Qinya Liu博士
カナダの地震事情は?!トロント大学で地球物理学を教えながら、地震関連の研究を続ける
Qinya Liu博士 インタビュー
地球物理学の中でも地震学を専攻し研究しているLiu博士。トロントに地震がないというのは本当なのか?
建物の安全性や政府の取り組み、カナダ国内の他の地域の地震についてなど、カナダの地震事情について伺いました。
1. 日本と北米での地震の起こり方に違いはありますか?
地震発生の原因は日本も、北米も違いはありません。地球上にはプレートといわれる大小様々な岩盤が敷き詰められており、大多数の地震はそのプレートの境界線上で発生します。日本を含め世界で起きる大地震は一つのプレートが別のプレートの下に引きずり込まれ時に生じた歪みが戻ろうとする時に起こります。2つ目は隣り合ったプレートが摺り合わせるように動き、時に大きな衝撃を生み出す時に地震が発生します。有名なのはカリフォルニアにあるサンアンドレアス断層です。3つ目はプレートが離れ合い、隙間にマグマなどが入り込む際に発生します。これは主に海底で起こります。この3つが主な原因で、他にもプレート内地震というものもあります。これらはプレート境界地震に比べ数も少なく、規模も小さいです。
2. トロント近隣にも地震が発生する可能性はありますか?
トロントを震源とする地震はほとんど発生しません。ですが、西海岸のバンクーバーに比べると数も規模も少ないですが、トロントでは地震が全く起きない、というわけでもありません。トロントは安定したプレートの上にありますが、ケベック地方を中心に地震が観測されており、その揺れをトロントで感じることも多々あります。セントローレンス川、オタワ川北部を中心に十数年に一度の割合でM5程度の地震が起こっています。海岸線沿いほどの大きな地震ではないですが、2010年にケベック地方で起きた地震ではトロントでも強く揺れを感じましたね。揺れを感じることは時々ありますが、物理的被害はさほどありません。
3. 地震が起きた時の対処法は?
地震が起きた際の対処法は世界的に同じだと思います。行っている作業を中断すること、テーブルなどの下に隠れて身を守ること、そして揺れが収まるまで待機することの3ステップが重要です。揺れている最中に落ちてくる物による怪我が一番多いので、テーブルなどの下で頭を守るだけで怪我の可能性が大きく減ります。地震に対する準備という面では精神的に地震が起きた時にパニックにならないように心掛けること、救急セットとサバイバルセットを用意し、いざ水道や電気などのライフライン復旧に時間がかかっても大丈夫なように備えることですね。
ただ、実際は私も含めトロント市民は特に何も用意していないと思います。やはり地震の可能性が低く、ハリケーンやアイスストームは予測できるため、必要になったら準備するといった感じです。オンタリオ州では特に大きな取り組みをしている訳ではないですが、ブリティッシュコロンビア州のように地震が多発している地域では、学校やコミュニティーで避難訓練を行ったり、非常時に対する緊急セットの備蓄を奨めています。このように州によって自然災害への対策は違ってきますね。
4. トロントの建物の耐久性はどうですか?
カナダの建物に関する耐震性というのは州によって違います。トロント市民が古くアンティーク調の建物に住む傾向があるのは、ここでは地震の危険性がないと考えており、耐震構造に対する基準もさほど厳しくないからです。中には60、70年代に政府が基準を定める前からある家もあり、本来ならば持ち主が補強する必要があるのですが、やはり地震が起こる可能性が低いことから、補強を行っていない家庭があることも事実です。もちろんバンクーバーのように大きな地震が起こる可能性のある州ではより厳しい基準が定められています。
世界の他の地域でもそれぞれの地震発生の頻度などから基準が定められていると思いますが、日本の耐震構造は世界でもレベルが高いです。先の東日本大震災でも地震そのものによる被害はとても少なかったように思えます。ただ、津波という二次災害が今回の不幸な出来事を引き起こしてしまいました。2004年のスマトラ沖地震、2011年の東日本大震災での津波から世界中の研究者は多くを学び、今後より被害を減らせるように日々努力しています。
5. スマトラ沖地震や東日本大震災はカナダ西海岸の地震と違いはありますか?
これらは同じタイプの地震です。どれも1つのプレートが別のプレートの下に潜り込みその歪みから地震が発生します。このようなタイプの地震が歴史上でも大規模地震といわれるM8.5以上の地震を引き起こします。さらにこれらの地震が海岸線近くで発生すると、津波のような二次災害を引き起こします。
バンクーバー沖でも過去に大規模地震が起きた、という説があります。1700年代で当時カナダ側にはあまり人は住んでいませんでしたが、その地震によって引き起こされた津波が日本へ届き、日本にはその記録が残っています。それを元に木の年輪など科学的にも地震が起きたことが検証・証明されています。このような大規模地震は一定期間の間隔を空けて繰り返されており、西海岸の地震は300年から700年周期で巡ってくると推測されています。もし、300年周期だとしたらいつ起きてもおかしくないのですが、それが数十年後になる可能性も一世紀後になる可能性もあります。他の自然災害と違い明確にいつ起こるのか推測できないのでいざという時に備える他、適切な対策をとることはとても難しいです。
6. TORJA読者に地震に対する心構えを教えてください。
トロントは比較的に地震の危険性は低く、準備を忘れがちですが他の自然災害対策も含め避難グッズを用意しておくことが大事です。また、他の地域に旅行に行く際に、旅行先で地震が起こらないとも限りません。精神的に準備ができているだけでも大きく違ってきますので、旅行先の地震の可能性を確認することも大切です。実際地震に遭遇したら、慌てずに先ほどの3ステップを実行し、状況をしっかり確認して行動するようにしてください。
Qinya Liu博士
2006年にカリフォルニア工科大学で地球物理学の博士号を取得。2年間カリフォルニア大学サンディエゴ校で研究を続け、2008年にトロント大学物理学部地球物理学科での教職に就く。現在の主な研究は地震波の伝達と革新的な地震波トモグラフィー法の数値シミュレーションを組み合わせ、地球内部の詳細な構造を明らかにすることである。