トロント国際映画祭でジャパンファウンデーション主催の「JAPAN FILM NIGHT」が開催。是枝監督、黒沢監督、深田監督、HIKARI監督が登壇。
国際交流基金トロント日本文化センター(ジャパンファウンデーション)は、2019年トロント国際映画祭(TIFF)期間中の9月9日、出品映画関係者を招いた「JAPAN FILM NIGHT」を開催した。
当日は「旅のおわり世界のはじまり」の黒沢清監督、「真実」の是枝裕和監督、「よこがお」の深田晃司監督、「37 Seconds」のHIKARI監督ら4名が来場、スピーチや参加者との交流を行い、豪華なレセプションとなった。
この日はベネチアからトロントに移動した是枝監督が、TIFF初上映と重なる時間の合間をぬって会場に駆けつけ、ジャパンファウンデーションの例年に渡る同イベントの取り組みに感謝するとともに来場者と交流を重ねた。
はじめに、主催者としてジャパンファウンデーションの清水優子所長が登壇し、「今年で44回目となるトロント国際映画祭で、こうしてまた日本の映画作品のために製作関係者の方々をお迎えしてレセプションが開催できることを嬉しく思います。映画祭にいらっしゃった皆様にも、より多くの日本映画を観ていただき、日本へ訪れるきっかけとなることを願っています」と挨拶を述べた。
続いて、伊藤恭子在トロント日本国総領事が登壇し、歓迎の挨拶を述べると同時に、主催者、ゲストに感謝の意を表した。そして、日本映画の海外進出やトロントにおける映画文化の発展については、「近年、日本では年間約600もの映画が創られています。そしてこれらの数百もが海外で上映され、年々その数は増え続けています。
また国際共同制作映画への取り組みも多く行われており、今回映画祭に出品されている作品の中でもそれを観ることができます。日本においては実写映画だけでなく、アニメーション映画作品も素晴らしく、映画のモデルとなっている地域を巡る『聖地巡礼』も人気のアクティビティとなり、描かれた場所が観光名所になることも珍しくありません。
よく北のハリウッドと呼ばれるトロントですが、映画上映や映画祭だけでなくロケ地としてもよく撮影に使われている街です。住民は映画撮影のためにニューヨーク警察が車を止めている様子をよく目にしています。加えて、トロントの北にあるマーカムの街では50万平方フィートにもなる映画撮影のための新しい敷地を開拓することが計画されています。
日本とカナダの外交関係も90年を迎えますが、近い将来、このトロントの地で、素晴らしい映画製作における二カ国間の協力関係が築かれることを願っています」と語り、日本の映画産業とTIFFのますますの発展を願い、来場者には3種類の日本酒が贈呈され、多くの人が賞味した。
舞台登壇した監督らのスピーチ
『真実』
是枝裕和監督
ベネチア国際映画祭にて、日本人監督初のオープニング作品として選ばれている。
「この映画祭にデビューした時からずっと呼んでいただいていて、私の映画を選ばないわけにはいかなくなっているのではないかと思ってしまうほどです(笑)。
ですが日本映画やアジア映画に愛を持って選んでくれる方が居て、映画を介してトロントの人たちと繋がっていけるということに本当に感謝しています。
こういった形で毎年映画祭に合わせて日本映画の関係者を集めていただけるというのも、嬉しく思います。
日本にいると作り手同士はなかなか会う機会がないのですが、今日ここに来ている黒沢監督と深田監督のちょうど間の年齢ということもあり、世代を超えて作り手達が顔を合わせることができるのもこの映画祭ならではだと思っています」
『37 Seconds』
HIKARI監督
初の長編映画作品でもあり、ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で新人賞を獲得している。
「今この場で、尊敬する映画監督の先輩方とご一緒させていただけるということをとても光栄に思います。トロント映画祭には北米の方だけではなく、世界中から多くの人々が足を運んでくださっているのを知っていますし、たくさんの素晴らしい映画がここには集まっていると感じています。
この映画祭に出品できる作品を作ることは私の大きな夢でもありましたし、映画を作り始めた当初からいつかは呼ばれたいと思っていた場所でしたので、今回長編デビュー作の一作目を皆さんにこの場でシェアさせていただけることが本当にありがたいです」
『よこがお』
深田晃司監督
カンヌ国際映画祭での受賞作品に出演している主演女優、筒井真理子さんと本作でもタッグを組んでいる。
「以前もこの映画祭に呼んでいただいたことがあるのですが、こうしてまた呼んでいただけてとても嬉しいです。
特にこの映画祭には、「JAPAN FILM NIGHT」という場が設けられていますが、他の映画祭ではこのように関係者の方々と交流できることはなかったりもします。この場をみなさんとご一緒できたことをとても光栄に思います」
『旅のおわり 世界のはじまり』
黒沢清監督
シルクロードを舞台に、日本とウズベキスタンの合作で製作したロードムービー。
「トロント映画祭は今回で7回目になると思います。おそらく日本の映画監督では是枝さんの次くらいにたくさん来ているんじゃないかなと。
色々な世界の映画祭に呼ばれることも多いのですが、私の記憶ではこのようなレセプションを催してくれるのはトロント以外にはないと思います。普段は中々会うことのできない監督やプロデューサーの方々とお会いすることができ、とても貴重な場を提供していただけて嬉しいです。
TIFFに最初に呼ばれたのは1998年、トロントの皆さんもそろそろ私の映画に飽きてきたんじゃないかと(笑)。懲りもせずまた呼んでくださって本当に嬉しいです。
今後も映画を撮り続けますので、できたらあるとき是枝監督を超えて(笑)、またトロント映画祭のこのイベントに呼ばれる、これが僕の夢です」
突撃取材
黒沢清監督
ーこの映画祭は監督にとってどのような存在でしょうか。
僕の作品を本当に初期の頃に海外に紹介してくれた恩人のような映画祭であり、それから20年以上経っていますが、まだ僕の作品に注目してくれている、忘れないでいてくれている、本当に心の支えのような映画祭です。
ー海外の方からの反応はどうですか?
