第6回「野球がもっと面白くなる―ワールドシリーズ に見る『間』の美学」|スポーツは武器になる|J Athletics Canada

文: 文=JAC Baseball Academy Manager・鶯 大樹
こんな心踊る野球は久しぶりだよ」「悔しいけど最高だった」様々なドラマがあったワールドシリーズ。ジェイズかドジャース、どちらを応援すべきか複雑な気持ちのまま試合を見守ったトロント在住の日本人の方も多かったのではないだろうか。
自分自身でいえば全試合、こんなにどっぷりワールドシリーズを観たのは正直初めてだった。ドラマチックな場面や最終7戦目までもつれた展開など、何度喜び、何度頭を抱えたことか。本当に楽しい時間だった。過去最高の視聴者数を獲得したシリーズだったが、これを機に野球を好きになった方も多いのではないだろうか。そんな方に向けて今回は、ちょっと違う見方で、より野球を楽しめるような話をしたいと思う。
野球独特の『間(ま)』に注目
ここでいう『間』には間合いやタイミングと併せてプレイヤーが相対した時に生まれる「空間」的な意味も含まれる。一球一球プレーが途切れる野球は、プレイヤーの心理を探りながら観るには最高のスポーツ。特にピッチャーとバッターの感情の揺れ動きや、どの戦略で攻めるかを想像するのは非常に楽しい。
まるで1対1で対峙する剣士の間合いを垣間見るようだ。例えば宮本武蔵の兵法書「五輪書」では「敵の打ち間を知り、己が打ち間を知ること、兵法の極意なり」と記述がある。これはピッチャーで言えば、〝自分が一番打ち取りやすい勝負の距離(球筋・軌道)〟を理解することであり、バッターでは、〝自分が一番捉えやすいポイントを見極めること〟と言い換えることが出来る。
野球は実はピッチャーが投げ出さない限り、基本的にフィールドにいる18人全員が止まっているスポーツだ。具体的には、
- 投手=静止状態から投げる
- 打者=止まって待つ
- 守備=球が来るまで止まっている
- 走塁=スタートまで停止
これは他と比較しても非常に珍しい状況で、ほとんどのスポーツは『間』よりも『流れ』が重視されることが多い中、野球は 動き出すまでの『間』が勝負の始まりを形づくるという極めて珍しい競技だ。
そんな野球の『間』はいろんなこと考え、楽しむ時間だ。今回のシリーズで言えば、雌雄が決した最後の場面。カークVS山本由伸。一瞬の静止状態の中、私はこんなことを考えていた。カークはこれまでの対戦を踏まえた上で、次何のボールを待っているのか?ヒット、もしくは逆転ホームランを狙うか?または外野フライで最低でも同点にしたいのか?
山本由伸サイドはどうか。絶体絶命の場面で、得意のスプリットで仕留めるか?フォーシームか?もうキャッチャーのウィル・スミスに任せミットに投げこむ事しか考えていないか?
両者の様々な感情や戦略が入り混じった短くも長い『間』を経て、結果はドジャースにとって最高のダブルプレーで、その『間』と長い闘いは終結した。
MLB2025年のポストシーズンは計40試合だったが、レギュラーシーズン1年間の総試合数は2430試合(30チーム×162試合÷2= 2430)。一体どれだけの『間』の攻防が行われたか。この数字だけ見ても、野球の奥深さがわかって頂けると思う。
ピッチクロック時代の新しい『間』進化するMLBの戦い方
そんな野球の『間』だが、最近のMLBでは「ピッチクロック」というルールの追加によってずいぶんとその考え方が変わってきている。ピッチクロックとは、「ピッチャーはボールを受け取ってから15秒以内(ランナー無し、いる時は18秒以内)に投球動作を開始しなければ1ボールが宣告される。」というもの。
今までは時間制限はなかったため、ピッチャーは比較的自由に『間』をコントロールすることができた。例えば長くボールを持ち、相手を焦らしてタイミングをずらすなどだ。
そんな時間的な『間』が制限されたら、試合が面白くなくなるのでは?
そこはプロフェショナル集団。ピッチャーもバッターも新しい『間』を制そうと工夫をこらす。
ピッチャーはテンポでタイミングをずらすよりも、同一フォームで投げ、球質や緩急をより使うようになり、バッターはデータをしっかりと頭に入れ対策を練ることで、バッターボックスで考える時間を少なくし対応する。まさに野球は『間』の大幅な変更により、大きな進化の段階にきていると言えるだろう。

来春シーズンのMLB開幕まで約4か月。この短くも長ーーい『間』も野球の一部。キッズたちに野球を教えつつ、うずうずワクワクしながら楽しみにして待ちたい。そして来シーズンこそは、コミッショナーズトロフィーをトロントに。

J Athletics Canada
「スポーツは武器になる」をモットーに、トロントを拠点にスポーツの教育的価値を大切にしながら、多世代・多国籍が交流できる日本語スポーツコミュニティー。スポーツを通じた人づくり・地域づくりを目指し、子どもからシニアまでがレベルに応じてスポーツを楽しめる場づくりを展開中。










