直木賞作家 角田光代さん インタビュー
TORJA スペシャル・インタビュー
第36回 国際作家祭登壇
直木賞作家 角田光代さん
10月22日から11月1日まで大盛況で幕を閉じた国際作家祭IFOA(International Festival of Authors)。毎年世界各国から活躍している作家が招待され朗読会や講演会を行うこの催しに、今年は日本から直木賞作家であり、映画化もされている「八日目の蝉」「紙の月」などの数々のベストセラーを世に送り出している角田光代さんが参加された。
小学校1年生の頃から作家を志したという角田光代さん。一方でご自身の旅の経験についてエッセイを複数出版されているほど旅好きだという。また、最近では愛猫トトとの日常を綴ったエッセイも出版されている猫好きの一面も。
英語やスペイン語などアジアをはじめヨーロッパ、北米、世界中に向けて翻訳されている彼女の作品について、愛猫について、また旅や日本の食文化についてなど多岐にわたりお話を伺った。
■ 朗読会を終えてIFOAの感想を教えてください。
不思議でした(笑)。一人ずつ朗読をしていくスタイルがさっぱりしていて良かったです。
■ トロントに来られて、いかがですか?
空港から出た瞬間にきれいなところで、治安も良い感じだと思いました。みなさんからトロントアイランドを勧められているので、ぜひ行ってみたいと思っています。
会場にて 右)「それでも三月は、また」の中から「ピース」を朗読
■ 角田さんの作品は英語をはじめ、さまざまな言語に翻訳されていますよね。海外の読者の反応や、その中で記憶に残っていることなどはありますか?
アジアでは今、日本人作家の作品がすごく読まれています。だから割とすんなり読んでもらえている感じです。だけど、欧米の読者には、例えばいじめだったり男性から女性への精神的暴力だったりに対してすごく疑問を持たれることが多いです。「これは日本で本当に起こっていることなの?」と。こういった疑問が、小説のテーマや本題に入っていくことを妨げているのではないかなと感じることがあり、正直どう読まれているか不安があります。
特に印象に残っているのは、去年スペイン・イタリア語版の出版のプロモーションのためにスペインを訪れた時、10人ぐらいの現地の記者に会った時のことです。その時10人の記者全員に「八日目の蝉」に出てくる架空のカルト集団(エンジェルホーム)は日本に実在するのかと聞かれたのです。そのあと大学で生徒たちに質問を受けた際も全員に同じ質問をされました。やはり、ストーリーより先に、宗教や「これは日本で本当に一般的に起こっていることなの?」ということに捉われてしまうのかもしれませんね。
■ 旅好きの角田さんですが、作品を読ませていただくと描写がとても細かくて、「八日目の蝉」の小豆島の描写などはまるで風景が目に浮かんでくるようで、帰国した際にはぜひ訪ねてみたいと思っているのですが、逆に角田さんが「知らない土地を訪れてみたい」と思う瞬間はどんな時ですか?
私も、その土地に行った人の話を聞いたり、本を読んだり写真を見たりすると、その土地に行ってみたいなあと思います。
■ エッセイを読ませていただくと本当にたくさんの国に行かれていることがわかるのですが、今も一人旅などはされていますか?
(エッセイに綴られているのは)10年以上前のことで、最近はなかなか時間が取れず旅には行けていませんね。
■ 近年執筆スタイルを大きく変え、源氏物語の現代語訳のお仕事に集中されているという角田さん。普段の生活や執筆スタイルについてお話を伺った。
普段はどのように執筆なさっているのでしょうか?
今までは月曜日から金曜日までの9〜5時でしたが、それを朝の始める時間を9時とは決めずに執筆をしています。
気さくにインタビューに応えてくれた角田さん
■ 時間をきっちり決めて執筆なさっているんですね。私の作家さんのイメージはもっと仕事の時間帯にムラがあり…書かない日があれば徹夜する日があるといったように…アーティスティックに仕事をしているのかなぁと勝手に思っていました。こういったスタイルを決めて仕事をしているのはなぜですか?
自分がアーティスティックではないと気づいたからです(笑)。でも他の作家さんの中には、集中して執筆するタイプの人も多いですよ。
■ 話は変わるのですが、プライベートでは猫を飼っているとブログを拝見して知ったのですが、やはり角田さんは猫派ですか?
実は犬派なんです。猫は表情がないと思っていたのですが…でも本当は猫も表情豊かで、ちゃんと会話が成り立つところに驚きました。ずっと犬だけだと思っていたんです…だから、犬派ですが、猫は自分のうちの猫が好きですね。
■ 日本の「居酒屋」の文化がお好きだと伺いました。
そうですね。ちょぼちょぼとつまむ物があって、いろんなタイプの飲み物があってといった日本の「居酒屋」に当たるお店が、私の所感ですけど、日本とスペインにしか無いと思いますね。パブやバーはあってもいわゆる「居酒屋」というものがなぜか無いんですよ。それでも、いろんな国で探して歩くのですが「飲みながらダラダラ食べる」ということが出来るお店がなかなか無いんですよね。
■ そうなんですね、トロントも今、日本食ブームで、中でも居酒屋は大人気で、中では長蛇の列でなかなか入れないようなお店も多いんですよ。
ええっ、本当ですか!まずはここトロントでしか食べられないものを食べてから、チェックしてみたいと思います。
■ 日本を代表するベストセラー作家になられた角田さんですが、小学生の頃から小説家になろうと決めていたと伺いました。小説家になることで生計を立てていこうと決めた時はいつ頃でしょうか?また、その決意を持ち続けることにはどういった困難がありましたか?
それしかできないと、それに固執しますよね。私は国語以外のことが出来なかったし、興味も持てなかった…だからよそ見が出来なかったんですね。それしかできなかったから、それに邁進するしか道がなかったのです。
■ 小学生の頃から、ずっと作家一筋だったというわけですね。
大学でも小説を勉強する授業以外はあまり分からなかったです。だからずっと小説を書いていました。
■ トロントにもこれから社会にでていく日本人の若者がたくさんいます。そして時に人生に迷っている話を良く聞きます。あえて、ひとつのことに邁進されてきた角田さんから、将来について迷っている若者や、自分探しをしている方たちにメッセージはありますか?
きっと出来ることがたくさんあるから迷うんだと思います。だから、自信をもって迷って良いと思いますよ。
角田光代 かくたみつよ
作家 神奈川県出身
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。大学卒業1年後の1990年、「幸福な遊戯」で第9回海燕新人文学賞を受賞し、角田光代としてデビュー。2005年、「対岸の彼女」で第132回直木三十五賞受賞。「キッドナップツアー」など児童文学も手がけている。
2003年の婦人公論文芸賞を受賞した「空中庭園」は、豊田利晃監督が小泉今日子主演で2005年に映画化。読売新聞で連載された「八日目の蝉」はTVドラマと映画になり、ドラマ版では檀れいが、映画版では井上真央と永作博美が主演した。2012年に第25回柴田錬三郎賞を受賞した「紙の月」は2014年に原田知世主演でテレビドラマ化、同年「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督が宮沢りえを主演に迎え映画化された。