短編作品「その空気は見えない」 藤村明世監督に密着&インタビュー|トロントを訪れた著名人
是枝裕和監督が総合監修を務めた『十年ten years Japan』がトロント日系文化会館で上映。
3月15日、トロント日系文化会館にて、是枝裕和監督が総合監修を務める『十年ten years Japan』の上映会が行われた。この映画は原発問題や軍事問題、AI技術など未来にかけてのあらゆる問題に焦点が当てられている。今回、その中の短編作品の一つでもある「その空気は見えない」の藤村明世監督が上映に合わせて来加。上映会では多くの観客で賑わい、舞台挨拶とQ&Aセッションでは大いなる盛り上がりを見せた。
放射線で汚染された10年後の世界を想定して描かれた映画、「その空気は見えない」
ートロントに来られたのは今回の上映会が初めてですか?
バンクーバーとビクトリアは以前来たことがあるのですが、トロントは初めてです。まだ着いて間もないですが、トロントは、バンクーバーと比べて都会的な印象を受けました。
ー原子力の放射線で汚染された世界を想定していますが、このストーリーを書いたきっかけは何ですか?
〝10年後の世界〟というテーマでコンペが行われ、ストーリーをもとに、若手の監督40人のなかから選ばれました。自由に書こうと思い考えていた際、一番自分のなかで大きかった出来事として2011年の震災が浮かびました。それまでの価値観が大きく変わった出来事でもあるので、それをテーマに書こうと考えました。また、小学生のとき読んだ『世界がもし100人の村だったら』のなかで、ウクライナのマンホールで暮らしている子供の話に衝撃を受けたのもあり、それをヒントに物語化しました。
脚本にキャスティング、撮影…映画が観客に届くまで
ー脚本もご自身で手掛けられたということですが、段取りはどのように進みましたか?
選考のあとはストーリーラインをブラッシュアップし、脚本を書きました。そしてシーンごとに箱書きで何が起こるかを決め、内容やセリフなど細かい部分を足していきます。出だしの部分と終わりの部分は最初から決めていました。
ーキャスティングは藤村監督ご自身で決定されましたか?
キャスティングは今回自由に決めていいということでした。池脇さん(池脇千鶴・母親役)が昔から好きで、ダメもとでお願いしたところ、快く受けてくださいました。子役に関しては、子供の演技を見て選抜しました。大人の目を気にせず、自然に演技できている、素直な点がよかったです。
ー物語を創り撮影するうえで、工夫、苦労された点はありますか?
地下に住んでいる設定なので、ロケーションを選ぶ必要がありました。バブル崩壊で廃墟になった福島県のホテルで撮影を行いました。
ー日本での反応はどうでしたか?
日本で公開された際は、「暗いね」と言わることが多かったです。一方で、「子供がよかったね」とのコメントもいただきました。具体的な結末は描いておらず、観てくれた方々がに家に帰って考えさせる作品となっています。
ートロント以外の世界の都市でも上映されていますね。
韓国の釜山、台湾の台北、アメリカのシカゴの上映会に行きました。アメリカでは観客がずっと笑っていて、「こんなところで笑うんだ」と見ていて面白かったです。Q&Aセッションでも質問の手がやまず、時間切れになりました。日本より韓国と台湾、それよりもアメリカでの観客の反応が大きかったです。
演技の世界から、制作をする側の映画監督へ
ーもともと女優になることを志していたそうですね。
当社は、映画「ホームアローン」のマコーレー・カルキンに憧れていたので、女優になれば会えるかもという思いがありました。また、将来なりたいものが多く、全部なれるのが女優さんというお仕事だったので、目指していました。
ーどうして監督の道に進んだのですか?
幼稚園から小学校の頃まで女優さんを目指して劇団に通っていましたが、中学生の時に沢尻エリカさんにお会いして圧倒され、違う道に進むことを決意しました。しかし現場はみんなで作っているという感じが楽しくて、将来携わりたいと思うようになっていきました。お芝居を教えてくれた女性の先輩に憧れがあったのもあります。また、中学生の時に是枝監督の『誰も知らない』を観て、裏方の監督が映画の中心であることを知り、大学を選ぶ際に映画について学ぼうと考えました。
ー監督という仕事の楽しさはどんなところですか?
