日本から震災・復興に 向き合う人々 庄司 克史さん
庄司 克史さん
宮城県出身のプロスキーヤーで、子供達と共にスキーを楽しむ取り組みなどを行うほか、FM仙台の復興支援ラジオ「繋ごう明日へ」パーソナリティーを務める。目力師範としても地域の人々とコミュニケーションを図り、様々な復興の現場に足を運ぶ。
震災直後から「和顔施」を通して震災復興に関わる活動をされていた庄司さんですが、「和顔施(相手を包み込む優しい微笑み)」に出会う前の被災地の皆さんはどういった表情をされていたのでしょうか?
直後は、喪失感、失望、不安、希望を見いだせない諦めた表情の方がほとんどでした。あるおばあさんは、「なぜ子どもたちが津波にもっていかれて、年寄りの私が生き残ってしまったのか?」と、自分の生かされた命さえも否定する方がたくさんいました。でも話を聴いているうちに表情が変わってくるんです。生きる意思が出てくるように感じになるんですね。相手の抱えている胸の内を聴いてあげることの大切さを痛切に感じました。
震災から4年経った今、人々の表情に変化はありましたか?良い変化、悪い変化、両方教えてください。
良い変化としては、生かされたことに感謝して前向きに生きている人たちの表情は震災前よりもイキイキしてることでした。逆に悪い点は、未だに被災者という意識が抜けきれない人がいることが残念です。残念ながらそういう方は孤立してしまっています。こういう人たちを救えるのが「和顔施」というコミュニケーションの考え方だと感じます。
復興支援の中で子供達と共にスキーを楽しむ取り組みもされていますが、震災直後から現在まで、子供達の表情には変化がありましたか?
直後の夏、冬のイベント出会った子供達は、まだ心を閉ざしたままの子供達もいましたが、年を重ねるごとに、表情に明るさが戻ってきています。いい意味で忘れることも大切なんです。そして子供が一番、周りの環境への適応能力が高いので、大人は良い環境作りをしなければいけないと感じます。
被災地では、被災で負った心の傷が未だ残っている方や、避難生活では住み慣れた家、土地を離れて住まなければいけず、更なる苦難を強いられている方も多いと思います。今被災地ではどういった心のケアが必要だと思われますか?
まもなく震災から4年も経つというのに、平坦に整地されたままになっている沿岸部の、何も進んでいない現状を目の当たりにします。それが当たり前の感覚になってしまうのがもっとも怖いです。取り残されている、周りから忘れられてしまっていると感じている方、進まない現状から孤独感を感じている方へは、震災直後にも感じた、現在の心の状態を聞いてあげる「傾聴」が大切だと感じます。この4年で問題点は変化してきています。その変化に合わせて「傾聴」の文字通り、傾けて聴く。心を傾け、相手の心の状態に合わせて、声や表情を合わせる全身を使って聴くことで、たくさんの事を話し出してくれます。みんな自分の心を分かって欲しいんです。
笑顔を作るのすら大変な状況の中、被災地での非言語コミュニケーションを通じての研修は講師の庄司さんにとっても大変なお仕事だったと思います。研修中はどうやって、人々の心を前向きにさせたのでしょうか?
コミュニケーションにおいて一番大切なことは、“相手の気持ちを汲み取ることが先”ということです。相手の心の状態を、表情や声や姿勢から汲み取り、その人の心に合わせた、表情や声や姿勢を意識すると双方向性のコミュニケーションのキャッチボールができるんです。そうすると、自分の心に伝えたい気持ちを話してくれます。その気持ちを聴いてあげること。言葉だけを聴くのではなく、相手の心に合わせ全身で、五感で「聴いているよ」と聴く姿勢を見せることが一番喜んでいただいたことです。この研修を被災地の仮設住宅を管理するスタッフの方々へ行いました。行政と市民のつなぎ役の方々ですが、大変苦労をされていました。スタッフさん自身も被災している方々でしたので、複雑な心境だったと思います。研修ではコミュニケーションのキャッチボールの大切さ、「傾聴」という、心と体を傾けて五感で聴くトレーニングを行ったら、自分のコミュニケーションはドッチボールになっていたことに気づいた方がほとんどでした。一方通行のコミュニケーションだったのです。研修後の意見では、「聴いているつもりでした」「声をかけづらい表情をしていました」「相手の心を汲み取っていませんでした」などなど。その後実際に仮設にお住まいの方々に「傾聴」をやってみたら、「苦情がうまく収まりました」「相手の表情が明るくなりました」「挨拶が増えました」と効果が出ていました。そして何より、スタッフの方々の表情が明るくなったのが一番だったようです。言葉だけのコミュニケーションではなく、五感で感じてもらう非言語コミュニケーションは、今後も被災地の方々へ伝えていこうと思っています。
庄司 克史さん
一般社団法人 コミュニケーション教育協会副理事長 目力師範 FM仙台 復興支援ラジオ「繋ごう明日へ」パーソナリティー コミュニケーションを“見せる化”する、自分の心を“見せる化”することで人間関係がとてもスムーズになると説く。その中でも最も大切なのが目の表情で、目力トレーニングという研修を担当。また現役のプロスキーヤーという経験を生かして、冒険から学んだ危険察知能力というテーマで企業、学校、PTAでの講演活動も積極的に行っている。