カラフルな冬のモントリオール|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第40回
「寒い、寒い」と言っていられない。ここはカナダ。街中でも気温は低いと決まっている。暖かい博物館やギャラリー巡りで芸術の街モントリオールを楽しむ休日があれば、屋外で体から湯気を立てながら楽しい時間を過ごす日があってもいい。
交通手段の話からしよう。乗ったことのある海外の地下鉄のどれよりも私はモントリオールの地下鉄が好きだ。まず駅の天井が高くて開放感があるのがいい。駅構内も壁や天井に独特のアートが施されているのが素敵だ。電車の車両はタイヤで走行するので静かにプラットフォームに入る。パリの地下鉄に倣って1966年に運行を開始し、現在オレンジ、グリーン、イエロー、ブルーの4路線からなっている。オレンジラインには3路線が交差するハブともいうべきベリ・ウカム駅(Berri-UQUAM)があり移動のベースとしては最高だ。
モン・ロワイヤル駅(Mont-Royal)はオレンジラインでハブから2つ目。通りはカフェやブティックで雪に埋もれた時期でも活気がある。ビル街のショッピングセンターよりもユニークなものが見つかること請け合いだ。目に止まったのは猫用品専門店。ペットショップから分岐してビジネスとして成り立つということは東京のようにこの街も猫好きの人口が多いということだ。
ところでモントリオールという名は16世紀の探検家ジャック・カルティエ(Jacques Cartier)に名付けられた山、モン・ロワイヤル(Mont Royal)に由来する。なだらかな山は公園として四季を通して市民に愛されている。駅からバスに15分ほど乗れば街中の白銀の世界、モン・ロワイヤル・パークに到着。
キーキー、キャーキャーのエキサイトした子供たちの声の方へ自然と足が向く。スノー・チュービング(Snow Tubing)の順番を待っているのだ。荷物がなければ私も長いスロープを滑ってみたいところだが。その横ではトボガン滑り(Toboggan)を楽しむ親子づれ。スリルで奇声を上げているのは親の方で子供の表情は深刻。ブーツをズボズボ言わせながら斜面を下ると巨大な白いシーツを敷き詰めたような池に出る。
白一色の湖面を幾重にも重なる刃音を立てながら老若男女がエコな時間を楽しんでいる。ここには野暮なバックグラウンドミュージックはない。クロスカントリースキーをしているのは主に中年か高齢者のようだ。シャレー一階はレンタル・オフィスでごった返している。2階に上ってコーヒーとマフィンを注文。静かだ。思い思いに冬を楽しむ人たちの姿、私もまだ諦めずに冬のスポーツを再開しようとこの日自分に誓う。
B-U駅からイエローラインで一駅乗ってサンテレーヌ島(Île Sainte-Hélène)に出た。隣接のノートルダム島(Île Nore-Dame)にあるカジノへはシャトルが出ている。10ドル札で運を試し、スロットマシンで小刻みに全部擦ったところで試合終了。〝安全な〟スリルを味わった後はレストランでスパゲッティの大盛りを食べ熱量を蓄える。入り口の生々しい黄金色のパネルが自慢のカジノを後に、さあいよいよ出発。フードを被り、凍ったセントローレンス川沿いのハイキングコースをシャキシャキ雪音を立てて歩く。
対岸にはモントリオールのビル街。暮れていく空に雄大なジャック・カルティエ橋(Pont Jacque Cartier)がエレガントに映える。イルミネーションにはまだ早い時間だが小さなLED電球が少しずつ点滅し始めた。島のジャン・ドラポー駅(Jean-Drapeau)へ戻ると夜のアート、バイオスフィア環境学習館(Biosphere)のドームが無視できない光を放っていた。
夏に来た時に乗ったオールド・モントリオール(Vieux Montreal)港の観覧車は冬も営業している。その下にはLGBTQコミュニティを意味する色とりどりのカラーで照らされたスケートリンクがあり、若者たちが携帯も見ずにぐるぐる回っている。島で大分歩いたせいか足休めに観覧車に乗ることにした。モントリオールの夜景と何色にも変化するリンクにうごめく人影を上がったり下がったりしながら眺めモントリオール屋外版を終える。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。 makiko@makikoishiharaphotography.com