今さら聞けない!カナダ発で考える「ジェンダーギャップ」ってよく聞くけどなに?|特集「SDGs・女性とジェンダー平等 in Canada」
ジェンダーギャップとは性別の違いで生じる格差、不平等のことを指す。数字で見える分かりやすいものから、日常に習慣として社会の制度や仕組みにまで根強く残っているものがある。世界各国の男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数」では、昨年日本はなんと156か国中、聞き慣れない国、アンゴラとシエラレオネに挟まれ120位と先進国の中ではかなり低い結果であった。カナダはというと24位で日本と比べれば遥かに進んでいるがまだまだ伸びしろはみえる結果となった。
女性の権利の歴史 in Canada
カナダという国は、「Women’s Rights(女性の権利)」を獲得するために強い決意を固めた無数の女性の努力によって形作られてきた。カナダの歴史を語る上で外せない女性の権利獲得の瞬間は、1884年オンタリオ州、1990年にマニトバ州で始まった既婚女性の土地の購入の法的権利や、1929年に女性が法律の下で「Persons(人)」と見なされるようになったこと、1916年にマニトバ州、サスカチュワン州、アルバータ州で女性に初めて州選挙で投票する権利を与えられたことなど、今ある私たちにとっては当たり前なことも、その時代時代を生きてきた女性たちの戦いの「結果」なのだ。
カナダのジェンダー別の賃金格差はどうなのか?
テクノロジーもこの100年で大成長を遂げ、毎日変化し続ける時代に生きる我々だが、それでもまだまだジェンダー格差は根強く残る。その中でも、どうやって男女平等を実現できるかが今まさに課題になっているカナダだが、賃金格差を切り取ってみてみよう。
カナダ統計局によると2019年の時点で年収、給与、コミッションの男女賃金格差は0・71%で、女性は男性が稼ぐ71%分しか貰っていないことになる。2021年には大学の学位を取得する女性の数が男性の数を上回っているにも関わらず、学士号を取得した女性の年収が平均で6万9063ドルなのに対し、同じ条件の男性の年収は9万7761ドルと、謎の格差が生じている。その格差は、大学卒業から5年後、10年後と年数が経つにつれて、広がっていくという結果も出ている。
性別によって賃金に差が生じることは「違法」とされているのになぜ差が生まれるのか?
賃金の平等は、「Equal pay for work of equal value(同一労働同一賃金)」と言われ、カナダにも1970年から実行された法律がある。男は外に稼ぎにいき、女は家を守るという時代も大幅に変わり、働きに出る女性の数は1950年の21・6%に比べ、2015年には82%と増加し、今もなお、その数は増え続けている。それなのに、「習慣」、「世間の構造」、「文化的要因」が連携し、性別の違いからくる賃金格差はそのまま維持し続けている。それはなぜか?
一つの要因として挙げられるのは、いわゆる「女性が就く仕事」よりも「男性が就く仕事」のほうがより多く支払われる傾向があるため。もともと女性の職業というイメージがある業種は高い特化したスキルがなくても出来る、価値が低いものとして見られ、過小評価されるものが多いということ。また、家庭の用事を原因に仕事を早退したり、休んだりすることで昇進や昇給の機会を逃していることも大きい要因だろう。平日に欠勤した女性の22%が家庭の用事を原因として挙げていたのに対し、男性は9.3%に過ぎなかったという調査結果も出ている。
Motherhood PenaltyとFatherhood Bonus
みなさんは「Motherhood Penalty(母親ペナルティ)」と「Fatherhood Bonus(父親ボーナス)」という対局の言葉を聞いたことがあるだろうか?これは、子どもがいる女性が一般的に給与や仕事に関して代償を払っているものの、男性は父親になることで恩恵を受ける可能性があることを示している。
18歳未満の子どもが少なくとも一人いる母親は、父親が1ドル稼ぐごとに85セントを稼ぎ、子どもがいない女性は、子どもがいない男性が1ドル稼ぐごとに90セント稼いでいるというデータも出ている。
2019年の報告によると、女性が出産後に職場復帰を果たしたあと、他との収入の差は少なくとも5年は続くことがわかっている。しかし、男性を見てみると、父親は子どもがいない男性に比べ、高い給与を受け取ることが多いと調査結果が出ている。その理由は、子どもがいる男性のほうが、いない男性よりも献身的で勤勉というイメージを持たれているからかといったものが1番に挙げられるがまだ調査中ではっきりとは言えないものの、親になることの代償は主に女性が多く払っているというのは事実である。
どうしたらジェンダー別の賃金格差は埋まるのか?
