一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団
知らなかった支援のさまざまな形。
「復興の森づくりと森の学校」―日本一の学校をつくる
HP : www.afan.or.jp
FB : www.facebook.com/cwnicol.afan.revival
C.W.ニコル氏は震災11日後、宣言書を発表する。稲本正氏(オークヴィレッジ代表)、成澤由浩氏(料理研究家)と連携し、“森を創る・森を使う・森を食す”をテーマに掲げ、「この災害を乗り越える事を含め、最大限の努力をし、これを機に『日本が生まれ変わる』事を提言する」。以降、2ヶ月後に「森と海をつなぐ日本の再出発」をテーマに緊急提言シンポジウムを主催、2011年8月〜は、「心に木を植える」プロジェクトとして、東松島市、仙台市、塩釜市、飯館村の子ども達、その家族を「アファンの森」に招き、森の癒しの力を借りて子ども達の笑顔を取り戻す活動を続けている。そして、2012年7月6日、東松島市と東日本大震災復興に向けて連携協力協定を結び、東松島市野蒜地区に「復興の森づくりと森の学校プロジェクト」を始動した。ニコル氏のライフワーク「森づくり」を軸に温かい支援を続けている。
(写真:C.W.ニコル・アファンの森財団、山本彩乃、東松島市)
東日本大震災を教訓とし、次の社会に活かす(以下、アファンの森財団大澤渉氏より)
「永い歴史を振り返ると日本は、度重なる災害から何度も立ち上がり再生してきました。千年に一度といわれる東日本大震災のこの教訓から、何を学び、次の社会にどう活かすか。あきらかに判ったことは、自然に逆らったり、歯向ったりしてはいけないということ。森のチカラや海の恵みをいただきながら、賢く生きることが本来求められています。それには、森や海の生態系を取り戻すことが重要です。自然を壊したのも人間ですが、自然を再生させることも人間にはできるのです。」
被災した東松島市に日本一の学校を創る
「この度の震災で私達は、もう一つ大きな目標をいただきました。それは、学校を森の学校にすることです。子どもの頃から学校ぎらいだったニコルが、皮肉にも学校をつくることになるとは思ってもいなかったようです。コンクリートの牢屋のような教室から子ども達や先生を解放して、森の中で学べる環境が公立の学校でできたら―。これこそ日本を変える大きな起爆剤となり、自然とともに生きる知恵をもった日本人が育つと考えています。まずは、被災地の東松島に日本一の学校を創る。ここから日本全国に広がっていくようなプロジェクトにしたいと思っています。これを成し遂げることが、ニコルが日本に来る宿命だったのではないかと感じています。」
長野県黒姫で森の再生活動をしているアファンの森財団(以下財団)は、C.W.ニコル氏によって28年前から荒れ果てた森を買い取り、地域本来の森林生態系を甦らせる活動をしている。今では地域的に絶滅が危惧される動植物50種が当たり前にいる多様性豊かな森になった。
真っ先に手を上げた東松島市
東日本大震災発生直後、財団では何ができるかを考えた。見つかった答えは、被災地の子ども達をアファンの森に招待することだった。アファンの森では育児放棄や虐待によって心に傷を負った子ども達の心のケアを行ってきた。森によって心の傷が癒され、固まった心が少しずつ融けてゆく、そんな子ども達を10年以上見守ってきた実績がある。
震災の恐怖と辛い体験でずたずたになった子ども達の心を癒せるのは“森”しかないと、企画書をまとめ、アファンの森へ招待するチラシを被災した市町村に配布した。しかし、震災からまだ間もない自治体の状況はそれどころではなかった。そんな中、唯一、宮城県東松島市教育委員会が手を挙げた。当時の教育次長が「今こそ子ども達の心のケアが必要です。東松島の子ども達をアファンの森へ連れて行ってください」と。
被災地の方をアファンの森へ
初めてアファンの森にやってきた参加者の顔はどこか暗く笑顔がなかった。震災から半年も経っておらず、行方不明者も多く、避難所からようやく仮設へという暮らしの中で無理もなかった。しかし、木漏れ日注ぐ夏のアファンの森はそんな人々の全てを受け入れてくれた。2泊3日という短い時間の中で、子ども達に、大人達に笑顔が戻って行った。
その中にいた市役所職員は、アファンの森に東松島市の未来を見る。被災した街と小学校が28年後には美しい森がある街と森の学校がある未来を。
かつて幽霊森と呼ばれた荒廃地から甦ったアファンの森の現在の姿が、東松島の復興の未来の姿に重なったのだ。「私達は、地震、津波で失ったものを教育で取り戻す。そのために日本一の森の学校を創りたい。手伝ってください。」
ひとりの市役所職員の熱い思いがニコル氏を動かした。手伝いを請われたニコル氏は東松島市のために自分の残りの人生の半分を捧げる決意を胸に、森の学校プロジェクトを始動した。
「復興の森」と「森の学校」
小学校の再建にあたっては、地域の自然環境を最大限活かした今までにない森の学校をつくり、森の再生をしながら子ども達の心の再生を目指している。財団による環境調査の結果、ふるさとの自然は多くの絶滅危惧種を含む貴重な自然が残っている誇るべき場所であることがわかった。新しい学校は2017年度の完成を予定しており、まだ時間がかかる。仮設住宅から仮設校舎に通う子ども達は、新しい学校を待たずして卒業してしまうケースも少なくない。
「校舎がなくても森が学校になります。東松島の山、田んぼ、川、海、これら豊かな自然すべてが授業の教材です。私達は新しい学校に通えない子ども達にも今から森の学校の授業を行っています。」
財団は、高台に新設される森の学校に隣接する森を「復興の森」とし、森での授業ができるように市民の皆さんと手入れを始めた。アファンの森で培った森林再生のノウハウを活かし、森づくりを進めている。
2013年6月には、復興の森のシンボルとなるツリーハウス「ツリードラゴン」が完成。
森と関わった子ども達が将来にわたって、森や海と繋がりを持ち続けるような地域にすることが願いだ。
(4月号から「森の学校記(仮)」を連載予定です。)