揺らぐアイデンティティーとつながる世界 日系社会の いまを考える|カナダ新移住者とトロント日系コミュニティー
姉妹都市交流の現場で見える、次世代と故郷への思い
ここでは何度か書いていますが、私はトロント日系社会での活動以外に、2015年から日本の生まれ故郷の市で国際交流協会の理事を務め、姉妹都市交流事業の委員長としても活動しています。高校生レベルでの文化交流を目的に、市内4校から隔年で約20名の生徒を姉妹都市であるアメリカ・アラバマ州タスカルーサへ派遣し、またタスカルーサの高校からも約20名の生徒を受け入れています。
この姉妹都市交流のメインイベントである高校生の交流事業を通じて、私は毎回多くの学びを得てきました。自分の故郷をこれまで以上に大切に思う気持ちも育まれてきたように思います。しかし今年は、これまでとは少し異なる思いを抱えています。6月末に予定されている受入事業のため、一時帰国する予定ですが、この10年間で最も気の重い受入になりそうです。
カナダ在住25年を過ぎ、これまでは、子どもたちのアイデンティティーと向き合うこと、次世代のために強い思いを持って日系社会での活動に取り組んできました。けれども、子どもたちが成長して親元を離れ、また自分自身も人生の半分以上をカナダで過ごしてきた今、アメリカとカナダを取り巻く複雑な関係の影響を受け、初めて自分自身の中にも複雑な感情が生まれていることに気づいています。ここへきて、あらためて自分のアイデンティティーがこれほどまでに揺さぶられるものなのかと、戸惑いを覚えています。
ブラジル日系社会との出会いが示す「つながり」の可能性
そんな折、先日、大変貴重な出会いに恵まれました。カナダ岐阜県人会会長のドルハン千代さんの紹介で、私が会長を務めるトロント都道府県人会連合会に関連して、ブラジル岐阜県人会会長の長屋充良さんと知り合い、世界発の県人会の連合会であるブラジル県人会連合会はなんと47都道府県すべての県人会がそろっていることを教えていただき大変驚きました。2022年に設立された私たちトロントの連合会は、古くからある県人会と新しくできた県人会を合わせて約30県ほどですが、ブラジルの連合会は今年9月で60周年を迎えるとのことでした。
日本からの移民118年目を迎えるブラジルの日系社会は、4世、5世、6世の世代が中心となる、長い歴史と大きな規模を持つコミュニティーです。その一方で、日本語が少しずつ失われつつあるという課題も抱えています。対して、私たちの県人会の多くは戦後移住者によって立ち上げられたものであり、次世代は「新日系2世」とも呼ばれ、日本語と英語を自然に使い分けながら、着実にコミュニティーを広げています。
このように、両者は歴史的背景も世代構成も異なり、その性質も大きく異なります。しかし、それでも根底にあるのは、同じ故郷を思う気持ちであり、次世代が自分のルーツを知るために、日本とつながりながら架け橋の役割を果たしていこうとする思いです。その点においては、両方の連合会がまったく同じ方向を見ていることを実感しました。


ブラジルでは、政府関連団体、コミュニティー団体などの日系団体が一丸となって日本各地の良さを伝える「日本祭り」「ふるさといいもの展」という20万人規模の屋内イベントを開催するなど、その活動の規模は私たちトロントの日系社会とは比べものにならないほど大きなものです。それでも、多様化する日系社会であることには変わりのないこの時代にあって、横のつながりを大切にしながら人と人、日本とブラジルの結びつきを育んでいるブラジルの日系社会の温かさに、私は深く感動しました。


そして今回の出会いは、これからの県人会連合会の存在意義について、あらためて考え、語り合うことのできた大変貴重な機会でもありました。異なる歴史を持つコミュニティー同士が互いに学び合いながら、それぞれの地域で次世代へ何をつないでいけるのか。その問いに向き合うことの大切さを、あらためて強く感じています。

文章=原あんず
トロント都道府県人会・連合会会長
全カナダ日系人協会(NAJC)
新移住者委員会(JNIC)委員長