では、どうしたらまだまだ溝の深い賃金格差を埋めることが出来るのだろうか?実際に雇用主に問われるジェンダー別賃金格差を無くすためのいくつかの鍵をみてみよう。
給与の透明性
まず、第一歩として雇用主が職場の賃金構造を開示する「給与の透明性」が求められる。雇用主が昇給や昇進を評価するための賃金表や基準がオープンであれば、従業員はそれを基準に自分が公平に賃金を支払われているのか、給与や昇進について交渉することが適正か決断を下しやすい。実際に、カナダの連邦政府が規制する業種には給与の開示法があり、大学、専門学校の教員の間では男女の賃金格差を2.2~2.4%ポイント減らすことができた。
ダイバーシティと統計的差別
各企業がこの時代を生き抜いていく中で最も大切な鍵の一つだと言われている「Diversity(多様性)」。多様性と聞きよく考えられるのが人種や性別だが、今回、性別問題の観点から挙げるとまず、能力値の差や、どのくらい企業に貢献してくれるかなどがまだわからない状態である面接や人材採用時に無意識に働くもので「統計的差別」というものがある。
例えば女性は産休や育休を取得するケースや、結婚や出産で退職する可能性があるために男性の方が雇われやすかったり昇進のチャンスがあるというようなことだ。しかし、実際は、その男性が入社後すぐに転職する可能性もあるし、女性が長年働き続けその会社に貢献する可能性もある。
統計的にはその傾向があったとしても、実際にはわからないのだ。だからこそ、人材採用や、人事異動の判断を下す際には無意識的に統計的差別をしていないか、人物の実力やスキルをみて正確な判断を下しているかをクリアにすることで多様で公平な職場を作り出すことができる。
柔軟で協力的な福利厚生を提供する
出産や育児と並行して働くことは体力的にも精神的にも辛いだろう。実際に、多くの子持ちの女性はこれらの理由と精神的な疲れを理由に転職や外で働くこと自体を辞めることを考える場合が多いという。働きたい意欲はあるのに、生活リズムが合わない、体力や精神の限界に達してしまうとなればそれは働き続けることは難しいだろう。
企業側も、やる気も実力もある人材を失わないためにできることを探す必要がある。例えば、仕事と育児へのアクセスの改善や、コロナ禍で広まったリモートワーク、ハイブリッドワークの導入、フレキシブルなスケジュールの受け入れなどが挙げられる。従業員に歩み寄り、より良いワークライフバランスを提供することで雇用主と従業員の関係も良好に保つことができ、意欲のある女性たちが働ける世の中になっていくだろう。
カナダの「福利厚生に優れた会社100」に選ばれた企業をみてみよう!
カナダで働く従業員が仕事と家庭のバランスを取るのを支援するために各雇用主を評価する「Canada’s Top Family-Friendly Employers」という福利厚生に優れた会社100を選抜するコンテストが存在する。ここでは2022年2月に発表された会社の中で4つの企業・組織をピックアップしてみた。
・Pfizer Canada
コロナ禍により一時期、ニュースでその名を聞かない日はなかったファイザー社だがファイザーカナダはこちらの福利厚生に優れた会社ランキング以外に、「Canada’s Top 100 Employers」、「Montreal’s Top Employers」にも選ばれているがその理由は何なのか?
ファイザーカナダはカナダの25の組織からなるカナダ人の身体と心の健康をサポートする「WellCan」にも参加しているが、ステイホームで自宅勤務が長くなった従業員、またはその家族たちに向けたバーチャルフィットネスプログラムを提供している。
また、最近改訂された家族向けのポリシーでは母親になる従業員の出産休暇と育児休暇中の給与を100%、最大24週間に引き上げた。父親と養父母になる従業員は100%の給与を最大12週間与えられる。さらに、本社にはチャイルドケアまで設置されているそう。
また、従業員の将来のために年金プランを支援し、退職するまで続く100%の保険料保証がついてくるのだとか。
・Bank of Canada
こちらのコンテスト以外にも「Canada’s Top100 Employers」、「National Capital Region’s Top Employers」にも選抜されているBank of Canada。従業員にはフレキシブルなワークオプションを与えること、体調不良による早退にはメンタルヘルスも含まれることを明確にしているという。また、養父母含め、親になる従業員の出産休暇と育児休暇を支援し、職場復帰を段階的に進めるオプションを示し、家庭にも優しい職場環境を提供する。さらに、従業員の家族やペットに何らかの予期せぬことが起き、世話が必要なときには休暇が与えられ、給与の93%を最長28週間受け取ることができる。
・Bell Canada
「Canada’s Top 100 Employers」、「Montreal’s Top Employers」にも選ばれた大手電気通信事業者であるBell Canadaは、母親になる従業員のための出産と育児休暇に給与の70%を最大36週間提供し、父親、養父母には70%を最大19週間提供する。またインクルーシブな職場の構築に取り組んでおり、管理職の最低25%は有色人種、先住民の代表が置かれている。
・University of Toronto
こちらのコンテスト以外にも「Canada’s Top 100 Employers」、「Greater Toronto’s Top Employers」に選ばれたトロント大学には、授乳室、オムツ交換部屋、また、子どもの学習部屋といった職員の家族にも優しいスペースがいくつか用意されている。また、すべての親になる職員に向けて、ワークショップや、同じ境遇の人とディスカッションできる機会を提供している。また、年末年始には家族と過ごせるように有給個人休暇以外に、5日間の休暇がもらえる。さらに従業員の将来設計をサポートするための年金プラン、また退職するまで続く75%の保険料保証がついてくる。
ジェンダー平等によるメリット
ジェンダー平等は道徳に正当であるうえに、経済的なメリットも注目されている。ダイバーシティでみなの違いを認める企業では、従業員のやる気を促進し、それが経済的利益と市場シェアを増加させる可能性があるのだ。熱心な従業員は、より活気があり、組織との繋がりを感じる傾向があるため、生産性を最大化するための働きを企業に提供することができる。従業員のエンゲージメントが高いことは、従業員の定着率の向上にもつながり、採用コストを節約することもできる。多様な労働力が独自のアイデアと視点をディスカッションにもたらし、それらの声を平等に聞くことができるインクルーシブな文化は、新しいソリューションを作成するのにも最適だ。