vol.7|『成層圏の墓標』|翻訳の窓から – 書評で読む世界
冬の冷たい風が吹きすさぶ崖、未知の感染症が蔓延し人影まばらな街角、明治時代の銀座の煉瓦街、地球から27000光年離れたブラックホール。短篇集『成層圏の墓標』(光文社)は読者をさまざまな場所に連れて行く。
著者の上田早夕里は2004年に小松左京賞を受賞し、近年は歴史小説など幅広いジャンルの作品を手がける。
表題作「成層圏の墓標」の世界では夜にしか雨が降らない。ある晩私が勤めるコンビニに、世界中で目撃されている「雨坊」が現われる。破裂したそれの飛沫に触れたため目を閉じると不思議な青い風景が目前に浮かぶようになる。雨坊のせいで死んだらしい友人の兄の死の謎を解くため雨坊をおびき寄せて分かったのは、雲のはるか上空、成層圏の秘密だった。
中編の書き下ろし作品「南洋の河太郎」は心揺さぶられる歴史物だ。舞台は第二次世界大戦中のパラオ熱帯生物研究所。珊瑚の研究者秀和は、近くの三日月島へ渡ったとき、幼い頃故郷の川で出会った河童にそっくりな緑色の生き物に遭遇する。未発見の海洋生物として彼らとの接触に成功するが、悪化する戦況が秀和と謎の生物「緑の姉弟たち」の運命を翻弄する。
幻想的な物語の各所に科学的な記述が現われるのも興味深い。昆虫の擬態、宇宙の歴史やブラックホールの構造。ウェアラブル通信機器やコンタクトレンズ型ディスプレイ。夢幻と科学が溶けあったような世界観が独特だ。
ディストピア小説として胸がざわつく「地球をめぐる祖母の回想、あるいは遺言」。太平洋戦争前の古い屋敷に取り憑いた魔物退治の物語「封じられた明日」。明治時代の車夫が化け物の狐に憑かれるホラー「車夫と三匹の妖狐」。龍が次元も時空も越えて自在に飛び回る「龍たちの裔、星を呑む」。哀しいゾンビストーリー「ゾンビはなぜ笑う」。
バラエティに富んだ作品のページを繰るとき、アドベントカレンダーを開くような気持ちになる。どれを開いても毎回違う驚きを味わえるから。どうぞ色々な味を楽しんでください。

評者=眞鍋惠子
書評家・豊﨑由美を師と仰ぐ翻訳文学書評グループBookpottersのメンバー。英日ときどき仏日の字幕翻訳者。





