赤と青とネオンとジャズと|トロント音楽散歩 with Cecili

土曜の夜も深まり、通り沿いの店々の灯りが溢れ、街全体が熱を帯びていくころ。友人の、売れっ子で引っ張りだこのジャズ・トランペット奏者が出演するということで、約束の時間をとっくにすぎた時刻をさすスマホのロック画面に焦りながら、クイーンストリートの外れにあるバーへと急ぎ足で向かっていた。「ごめんちょっと遅れちゃう!」手元で急いでメッセージを打つ。行き交う人の頬が明るい。すれ違いざまに流れてく声が幸せのかけら。それにしても結構歩かせるな。トロントの片隅にこんな場所があるなんて、今まで知らなかったのが不思議なくらい。
店の前に着き、くすんだ窓越しに中をのぞくと、90年代のニューオーリンズを描いた映画のワンシーンが脳裏をよぎった。煤けた壁、剥がれかけたペンキ、赤と青のくすんだネオン。お酒と人と音楽の匂いが染み込んだような空間に、ああもうこの夜最高になるなと、確信してしまっていた。
扉を開けると、案の定の大混雑。赤と青のネオンで“Jazz Poetry Cafe”と描かれた古いフォントの看板が、薄暗い店内にぼんやりと浮かび上がっている。人々の熱気とざわめき、そしてリズムが渦を巻いていた。早めに到着していた友人は、どうにか席を確保しようと奮闘してくれていたらしい。店の端っこの椅子にちょこんと腰掛け、雑踏に肩を窮屈そうに押されながら、私を見つけて安心したように小さく手を振っている。ありがとう友人。でも正直、立ち見でもよかったんだ。この密集感と肌で感じる雰囲気が好きだから。
その夜のステージは、クラシカルなスウィングやクールジャズのような“洒落たジャズ”ではなく、ジャズ・ファンクやアシッド・ジャズが中心。エレクトリックな音が混ざり合いながらも、しっかりとグルーヴする生バンドがフロア全体を巻き込んでいく。踊れるジャズ。都会的でエネルギッシュなジャズ。それでいてどこか懐かしいレトロ・モダンな響き。私みたいなオタクなミュージシャンにとってはたまらない。
ニューオーリンズのジャズやファンクのフレーズをサンプリングして、そこにビートを重ねて。ヒップホップって、こうして生まれてきたんだな、その誕生の瞬間を目の当たりにしているみたい。酒屋に流れる音楽が、時代を取り込み、声になって街を震わせたその瞬間。トロントの片隅の今を生きる私たちが、音楽を介して店ごとワープして繋がってしまったみたい。ああーー音楽って最高だよなあ。このまま、この夜と音楽に、まるごと私を飲み込んでしまってほしい。






