贈りなおし|金継ぎ開拓民のお茶休憩
2024年もとうとう師走となりました。ホリデーギフトやお歳暮を探されている方も多いのではないでしょうか。カナダに来て感銘を受けたことの一つに、多くの方が金継ぎのお直しをギフトとして活用していることがあります。今月はその中のエピソードをご紹介いたします。
ある日、南米系の男性が、注ぎ口が破損した醤油差しをお持ちになりました。それは特に目立った特徴のない、真っ白な磁気の大量生産品でした。そして、こう仰いました。「金継ぎでは、金で直すことが一般的だと思います。けれど、これは銀で直していただけませんか?この醤油差しはありふれたものですが、私と妻がトロントで結婚し、新しい生活を共に始める時に揃えた、思い出の詰まった品なんです。今年、私たちは銀婚式を迎えます。様々な困難を一緒に乗り越えてきた妻にこの醤油差しを贈りなおしたいのです。」
なんて粋でスイートなお話でしょう!私はその言葉に心を打たれ、心をこめてお直しさせていただきました。「壊れたから新しいものを贈ろう」ではなく、「一緒に住み始めた時の気持ちにこれからの生活を重ねてゆこう」という発想。これは、今までの日々の暮らしに根ざした、等身大でありながらこれ以上にない特別なギフトです。金継ぎ師として25年間の夫婦の思い出に触れ、その節目にこうして関わらせていただけたことは大変光栄なことでした。
一度壊れたものを金継ぎして誰かに贈りなおすという発想は、日本ではあまり見られないものでした。日本において、壊れたものや古いものを人に渡すことは基本的に失礼に当たると考えられており、また、金継ぎはちょっとお洒落で実用的な修理の手段に過ぎず、修理とはパーソナルな領域で完結するものだからです。
一方で、第一回のコラムでお話ししたように、海外の方々は金継ぎに対して修理以上にレジリエンスの象徴などの印象を強く持っています。そのため、金継ぎ自体に深い意味があり、贈り物として選ばれるのだと感じています。
それは、ハイコンテクストな贈り物であり、寧ろ日本の古典に描かれているような粋な振る舞いを思い起こさせるものでもあります。プレゼントそのものに深い意味を込めて送るというのは、少し照れくさいかもしれませんが、こうした感性に立ち返ることも、現代の日本人にとって新鮮で素敵なことではないでしょうか。
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