羽生結弦選手などが所属する「トロント・クリケット・スケーティング・アンド・カーリングクラブ」が令和元年度外務大臣表彰を受章
令和元年度外務大臣表彰受賞のトロント・クリケット・スケーティング・アンド・カーリングクラブ(以下同クラブ)の表彰伝達式が、9月18日、同クラブ内のメインラウンジにて行われた。同クラブは1968年から日本人スケート選手を受け入れて指導を行ってきた他、日本への指導者の派遣を行うなどと日本スケート界の発展に寄与してきた。
また、トロントを訪れた日本選手をメンバーがホームステイ等で受け入れるなど日本との親交を深め、スポーツを通じた日本とカナダとの相互理解の促進、友好関係の醸成への長きに渡る貢献が高く評価された。
故三笠宮崇仁親王殿下や元フィギュアスケート選手の樋口豊氏との交流
式の冒頭では、同クラブに所属し親交の深い元フィギュアスケート選手の樋口豊氏からの手紙が代読された。樋口氏は1968年グルノーブルオリンピック出場後に単身でカナダに渡り、同クラブに所属しスケート漬けの毎日を過ごした。グルノーブルオリンピックでマッギルブレー氏の滑りに衝撃を受けた樋口氏は、どうしてもこのクラブでスケートがしたいと強く感じたと当時の思いを綴った。英語の不自由だった当時の樋口氏を、同クラブの仲間たちが温かく迎え入れてくれた4年間の思い出を振り返り、この経験を自らの教え子にも共有したいと同氏は語った。樋口氏は現在も指導選手たちをトロントに送り、技術の向上はもちろん同クラブでの活発な交流も重視しているとの積極的な姿勢を示した。
続いて同クラブに所属していたデビッド・マッギルブレー氏が登壇し、樋口氏と切磋琢磨した思い出を語った。当時の樋口氏を振り返り、マッギルブレー氏は常に全力で誰よりもストイックにスケートに打ち込む彼を良きライバル、そして友人だと語った。スケートという競技を通じ、互い新しい環境でスケートに真摯に向き合う樋口氏の姿に感銘を受け、良き競争相手として2人は打ち解けたという。
同クラブの日本との交流の歴史は長く、過去には故三笠宮崇仁親王殿下も同クラブを訪問され、アイスダンスを一緒に楽しんだという。当時クイーンズ大学に留学中のご子息・故高円宮憲仁親王殿下を訪れた際のご訪問であった。また、草の根レベルでの交流も盛んである。前述の樋口氏は日本に帰国後も、毎年夏にスケートの指導のために6週間ほどトロントに滞在していたという。近所のスケーターたちを同クラブの練習に誘い、多い時には16人ほどを連れてくることもあったという。樋口氏は同クラブで年々次第に多くのスケーター達の指導を行うようになり、スケーター達からは「お父さん」的存在として慕われるようになったそうだ。このエピソードから、50年以上続く樋口氏と同クラブの友好的な関係性がうかがわれた。
トレーシー・ウィルソン氏が掲げる「スケートの隆盛と競技を通じた国際的な友好関係の構築」
次の登壇者である日本人選手らを指導するウィルソン氏は、同クラブで一緒に指導に携わるブライアン・オーサー氏との目標である「スケートの隆盛と、競技を通じた国際的な友好関係の構築」に言及した。オーサー氏は羽生結弦選手やハビエル・フェルナンデス選手など世界トップレベルの選手を指導するコーチとして知られている。
もともとフリースケーターであったウィルソン氏は、初めて同クラブを訪れた際に出会った日本人選手たちの姿に感銘を受けたという。当時の日本人スケート選手は、多くの大会でスタンディングオベーションを受けるほどの技術の高さを武器にしており、そんな彼らと一緒にスケートができたことは大きな刺激になったと述べた。同氏は日本と同クラブの盛んな交流をこれからも続けていきたいと話し、若い日本人スケート選手に羽生選手を越えるぐらいの活躍を期待していると語った。同クラブで現在指導を受けている日本人若手選手らも式に出席しており、参列者は彼らにあたたかなエールを送った。
伊藤恭子・在トロント日本国総領事による祝辞と東京オリンピック2020乾杯酒「豊久仁」、スケートファンも喜ぶ「弓弦羽」と「伯楽星」の提供
続いて登壇した伊藤総領事は、同クラブの功績を紹介するとともに、今年度の外務大臣表彰受賞への祝辞を述べた。1968年の樋口氏の渡加から続く、スケートを通じた日本とカナダの友好関係の発展に言及し、今後もさらなる交流を促進してほしいと話した。同クラブの高い指導力や最先端のトレーニング設備、そしてあたたかいスケートコミュニティの存在がスケート選手らを惹きつけていると述べた。さらに、同クラブが行っているホームステイ等のスケートを超えた深い交流を紹介し、同クラブでスケートの指導を受ける若い日本人選手たちを会員らの家庭に受け入れるこの活動は、カナダ人の寛大であたたかな性格なくしては行えない非常にありがたい交流の機会であると感謝の意を表した。
また、式での乾杯には東京オリンピック2020での乾杯酒である福島産の泡酒「豊久仁」が用意されたほか、灘の「弓弦羽」と宮城の「伯楽星」の二種類。名前の元になった弓弦羽神社は、必勝祈願で有名な神社であり、また羽生選手の名前に似ていることからスケートファンにも人気の高い酒である。伊藤総領事は、「伯楽星」という銘柄の由来である伯楽(中国の逸話に登場する良馬を見分ける名人)と良馬の関係を同クラブと優秀なスケート選手になぞり会場を沸かせた。
終盤には表彰状・記念品の贈呈が行われ、日本とカナダのますますの友好関係を祈っての乾杯で式は締めくくられた。