Goldは、富か。それとも物語か。カナダという答え|特集2

19世紀、カナダのユーコン準州に広がる地域クロンダイクに人々は夢を抱いて北へ向かった。Goldは町を生み、女性実業家を育て、移民の流れを変え、先住民の歴史にも影響を残した。そして現代。カナダは国家として金を持たない選択をしながらも、世界有数の生産国としてGoldと向き合い続けている。氷河が溶け、新たな鉱脈が姿を現し、AIがその場所を探し当てる時代に。富であり、信頼であり、ロマンでもあるGold。その意味を、カナダというフィールドから静かに見つめ直す。
世界とGold
世界各国が金準備を持つのは経済が不安定になったときや国が破産に直面した際、国家の信用や財政資源として使うための準備だ。Goldは世界共通の通貨として大昔から頼られてきた。IMF(国際通貨基金)が設立された1944年当初、加盟国は出資の25%を金で支払っていたため、金準備を持つ必要があった。しかし1978年にIMFは金本位制を辞め変動相場制へ移行。IMFは保有する金を加盟国に返却したのだった。
カナダはGoldを保有しない国
カナダが金の売却を始めたのは1965年のことだった。金を保有していた時代には最高で1,023トンもの準備があったと言われている。その価値は今のアメリカドルでおよそ1800億ドルだそうだ。徐々に減らしていった結果、1985年には保有量が500トンになり、リーマンショックなどの世界的経済危機を乗り越えた2016年には全ての金準備を手放したそうだ。
今の金の価値を考えると「手放すことは間違いだったかもしれない」と「TD Securities」のバート・マレック氏は2025年10月の「BNN Bloomberg」のインタビューで嘆いていた。しかし、売却を始めた当時はドル相場が落ち着いており、金の値打ちは低かったという。現在はその状況が変わったからこそ、資産の構成を多様化する必要があるそうだ。
どうしてGoldを手放したのか
G7加盟国の中で金準備がないのは唯一カナダだけ。それでも世界中にはアンゴラやベリーズ、トンガなどGoldに頼らない国は88カ国も存在するため、稀ではないのだ。カナダがGoldを手放した理由は大きく分けて二つある。一つ目は、金地金は国債にくらべて売りにくく、その上保管場所やその管理にお金がかかるため。二つ目は金を買わなくとも、国内に資源が自然にあることだ。
Goldの代わりになるものとは?
カナダは金準備を持たないため、他の形で資産を保有している。一つ目は外資準備高。カナダの外資準備高はほぼ全てアメリカドルで、金額はおよそ1270億ドルに及ぶそう。この額は全て紙幣で保有されている。二つ目は物資備蓄で、カリウム資源埋蔵量や原油、淡水など自然に採取できるものが含まれる。最後は金融資産で、これには株式や債券が含まれる。
カナダにありふれるGold
カナダが金準備を持たない理由の一つに、Goldを含む鉱物資源が豊富だという事実がある。カナダの金の生産量は世界で4位に輝く。1位は中国で、次にロシア、オーストラリアとライバルは巨大な面積を誇る国々ばかりだ。2013年以来、カナダの金の生産量は55%も増えており、2023年では151億カナダドルに相当する量が生産された。
地球最古級の自然の「金庫」

カナダ楯状地で鉱物の採掘が始まったのは19世紀の半ば。1866年、オンタリオ州マドックで金が発見されて以来、鉱業が盛んになった。現在では様々な鉱物が採れる同州サドベリーや鉄鉱石が豊富なワワ、そしてダイアモンド鉱山やウラニウムがあるノースウェスト準州がカナダの鉱業を牽引している。
オンタリオ州から世界へ出回るGold
オンタリオ州はカナダの中でも特にGoldが採れる場所。州は採掘のため年間5億9000万ドルを投資している。その額はなんと州の年間支出の63%にも上る。現在オンタリオには37もの鉱山があるが、そのうちの19ヶ所は金に特化している。オンタリオ州の次に金の生産量が多い州はケベックだ。この二つの州で採れた金は、アメリカやイギリスに輸出されている。2023年にイギリスに輸出された量は100トンで、金の輸出量の28%を占めた。アメリカはそれを上回る133トンで、輸出量の37%だった。この量は2022年に比べて221%も多かったそうで、金の需要が上がっていることを物語っている。このような繁栄により、現在カナダの金鉱山会社は世界のトップテンのうち4つを代表している。
カナダにもあった、ゴールドラッシュ
ゴールドラッシュといえばアメリカのカリフォルニア州。だが1848年にコロマで金が発見された後、金探求者らは徐々に北上しカナダを目指していった。1858年にはブリティッシュコロンビア州フレーザー川、そして1862年にはカリブー地域に採掘者が押し寄せた。そして1896年、カナダで最も有名なクロンダイク・ゴールドラッシュが始まった。ユーコン準州というアメリカから遠く離れた場所であったにもかかわらず、そこで金鉱が見つかったというニュースはアメリカのシアトルやサンフランシスコの人々に伝わり、たちまち人が集まった。
Goldのおかげでできた町 Dawson City