日本人はおとなしかったりしますが、トロントの人は映画を観てわかりやすく反応してくれたり、フランス人は「これはああいう意味だ、こういう事だ」とか言葉で解説したり、国によってあるいは人によっても映画を見るときの姿勢が違うのだなと感じます。
ですが、よく見てみると同じように怖いところでは怖がり、感動するところでは感動し、笑うところでは笑っているようなんですよね。国によって色んな反応がありますが、心の動きは同じだなという実感があります。
ーどんなことを考えて映画を製作していますか?
私も色々な国の映画を観ていますが、言葉が全然通じない国の人にも、映画は意外と通じるのだなと感じます。映画は世界共通の表現なのだということを何度も経験していますので、言葉にできる何かを伝えたいということはないんです。
こういう物語を語りたい、こういう人物を見てもらいたい、楽しんでもらいたい、怖がってもらいたい、そういう気持ちはいつもあります。
ですが、それ以上の言葉は観られる方々が発見してくれるものであって、こちら側から「テーマはこれだ、こんなことが言いたいから撮っているんだ」、ということは全くありません。
HIKARI監督
ー留学から得た経験で映画に影響していることはありますか?
今回作品とは別で、今ちょうどテレビシリーズをやっているのですが、それは私がアメリカのユタ州に住んでいたときの体験を膨らませています。おそらくNetflixかどこかが配給すると思います。
ーどうして映画監督になりたいと思ったのですか?
初めから監督になるつもりは全くなく、元々はカメラマンをしていて、その前はアクティングをしていました。アクティングだけでもカメラマンだけでも物足りなくなって、また次の何かをしたいなと思った時に、じゃあ次は映画かなっていうとても軽いノリでした。昔から映画監督になりたかったというよりも、映画は好きだったけれども、なんだか導かれてきたような感じですね。人生は挑戦だと思っていますし、じゃなかったら面白くないですよね。
ー多くの監督が毎年行われているこのイベントの存在を有難いと述べられましたが…
こちらとしても大変有難いと思っております。これまで継続して行ってきた甲斐があったと報われた気持ちです。これからも継続していきたいと思います。
ージャパンファウンデーションでは日頃から日本映画の上映会に力を入れていますね。
映画の中には色々な情報が集まっていると思います。日本人の心、音楽、様々な面で日本を分かってもらえる、興味を持ってもらえる貴重なコンテンツだと考えています。
ーつい昨日までベネチアにいて今夜この時間にご自身の初上映がされている中、是枝監督が駆けつけたのは驚きました。
大変光栄なことです。私どもも数時間前まで分からなかったので、諦めかけていましたが、お越しいただけることになってとても嬉しいです。
伊藤総領事コメント
ー最近の日本映画に感じることはなんですか?
日本映画も新しい作り手やベテランの方々も一段と熟練されることによって世界の中でもまた見直されて評価されていると思います。今回HIKARIさんの初めての作品もベルリンの映画祭で賞をとっていらっしゃいますし、是枝さんの作品もヴェネチアのオープニングになっていらっしゃいます。
これからもっと素晴らしい作品が出てきてくれて、作品を通じて日本が素晴らしい国であり、芸術的に優れた感性を持っている人たちが多いことをトロントや世界の方々に知っていただけたらいいなと思っています。
ー海外の方とも多くの交流があると思いますが、日本映画の話になることはありますか?
たくさんあります。昔ながらの映画を好きな方もいて、インドの外交官の方でむかし黒澤明研究会に入っていたことがあり、黒澤映画の雲の動きについて一晩語り明かしたというお話を聞いたことがあります。
それから、日本のアニメも近年とても人気になってきていますが、アニメ好きなお子さんと一緒にこの映画を観に行ったと話してくださる方もいて、そういった意味では、映画を通じて日本文化を世界に発信してくださっているのはとても有難いことだと思います。
ーこれからトロント国際映画祭において日本の映画に期待することはなんですか?
やはり一番をとってほしいですね。「People’s Choice Award」を取っていただけると嬉しいなと思います。強敵はいっぱいいると思いますが、それは決して夢ではなく可能性のあることだと思っているので期待しています。
写真=嶋ノ内凌