micheal Tremblay-Ki modern Japanese + bar
マイケルさんと日本酒との出会いは約4年前、現職場であるKi modern Japanese + barに就職したのがきっかけ。もともとワイン好きのマイケルさんはワインと共通点の多い日本酒に興味を抱き始めたのは早々、時間がかからなかったそう。ピュアでいろいろな表情を見せてくれると、それからというもの純粋で気取らない日本酒への好奇心は加速し、日本酒ソムリエの資格を取得、完全に日本酒の虜になっているという。
マイケルさんは日本酒ジャーナリスト・日本酒の伝道師と呼ばれているジョン・ゴントナー氏が創立したThe Sake Education Council(SEC)で受講、昨年は日本で受講し唎酒師の試験に見事合格、Certified Advanced Sake Professional(ASP)を取得。試験では一日で150もの日本酒のテイスティングをしたという。
●インタビューの最中、彼がよく口にした言葉は
「繊細」。
「日本酒は甘口・辛口とよく耳にするように様々な表情を見せ、私たちを楽しませてくれます。」なぜ、繊細なのか・・・それは日本酒の成分に占める水の割合が半分以上の80%ということに関係する。このことから酒造りにおいて水が品質を左右する大きな要因となるのが分かる。水源のほとんどは伏流水か地下水などの井戸水で、都市部の醸造所などでは、水質の悪化のために遠隔地から水を輸送したり、良質な水源を求めて移転することもあるという。
「日本酒の醸造は水にあり。日本酒は人間の力も大いにありますが、雄大な自然なしでは生み出せない、繊細さがあります。」と日本酒の存在を非常にマイケルさんはリスペクトしている。
●唎酒師の役割は
「プロフェショナル」「探求精神」「創案」
「皆さんもレストランで、お勧めのお酒や、食事に合うお酒を店員に聞いた経験があると思います。その要望に応え、お客さんを満足させ笑顔にするのが一番の仕事。やはり、日本酒初心者はもちろん、日本酒を良く知っている方も自分に合うお酒を見つけて欲しい、食事に合うものをあしらって欲しいというリクエストは常です。その質問に満足する答(お酒)を俊敏に対応することは容易ではないですが、でもそれを可能にするのが唎酒師の仕事です。」勉強熱心なマイケルさんは、その言葉を証明するかのように、インタビュー翌日にはカナダ国内の新しい日本酒に出会うために旅立った。また去年も日本で数か所の蔵元を廻ったが、今年も更なる日本酒に巡りあうため、日本へ行く予定だという。
「お店の日本酒の仕入れをは独自で行っています。さらに3週間ごとに自分がお勧めのお酒を揃え、提供します。お酒に合うレシピや日本酒を使ったカクテルも考案し、時にはレストランのメニューになることもあります。最近はHot Sake(熱燗)を使ったカクテルが人気です。」そんな研究熱心なマイケルさんの今のお気に入りの日本酒は北海道の男山だそうだ。
また日本酒イベントにも力を入れており、新しく発足されたSake Institute of Ontarioを通し日本酒の素晴らしさを伝えている。
「つい最近では、日本酒とnon-Japanese Foodのイベントがあり、日本酒=日本食ではなく、各国の料理と日本酒との相性を図るべくイベントで日本酒はどんな料理にも合うと太鼓判を押されていました。。日本酒とチーズの相性は抜群だそうです。」
そして、5月には100種類以上の日本酒を集めたイベント「Kampai Toronto」が行われ、マイケルさんの日本酒セミナーなども開催される。(詳細は9P参照)
「私が働くお店Ki modern Japanese + barには常時、40種類もの日本酒があり、日本の各地のお酒が揃っています。お店には私以外にも日本酒ソムリエの資格を持つスタッフが8人います。スタッフへの日本酒教育は欠かせません。」という姿勢は日本酒をカナダに広げていこうとする本気を感じさせてくれる。
最後に唎酒師として一番の苦労を聞くと、「日本語」という答えが返ってきた。「やはり日本語をしっかり理解していないと日本酒の深みと特徴を説明できず、日本語の美しい表現を伝えられません。例えば、純米吟醸を「Junmai Ginjyo」として説明するのではなく、「純米吟醸」の本来の意味を英語で説明しなくてはなりません。それを伝えることはやはり日本語を勉強しなくては真の理解につながらず、共感していただけないと思っています。なので今年から日本語を習い始めました。」
日本酒に出会い、魅せられ、日本酒から日本を学ぶマイケルさんの姿勢は、多くの日本酒の作り手や日本酒ファンの共感を呼び続けるであろう。そして日本酒の奥の深さをあらためて感じさせてくれる店がここトロントにある限り、トロントでも多くの日本酒ファンが増えてくると確信するのであった。
■ 日本酒ソムリエ
日本酒サービス研究会・酒匠研究会認定の資格「唎酒師」(ききさけし)のことを指す。またその上位資格「酒匠」(さかしょう)は日本酒、焼酎のテイスティング専門家である。現在、唎酒師の有資格者は28,642名、酒匠は155名。(全て日本語での試験)英語で唎酒師の資格を取得できるのはアメリカ人日本酒ジャーナリト、ジョン・ゴントナー氏創立のThe Sake Education Council(SEC)で受講、試験を受けなければならない。
■ John Gautner(ジョン・ゴントナー)
1962年アメリカ・オハイオ州生まれ。1988年に来日。現在、日本在住。日本酒ジャーナリスト・教育者であり、日本酒の伝道師と呼ばれ、外国人の日本酒エキスパートとして世界に広く認められている。純粋日本酒協会から酒鑑定技術の正確さを認められ、「利き酒名人」を受賞している。また日本人以外では唯一の品評会の審査員を務めている。
Interview : 入交ひとみ