ゴールドラッシュがきっかけで、ユーコン準州にはドーソン・シティ(Dawson City)という町ができた。しかし、厳しい天候や険しい地形が原因で、気軽に行ける場所ではなかった。BC州やアメリカ北西部からおよそ10万人の金探求者がこの町を目指したが、実際に到達できたのは3万人から4万人だった。そこからクロンダイク鉱山への道のりでも、雪崩や嵐で死者が出るほど過酷な環境だった。運よく金を採掘出来たのはわずか4,000人ほどだったそうだ。
飢餓、そして病気
悪天候のほか、飢餓も人々を苦しませた。1897年秋、1,000人ほどの採掘者がドーソン・シティに到着したが、市は政府に助けを求めるほど食料不足は悪化。10月末には数百人がアラスカ州のフォート・ユーコンに避難する事態に。翌年には腸チフスが流行し、肺炎や結核も蔓延した。採掘者が暮らしていたテントが不衛生であり、かつ密集していたことから感染が広まっていったことが原因だと言われている。採掘者らは天然痘もカナダに持ち込んだため、ブリティッシュコロンビア州ではわずか1年で先住民人口の62%が亡くなった。その数字は海側の民族ではさらに高く、90%に上った。
飢餓対策はトナカイ!?



アメリカ人がカナダで飢餓に直面しているという知らせがアメリカ本土に伝わると、政府はなぜか北ヨーロッパからアラスカにトナカイの群れを仕入れるという不思議な行動をとった。食料として送ろうと考えていたそうだが、入手ともに輸送は困難で、飢餓が緩和したずっと後にしか届かなかったそうだ。1899年にアラスカで金鉱が見つかると、人々は素早くクロンダイクを去り、ゴールドラッシュはあっけなく終わった。
人々はなぜGoldに惹かれたのか

19世紀半ば、アメリカでは工業が発展し大きな経済成長が見られたが、同時に格差が広まった。庶民の多くは失業や貧困などに悩まされていた。そんな中、ゴールドラッシュのニュースが新聞に出回るように。人々はなんとかして一儲けしようと勢いをつけて北に向かった。採掘者たちはそんな自分らの冒険を新聞に載せて読者と共有していた。その言葉に魅せられた読者たちも金鉱を目指すようになり、ブームは広がっていった。
ゴールドラッシュを支えたビジネスウーマンの存在

クロンダイクの環境は一攫千金を夢見る採掘者たちに過酷な現実を突きつけたが、それをチャンスに変えた女性がいたことを紹介したい。アイルランドからアメリカへ移民したベリンダ・マルルーニー(Belinda Mulrooney)は金探求者から儲けようと、生活物資を売る行動に出た。中でも最も売れた商品はあたたかいお湯を入れた水筒で、採掘者らが極寒の冬を過ごすための必需品となった。彼女は古いボートやいかだを買い取り、若い労働者たちにキャビンを作らせ、それも鉱夫たちに売っていた。マルルーニーはとにかく人が何を必要としているかを見極めるのが得意なビジネスウーマンだった。
若き女性経営者の天才ぶり
利益が出ると、マルルーニーは早速ドーソンにホテルとレストランをオープンさせた。それは彼女がわずか26歳の時だった。金鉱ともパートナーシップを組んでいた彼女はドーソン・シティで大儲けし、二年という短い月日の間にクロンダイクで最も金持ちの女性になった。
そんなマルルーニーは山奥にできたばかりの小さな町に革命的な変化をもたらした。まず、彼女が初めてオープンしたホテル、The Fair Viewは町で初めて電気が通った建物だ。他にも、3階建てのビルに暖房を取り入れるために古い蒸気船のボイラーを買い取ったり、ドーソン・シティーに初めての電話回線と電報のシステムを立ち上げたり、水を安全に飲めるようにするなど鉱夫や鉱山を訪れる人の生活を劇的に変えた。
クロンダイクを目指した華麗なる?女性たち

