AI都市オンタリオ州で期待が寄せられている「ヘルステック」企業と日本企業の マッチング商談会がトロント大学で開催
JETROトロント主催 「Generating Innovation with Japan」
2月20日、JETROは、カナダグローバル連携省・オンタリオ州政府との共催による「Generating Innovation with Japan」をトロント大学にて開催。このイベントはカナダの新興企業と日系企業によるビジネス関係の構築を目指すもの。昨年に続きトロントでの2回目の開催となる今回は「ヘルステック」に特化。この分野において活躍する日系企業が数多く参加した。
はじめに登壇したのは伊藤恭子総領事。参加者に挨拶を述べた後、「ヘルステック」業界の重要性について言及した。2025年に日本の人口の三分の一が65歳を超えるとされている「2025年問題」を例に出し、医者や看護師の不足、そして社会保障の増額などを指摘。「既存のシステムを維持することが不可能になりつつある」と危機感を示した。
この課題に立ち向かうべく、日本が取っている対策の一つとしてあげられたのがビッグデータやAIを活用した医療や医薬品開発だ。その筆頭として日系企業が課題を解決することが不可欠だとした上で、伊藤総領事は参加した日系企業に対して「北のシリコンバレー」とも知られるオンタリオ州の魅力を感じてもらいたいと指摘。CPTPPにより日本とカナダの間の貿易や投資にまつわる規制が緩和された今、このイベントを通して両国の企業が有意義な繋がりを構築することを願うと期待を寄せていた。
次に登壇したのは、オンタリオ州政府の代表としてイベントに参加したアレクサンドラ・サットン次官補。参加者に挨拶を述べた後、日本が「オンタリオ州にとって優先すべき市場である」とその重要性を指摘した。東京にもオンタリオ州政府のメンバーが在籍し、州の企業が日本へ展開するためのサポートをすると同時に、オンタリオ州に展開を考えている日系企業のサポートも行っていると、関係の重要性を強調した。また、JETROとの関係性についても言及。とても良い関係を築けているとした上で、「このようなイベントをまた共催できることを楽しみにしている」と強い意欲を示した。
日本企業によるプレゼンテーション概要
今回のイベントに参加したのは八つの企業。カナダに拠点を置く企業はもちろん、米国に拠点やグループ企業を持つ日系企業も参加。
Sierra Systems
NTTデータのグループ企業で、カナダに拠点を持つ。クラウドやAIをはじめとする幅広い最新テクノロジーにフォーカスしている。最新のIoT(インターネット・オブ・シングス)やブロックチェーンなどの分野においても世界的なリーダーとして知られている。カナダにおけるクライアントは政府から大企業、そして中小企業までと幅広く、マイクロソフトやIBM、グーグルやアマゾンなどもその中に含まれる。
住友化学アメリカ (SCAI)
住友化学のグループ企業。100年以上前に設立して以来、画期的なテクノロジーを開発し、新たな価値を提供し続けている。SCAIが手がける事業分野は年々拡大。医薬品からICT関連の化学品、機能性材料、さらにはプラスチックなど、日本に限らず世界中で事業の多様性を示し続けている。中でも、最新テクノロジーの発見やスタートアップなどとの提携を担うCVIオフィスはアメリカにもサテライトオフィスを持ち、グローバルな視点で最新テクノロジーの発展に貢献している。
キッセイ薬品工業
研究開発を中心とした、中規模の製薬会社。中でも特化しているのは泌尿器科用薬剤や腎・透析科用薬剤。その他にも希少疾患を持つ患者の医療ニーズに応えるべく研究にも取り組む。また、創薬からセールス・マーケティングまで薬のバリューチェーンの全てに携わっている。研究開発の段階においては、生物工学を専門とした企業や教育機関と協力。先進的なテクノロジーの活用も視野に入れながら事業展開を進めている。
大鵬薬品工業
がん治療に特化した製薬企業。化学療法に新たなテクノロジーを取り込んだり、今まで重視されてこなかった新たなニーズやターゲットに対して療法の最適化などにも取り組む。創薬、研究開発、そして商品化まで全てに携わる。カナダにも拠点を持ち、研究プロジェクトをカナダ国内に展開したり、カナダ国内における最新テクノロジーの開拓を先導。
大日本住友製薬