制作の中心に入れるところです。周りの人の才能を引き立たせて自分の目指す方向に向かうことができる、贅沢な仕事だと思っています。
憧れの是枝監督との対面、そして制作
ー総合監修の是枝監督とは、制作中にはどのような関わりがありましたか?
この映画の製作当時、是枝監督は『万引き家族』の制作もされていました。そんな忙しいスケジュールのなか、複数回にわたりアドバイスやフィードバックをいただきました。
ー是枝監督はどんな方ですか?
監督とは今回の制作を通して初めてお会いしました。自分の意見を押し付けず、自分がこうしたいと思っている部分を無意識的に引き出してくれる方です。やりたいようにうまく誘導してくれ、すごく応援してくださいました。
幅広いジャンルの映画が期待される藤村監督の注目の今後
ー将来目指している監督像などはありますか?
是枝監督が憧れなので、お手本にさせていただいています。また、近い将来、海外で映画を撮影したいなと考えています。
ートロントも一つの候補地ですか?
はい、ぜひ(笑)。
ー今後とってみたい映画のテーマなどはありますか?
子供関連のドキュメンタリーを制作したいです。『世界がもし100人の村だったら』で登場するごみ山に住んでいる子供たち、銃で訓練している子供たちなどに印象を受けたので、そのような子供の問題を提起する映画を撮りたいと思っています。また一方で、人魚が出てくるようなライトでポップなものを撮ってみたいです。ジャンルは特に決めてはいませんが、色々なジャンルに挑戦してみたいです。
Q&Aセッションハイライト
ーどのようにして原発の問題について描こうと考えたのですか?
〝10年後の世界〟というテーマで、どんな話を書いてもいいということでした。そこで、この10年の間に身の周りで起きた出来事について考え、2011年の東日本大震災を思い出しました。その地震により起きた福島の原子力発電所問題で、空気が怖いものなのではないかと思い、恐怖を題材にできればよいと思いました。
ー制作中、是枝監督から影響を受けたことはありますか?
是枝監督からは脚本の段階で3回、撮影後の編集で3回フィードバックをいただきました。是枝監督は映画『万引き家族』の撮影中で大変忙しかったようですが、フィードバックを丁寧に行ってくださり、自分のやりたいようにうまく誘導してくださいました。具体的には、最初は子供だけの設定でしたが、非現実的ということで、母親の行きすぎた愛情とそれに対する子供の反発も加えました。
ー最後のシーンについて、子供が何を見たか説明がないですが、観客に何を期待しますか?
何を見たかは映画を観た方に委ねたいと思っています。あの世界から外に出た外の世界ははっきりとは答えを出したくないので、映さないことに決めました。この作品の一つのテーマは原子力の放射能ですが、もう一つのテーマは子供の好奇心の素晴らしさです。子供の好奇心を大人の力で抑圧させてはいけない、と考えて作りました。この作品を観て、私たちの未来を考え直すきっかけにしてほしいです。自分自身でもよく考えたいと思っています。
ーこの作品は暗く悲しいものだと思います。なぜ未来に希望を見出していないのですか?
日本では既に公開されましたが、毎回「暗いね」というフィードバックを受けました。昨日シカゴで上映した時も、同じような質問をされました、今の世界ではハッピーな結末は作れないと感じていますが、私の作品に関しては、未来に絶望しているわけではなく、日本の明るい未来を願って制作しています。若者はいろんなことを考えることを止めてしまっているように感じているので、この映画が考えるきっかけになれば幸いです。次はもっと違う明るい作品を作りたいです。
ー(作品の中で)子供はお母さんの手で身の安全が守られています。ですがそれは、同時に夢や未来を失うことでもあります。そこで、危険を冒して自らの未来や夢を追っていく。(地上への道が)「子供だけがいける場所」というのが印象的でした。
「子供だけが行ける場所」というセリフは作品の中でも自分の中でも大切にしいているものだったので、注目していただけて嬉しいです。