マルルーニーの次に鉱夫たちが注目したのは珍しく観光客としてクロンダイクまで旅したアメリカ人女性デュオ、メアリー・ヒッチコック(Mary Hitchcock)とイーディス・ヴァン・ビューレン(Edith Van Buren)だった。二人は中国やエジプトを旅した経験があるほど冒険心が強く、そして裕福な暮らしをしていた。
ゴールドラッシュをその目で見てみたいという願望を持ち、サンフランシスコからユーコン川を蒸気船で上ってきた二人。船に積んできた荷物にはなんと移動式のボーリング場やソーダマシーン、エアマットレス、蓄音機、アイスクリームフリーザーなど常識はずれのものばかりがあった。グレート・デーンという大型犬2匹やカナリア、オウム、24羽の鳩なども連れてくるなど彼女らを迎えた労働者たちに強烈なインパクトを残していった。
金持ちは旅上手ではなかった

ヒッチコックとヴァン・ビューレンは華やかな海外旅行経験者だったが、クロンダイクでの宿泊には大きな誤算があった。一番大きな誤算は、住居となるテントを張ったがテントポールが短すぎて雨や雪の重さに耐えられなかったことだ。それが原因でスーツケースの中身が濡れ、洋服が台無しになってしまっていた。金持ちらしく、彼女らは後々ドーソン・シティの西側で一番大きな家を建てた。
ゴールドラッシュの雰囲気を満喫した二人はドーソンを離れアラスカに旅立ったが、その出発前にも連れてきたグレートデーン2匹のうち1匹をサンフランシスコへ送り返さなければいけないなどハプニングは続いた。ヒッチコックはのちに旅の記録を一冊の本にまとめ出版したことで有名だ。
少し変わったゴールドラッシュの移民事情

ゴールドラッシュはカナダ西部の人口を急激に増やした一大イベントだった。それまで先住民が暮らしていたBC州には白人アメリカ人が押し寄せた。
当時カナダを統治していたイギリス人らは、アメリカ人に乗っ取られることを恐れ始めた。その対策案はなんとサンフランシスコから黒人を連れてくることだった。イギリス人は黒人アメリカ人らに安全な暮らしを約束することで、合計500人をビクトリアに移住させた。
およそ2万5000人もの白人男性らが移住したBC州では、今度は白人女性が足りないことが問題になり始めた。なぜなら女性がいることで家族が出来たり、子供たちに教育や宗教、文化を広めたりすることができるからだ。イギリス政府はイギリス本土からバンクーバー島まで女性を送りこむほど必死になった。しかし、その船に乗っていた女性らが若すぎたため、結局白人男性は先住民と結婚するか、カリフォルニアまで伴侶を探しにいったという。
氷河がGoldを「運ぶ」今

氷河の下の鉱物に関してはまだまだ科学的調査が必要だそうだが、すでにカナダとアメリカの金鉱会社20社ほどがこのビジネスチャンスに乗り出しているという。
地球温暖化によるビジネスチャンスとそのダメージ

2021年に「Nature Communications」に掲載された研究では、退氷期(寒冷な氷期から温暖な間氷期に移る時期)によって2100年までに3,700マイルもの新しい川が作られると言われている。この変化によってサーモンなどの魚たちの生息地が増え、他の生物や森の成長は助けられるはずなのだ。
しかし、その豊かな自然とその資源を狙っているのは金鉱会社たちだ。金鉱が作られると環境汚染や生息地破壊に繋がりかねないため、そのエリアに住むアラスカ州やBC州の先住民たちは猛反対している。
Goldが動かす世界のお金

この20年ほどで需給のひっ迫や金属価格の高騰によって市場は大きく規模を拡大している。鉱業会社は利益が出るとされる鉱山を見つけ出し、優れた探鉱プロジェクトを多数持つことで投資家を惹きつけることができる。それによって企業価値(時価総額)や利益率を大きくすることができるのだ。
Goldというものは、見つかる前にも後にも巨額の金を動かす力があるものなのだ。
AIやロボットが活躍する、これからの金鉱業界


Goldスタンダードで次の世代へつなぐ

若い働き手を魅了するにはワークライフバランスやメンタルヘルスのサポート、現場での安全などを確保することなど働き方改革が必須だ。一人一人に合わせた働き方やアップスキリングも提供しなければいけない。さらに、バーチャルリアリティを取り入れた研修やAIなどテクノロジーを活用した労働環境を育むことで若い人が働きたいと思えるよう、就職先の新しいスタンダードを築き上げることが課題となっている。
おわりに
現在のカナダは国の資産をGoldに頼らない姿勢を保っているが、ビジネス面ではしっかり金の資源をフル活用している。カナダは地球温暖化に反対する国だが、金の確保のためにはその自然の変化をビジネスチャンスに変えている。その矛盾は単純に国としてのサバイバル方法であるかもしれないが、そう簡単には採掘できないという冒険やロマンも重なるもの。Goldは世界中で権力や美、信頼などさまざまな意味を象徴してきたからこそ、これからも人々を無条件に惹きつける特別な存在であり続けるのであろう。












