『日日是好日』『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』で監督・脚本を務めた大森立嗣監督インタビュー|トロントを訪れた著名人
トロント日本映画祭でクロージング上映に選ばれ、同地に訪れた大森監督。今年上映された2作品についてお話を伺うとともに、昨年亡くなった樹木希林さんについてや、キャスティング、日本映画について語ってもらいました。
6月26日『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』、27日『日日是好日』と2夜連続自身の映画が公開となり、トロント国際映画祭に姿を現した大森監督。インタビューでは映画に対しての考えや撮影秘話を語ってもらい、舞台あいさつでは樹木希林さんとの撮影秘話を語ってもらった。
〝頭で考えるより映画で感じて〟
ー今回はトロントでの上映です。特にカナダの人々にどのようなことに注目してほしいなどはありますか?
『日日是好日』は、お茶室の狭い世界の中に四季と死生観まで入ってるような、お茶室の世界を頭で考えるより映画で感じて欲しいなと思っています。『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』では特別海外を意識してはいないですが、人がお母さんを亡くしていく過程と亡くなった後にどう死を受け入れていくかということに注目してほしいですね。なかなか今の日本だと、宗教というものがはっきりとない中でみんな戸惑っている部分があると思うので、映画にすることによってお客さんが考えるきっかけになればいいなと思い作りました。
ー昨日も映画を拝見して、「死を客観的に捉える意識を持ちなさい」という言葉があり、Q&Aでも宗教について触れられていてそのようなことに意識が向いたきっかけはありますか?
私自身は割と昔からそういうことを考えがちな人間でした。特に小説、漫画を読んで何かすごいなと思ったわけではないですが、なかなか漫画で直接的に表現されている主人公のお母さんへの愛をそのまま映画にするのははばかられたので、お母さんの視点ということで映画の中に加えました。
ーカナダには多くの民族と宗教が共存しています。日本では無宗教の人も多いですが、日本人の宗教に対する意識や宗教観に思うとこはありますか?
カナダは先住民族だからそういうところがあるかもしれないですが、日本ではアニミズムというか、豊かな自然がある中で生命が循環していくんだっていうような感覚をはっきり持ってもいいのかなという風には、ぼんやりとはみんな持ってるとは思うんですけどね。高齢化社会が進んでいく中でそのような意識をどうやって捉えていくかが大切だと思います。
ー『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』では母の死を乗り越え成長していく姿、『日日是好日』はお茶を巡り成長していく姿と、周囲の人や主人公の心の機微に触れながら人間の成長にフォーカスしています。そういった場面を克明に描写するために工夫していることはありますか?
俳優さんが自分で感じるということをすごく大事にしています。スタッフ皆が、役者がいい芝居ができる環境を作って、「あ、こういう表情をしているからこういう風に感じるな」とかそういうことを一番大事にして映画を作っています。いろんなことに向き合う時も僕が頭で考えたことを押し付けるのではなく、役者が自身で感じて思うところを出せるように演出しています。
ー過去作品のインタビューでは、「この人と仕事がしたい」ということでキャスティングを決めていると伺いました。先日トロント日本映画祭で来加した多部未華子さんも、本日上映の『日日是好日』に出演されていますが、キャスティングの理由、撮影秘話があれば教えてください。
多部さんは以前『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(2010年公開)に出演してもらったことがありましたが、じっくり噛み合う事ができなかったという感覚があって。それのリベンジを2人でしたいなって多分思ってたんだろうと思います。今回の多部さんはレベルアップしていて、海のところで黒木さんと2人でおしゃべりするシーンがあるんですけど、あのシーンの多部さんがすごい好きで、自分の感覚を通していろんな引き出しをパッと出せるくらい女優として成長していると思いました。
ー樹木希林さんも数年前にトロント日本映画祭に来られてインタビューをさせていただいたのですが、樹林さんの印象はいかがでしたか?
私は、今回の映画で初めてお会いしたんですけど、モノを作るということをきちんと分かっていらして、そのことをすごい自分自身の生き方として生きているんだなということを間近にいてすごい感じますよね。もちろん彼女の持ってる死生観も感じますし、芸能界にも巻き込まれることなく自身の生き方を貫き通している人生というのは尊敬できますし、最後に出会えてよかったなと思います。
ー『日日是好日』原作のどの部分に惹かれ、特に映画で新たに伝えようと意識したことはありますか?また、『母を亡くしたとき、僕は遺骨を食べたいと思った。』ではどうですか?
『日日是好日』は、やっぱりそのすぐ分かるものと分からないものがあり、分からないものは時間をかけてゆっくりとっていう…そういうのは今の時代すごく忘れられているような気がして、時間をかけて分からなくてはならない事が実は人生を豊かにしていることなんだということを、観客の方にも届けば嬉しいですね。
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』でも、自分のお母さんが亡くなった後に受け入れていかなくてはいけないことを主人公は模索しながら生きていますが、結局分かりやすい答えではなく、自分で発見していかなくてはいけないんだということが人生につながることなんだと思います。
ー以前インタビューで、「日本映画のパワーが落ちぎみ」とおっしゃっていました。今後の日本映画再興に向けて、日本国内でも世界でも良いですが、取り組みとして考えていることはありますか?
