トロントから震災・復興に 向き合う人々 武谷大介さん
遠足プロジェクトなど震災・復興を通した日本とカナダのアーティスト達の交流を手掛け続けている武谷さんに、2013年に宮城県女川町で約3週間の滞在を通して制作した作品への想いやこれまでの武谷さんの東北への取り組みなどへの想いを聞いた。
2014年度復興庁Revive Japan Cup アート部門グランプリを受賞
トロント在住の芸術家、武谷大介さん
今回、インスタレーション作品「明日に架ける橋」が復興庁Revive Japan Cupアート部門グランプリの受賞、おめでとうございます。作品を通して島民の方々の「自然を取り戻したい」という思いを表現されたとのことですが、武谷さんからご覧になって、どの程度、自然は回復されたと思われますか?
自然を取り戻すといったものではなく、橋を架けて島の未来の可能性を残したいという島の方々の思いを表現しました。島の方々は現在仮設住宅から復興住宅に移られています。しかし、浜で生まれ育った方たちが山の中腹部の住宅街に住んでいるという時点で、「取り戻す」ということではなく、新たな一歩を踏み出されているというような印象を受けます。
「明日に架ける橋」が完成された時の地元の方々の反応はどのようなものでしたか?
まず、広報などうまく出来ていなかったので、最初は、へんてこな人が、なにやらへんてこな事をやっているようだ、というような冷ややかな反応でした。それが約3週間、ほぼ毎日日の出から夕暮れまで続いているので、どうやらこれは何か作っているのだろう、という事で、車を停車して遠くから眺めるような人たちが出て来て、最終的には差し入れしてくれたり、井戸端会議的なこともたびたび起こっていました。また、完成品を見せるものではなく、作るプロセスを通して町に彩りを与える作品なので、最後の撤去の瞬間まで未完の作品でした。
一昨年、遠足プロジェクトを中心に、日本とカナダのアーティスト達の交流の場を設けられた武谷さんですが、その後カナダのアーティストの方達の震災に対する思い入れなどに変化はあったでしょうか?
遠足プロジェクトでは35組のカナダのアーティスト達が作品提供という形で参加してくれました(日本からも同数参加)。 2011年当時カナダ各地で義援金を集めるためのイベントが開催されていて、それらに関わった人たちをよりどころに、アーティストたちの参加がありました。そして、2013年には、東京の大きな現代美術の祭典である六本木アートナイト参加、被災地に滞在制作したアーティストも含めると総勢で12名も被災地に実際に訪れる事になりました。実際に現地を訪れたアーティスト達は作品として経験を具体化しているので一生ものだと思いますし、被災地の方たちにとっても涙するくらいの貴重な経験でした。現在の交流は個人レベルで行なわれているようですが、時間の経過とともに交流の幅はかなり狭まっているようです。関わり方の変化はあるが、思い入れは一生ものという感じでしょうか。
遠足プロジェクトは日本各地、または海外ではエキシビジョンとして展開されていますが、各地での反応はそれぞれどのようなものでしょうか?
日本国内では、ランドセルを背負うという多くの人たちの子どもの頃の記憶を呼び戻す部分が多々あり、参加者は楽しんでくれていたように思います。海外でも、作品と一体化して自分自身がアートになる事で、鑑賞するアートとは、全く異なった反応がありました。今後もどのような展開があるのか楽しみです。
アートを通じて震災復興の活動を続けられていらっしゃいますが、「アート」と「復興」を繋げることでどのような相乗効果が生まれているのでしょうか?
アートとは、その表現や制作過程を通じて、日常の「もやもや」の中に新たなひらめきを与えるものだと僕個人は考えています。例えば鮮やかな色彩、躍動感のある立体物といったようなアート作品特有のものです。復興のプロセスにおいて、インフラ整備などの行程でも、癒しを通じて町のにぎわいを取り戻すという点でも、明確にならない部分が沢山あるように思います。先の見えない不安に対して、間接的なモチベーションの底上げとなり、ひらめきを与えるのがアートであって、「復興のためのアート」となってしまうと、それはそれで異なった意味を持ち、ひらめきではなくなってしまうように思います。偶然のひらめきが結果として相乗効果になっている、というように感じます。
今後どのような活動を続けられたいと思われていますか?
今後は、遠足プロジェクトを多くの自然災害があった東南アジアにて『遠足プロジェクトアジア』として新たに立ち上げます。日本の震災からの復興の道程とアジア諸国でのそれとを共有できるのかどうか、現地のアーティストやキュレーターたちと話し合いながら、遠足プロジェクトの経験を活かしながら進めて行きたいです。東北の被災地では、震災から数年経った今、地元の方たちの自治的な復興が進んでいて、地域によって異なる課題があるようです。当時のような積極的な関わり方ではなく、時にはアートを通じて関わりながらも、遠くから見守って、あるいは復興を見届けたいと考えています。
武谷大介 Daisuke Takeya
武谷大介は、トロントを拠点に活動するアーティスト。現代社会の妥当性を検証するプロセスを通じて、その隠された二面性を作品として表現。ペインティング、立体作品、インスタレーションなどその作品形態は多様で、国際的に多岐に渡る活動を展開。展覧会に、福島ビエンナーレ2014(’12)、新宿クリエイターズフェスタ2014、六本木アートナイト2013(’12)、Artanabata 織り姫フロジェクト(仙台)、女川アートシーズン(宮城)、くうちゅう美術館(名古屋)、MOCCA(トロント)、国際交流基金トロント日本文化センター、在カナダ日本国大使館、ニュイブロンシュ(トロント、’06、’07)、六本木ヒルズクラブ、アートフォーライフ展(森美術館)、京都アートセンター、ワグナー大学ギャラリー(NY)、SVAギャラリー(NY)、ソウルオークション(韓国)、在日本カナダ大使館内高円宮殿下記念ギャラリー、セゾンアートプログラム(東京)、メディアーツ逗子など多数。今年は、トロント市内クリストファーカッツギャラリーにて個展開催予定
大地プロジェクト共同代表、遠足プロジェクト代表。過去にアートバウンド大使 、日系文化会館内現代美術館理事、にほんごアートコンテスト実行委員長、JAVAリーダーなど。カナダでのレプレゼンテーションは、クリストファーカッツギャラリー(www.cuttsgallery.com)、 著書に「こどもの絵(一莖書房)」。www.daisuketakeya.com