住友化学の医療用医薬品事業におけるグループ企業。日本のみならずアメリカや中国など世界中で事業を展開をしている製薬会社。収益の64%が海外という世界における中枢神経系(CNS)の治療やがん治療、さらには再生医療など様々な分野において強い存在感を示している。事業の種類も多様化しつつあり、創薬のみならずヘルスケア・ソリューションにも展開している。
日立製作所
2020年で創立110周年を迎える電機メーカー。モントリオールに研究拠点を持つ製造業の企業として、OT(オペレーショナル・テクノロジー)やITにまつわる事業を過去50年間展開した歴史を持つ。革新を通して社会や顧客のニーズに応え続け、これからも日本屈指のメーカーとしてOTとITを通して新たな価値を創造し、社会課題の解決に取り組む。
Hike Ventures
サンフランシスコと東京に拠点を持つ、AIに特化したベンチャーキャピタル。投資先として、AIを駆使して課題解決に取り組む創業者を求めている。過去にはヘルスケア業界、法律業界、モビリティ業界など業界を問わず投資を行っている。また、日系企業とのネットワークを駆使しながら、様々なスタートアップ企業が日本の市場へ参入ためのサポートも行う。
丸紅
日本の総合商社として、67の国と地域に展開。連結対象会社だけで431社にもなる。この広大なネットワークを駆使し、貿易、流通、資源を基盤に、ICTや不動産、化学品、金属、さらには自動車や次世代ビジネスなど幅広い産業に携わる。中でもヘルスケアと医療は大きなビジネスエリアの一つであり、最近では米国のAIを駆使した医療用画像診断システムの開発者に投資するなど、力を入れている。
これから活気づくヘルスケア業界や事業に期待
企業のプレゼンテーションの後、カナダ投資庁を代表しグレッグ・ダ・レ氏が登壇。参加者に対して感謝の言葉を述べ、「素晴らしいイベントだ」と称賛した。カナダに既に拠点を持っている企業のみならず、これから展開を考えている日系企業について知れたのはとても有意義であるとした上で、このイベントの趣旨やこれから生まれる可能性のある関係性はカナダの「イノベーション精神」にとても適っているのではないかと指摘した。
また、ダ・レ氏は「北のシリコンバレー」の魅力を再び強調。オンタリオ州でどれほど活発に研究開発が行われていて、どれほどのエネルギーがあるかを目の当たりにできたのではないかと意欲を見せた。また、ヘルスケア業界についても言及。インベスト・イン・カナダにとっても重要な業界になりつつあるだけでなく、IT業界でもこれからさらに活気づくのではないかと期待を寄せていた。そんな中、カナダにおけるヘルスケア業界やヘルスケア事業について世界中に発信するためにも今回のイベントは鍵となると改めてイベントの重要性について言及。これからのパートナーシップに期待したいと結んだ。
ヘルステックや医療産業で活躍している企業やスタートアップが多いことに着目ー JETROトロント・酒井所長
ー今までとは違い、今回のイベントは「ヘルステック」の業界や事業にフォーカスしましたが、その背景は?
今回トロントで二回目の開催となるこのイベントですが、今までは分野を特定せずに開催してきました。ただ、今回の開催場所であるMaRSをはじめ、トロントではヘルステックや医療関係の産業で活躍している企業やスタートアップが多いことを受け、「今回は分野を絞ろう」という結論に至りました。
ー日系企業にとってカナダはまだ新しい市場だと思われますが、関心やフィードバックはいかがですか?
日系企業がカナダに持っているイメージとしては「AIが進んでいる」ということがやっと浸透してきたというところかと思います。しかし、今回を含めモントリオールやトロント、さらにはウォータールーなどの現場を視察していただくといかにエコシステムが確立していて、ビジネスがやりやすいところかということを理解していただけるのではないかと思います。また、カナダには有望なスタートアップ企業がいくつもあるということもあり、関心を持ってくれているのではないのでしょうか。
一方、カナダのスタートアップ企業もこういったイベントを通して日本の市場のニーズを知り、徐々に関心を持ってきてくれていると感じます。実際のビジネスに結びつくにはもうしばらく時間がかかりそうですが、このようなイベントを重ねていくことで、将来性のある関係が構築されていると思いますので、我々もサポートしていきたいですね。