私自身はなるべく何か新しいものを映画の中で見てみたいといつも思っているんですよね。やっぱりどこか新しいものが入っていたりとか。
今まで記憶に残っている映画もたくさんあるんですけど結局誰かが言ってくれたことではなく、自分で「あ、これ面白いな」と発見したことが結局面白いなと思うんですよね。そういう感覚がもう少しお客さんが自分で考える感覚を持ったりすると日本の映画がもっと豊かになっていくのではないかなと思います。
ー意識して映画の中に取り入れていることってありますか?
脚本作りからいわゆるストーリーの組み方に対して試行錯誤しながら進めています。カットバックやモンタージュなど、映画が発見した一番すごい技術はあまり使いたくないと葛藤しながらやっています。カットバックなどは、映画が発見したすごい技術なんですけど、そこには人間の感情が、心が動いてないんですよね。そういうものに対して私は抵抗していますね。人の心の中をテクニックに頼らず映し撮りたいという気持ちでいつも撮影しています。
ー『ぼっちゃん』や『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』などの社会問題をテーマにした映画から、家族の絆や友情を描いたものまでさまざまな作品を生み出しています。今後スポットを当てたいテーマなどはありますか?
9月に『タロウのバカ』という作品が公開されます。学校に一度も行ったことのない子が主人公の話です。人間未満の彼が最終的には人間に近い、人の愛とかに気づいていくという話です。小さい視点の人間関係という感じで自分が変化して少しよかったねというよりも、もっと大きい視点の映画を作りたいといつも思うんですけどね。
自分の傷が少し癒えて生きていけるようになりましただけではなくて、もう少し大きい自然界とか、どうやって自分たちが生きていくのか、生かされているのかという社会にコミットした映画を作りたいなと思っています。撮るときにも、どういう距離感でそういうものに向かっていくか、ある事件をそのまま描くのではなくて自分が映画とどういう風に接するのかということを距離感として測ることを大事にしていますね。
ーワーホリなどで20代の人たちが自分探しや、目標を探しにカナダに来ています。ぜひ若者に勇気がわくメッセージをお願いします!
映画づくりでもそうですが、積極的に物事を考えよう考えようとするほど、自分が何を思うかをゆっくり考えないと空回りしていくんですよね。無理やり引っ張り出そうとしても出てこないので、焦らず自然と力を抜いている瞬間にふっと出てくることを私は大事にしています。なかなか思いつけないものを、いろんなものを見たときに自然と思うことが、すごい大事なんじゃないのかなと思いますね。
【大森立嗣監督 プロフィール】
大学在学中に8ミリ映画を制作し、卒業後に俳優として活動しながら、様々な作品で助監督を務める。2005年に芥川賞受賞作を原作に映画『ゲルマニウムの夜』で初監督を務め、国内外で高い評価を受ける。2013年公開『さよなら渓谷』は自身初の国際映画祭で審査員特別賞を受賞。今映画祭では上記2作品が上映された。そのうちの1つである『日日是好日』は第43回 報知映画賞において監督賞を受賞。
今年9月6日には日本にて最新作『タロウのバカ』が公開予定で自身が監督、脚本、編集を務めた。
6月26日『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』Q&A密着ルポ
Q なぜこの漫画を映画の題材として選んだのですか?また何か大変なことはありましたか?
A 実は最初にこの漫画を読んだとき、あまりにも主人公がお母さんに依存しすぎていて、僕のタイプじゃないなと思ったんですけど、お母さんの視点をゆっくり読んだら映画になるんじゃないかなと思いました。すごくいい景色の中で親子3人で話し合うシーンは原作にはなかったものです。お母さんの想いをちゃんと表現することによって非常にいい作品になったのではないかと思います。
Q 日本でのステレオタイプではない、感傷的な日本人男性についての反応はどうでしたか?
A うーんどうだろう(笑)。男はこういうもの、というところが日本にはあるんじゃないですかね。なかなかあのメソメソ日本男児は、日本人のステレオタイプから考えたらいないですもんね。一部ではこのマザコンということに特に日本の女性は割と苦手だなと思う声も聞きましたね。
Q この映画で伝えたい一番のメッセージは?
A 日本では、死をどう捉えるか、受け入れるかがだんだん難しくなっていると思います。高齢化社会ということもあって、そういうことを考えるきっかけになればいいかなと思いました。
6月27日『日日是好日』Q&A密着ルポ
Q なぜ映画『道』を映画の中で登場させたのですか?
A 僕は白黒映画ですが『道』という映画がすごく好きで、素晴らしい作品だと思っています。原作でも同じようにエッセイがでてくるというのもあって映画の中に登場させましたね。
Q 日本の大女優である樹木さんの印象はいかがでしたか?
A 樹木さんと会うのはこれが初めてでしたが、樹木さんは演技しているところと普段の日常との境目がわからないところがあって。樹木さんが演技しているときに助監督が話しかけてしまうこともあったりして、そのくらい自然体でやっているところにびっくりしました。ご自身で運転して現場にも来られていましたし、そういう自分が女優として表現することと、自分の生き方が一体化しているというのがすごくかっこよかったです。
Q なぜ縁側でコーヒーを入れるシーンがあったんですか?
A あそこは実は希林さんとお話をしてて「もう1シーン私のシーンないかしら?」みたいなことをおっしゃったんですよ。それで少し考えて、お茶だけでなく、彼女の隙というか、コーヒーを飲んでいるところがある方が彼女の奥行きが出せると思いました。