トロント日本映画祭に登場!今注目の人気女優 松岡茉優さん スペシャルインタビュー&舞台挨拶を徹底ルポ |トロントを訪れた著名人
カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」に出演し、世界的にその演技力が評価され始めている人気女優の松岡茉優さんが、トロント日本映画祭に登場。今回の映画祭では、初の出演作品『勝手にふるえてろ』のほか、『ちはやふる-結び』、『blank13』の3作品だ。松岡さんは6月12日と13日の2日間に渡り舞台挨拶に登壇し、上映後はQ&Aセッションにて、観客からの質問やメッセージに身振り手振り笑顔で応えた。
スペシャルインタビュー
12日に上映された『勝手にふるえてろ』は、芥川賞を受賞した経歴を持つ綿矢りさの著書を原作とした映画作品で、松岡さんの初主演映画でもある。青を基調に、オレンジや赤といった華やかな色が散りばめられたドレスを纏った松岡さんに同世代の若者へのメッセージなどお話を伺った。
ー今回、主演映画を含め出演作品が3作品も上映されるのですが、どのようなお気持ちですか?
数日前にこちらに来ていた吉田大八監督の「桐島部活やめるってよ」は私も出演していた映画で過去にはこの映画祭でも上映されたと聞きました。その時はこちらに来ることができませんでしたが、ちょうどこの3作品が同時に選ばれて呼んでもらえて嬉しいです。
ーカナダ・トロントの雰囲気はいかがですか?またどんなイメージでしたか?カナダに住みたいとか思いますか?
カナダに来るのは今回が初めてなのですが、今まではとにかく広大な土地という印象がありました。でも、車で15分30分移動しただけで街並みが全然違うし、日本に比べてとても大きな国だけど、場所によって雰囲気が変わるのは日本同様に魅力的だなと思いました。それとすごく緑が多いと感じました。私は日本が大好きで、おそらく30歳くらいまでは確実に日本で暮らしていると思うので、ちょっと今はカナダに住んでいる姿は想像がつかないですね。
ーご自身で演じたヨシカ(勝手にふるえてろ)やクイーン(ちはやふる)の様な女性像は、海外の人にどのように映ると思いますか?
ヨシカやクイーンは、一見全く違う人に見えると思いますが、私自身とそんなに遠くない人物かなと私は思っています。特にヨシカは母や友人などから私と似ているという感想をもらいました。私の演じた2人がこうやってカナダの方々に見てもらえるのを嬉しく思っています。
ー映画上映を通じて、カナダの人にどういったことが伝わればよいと思いますか?
カナダのティーンの人たちがどういった暮らしをしているのか私は知らないので、おそらくカナダの人も日本の若い人がどんな暮らしをしたり、どんなことを思っているかはなかなか知らないと思います。大多数ではないけれど、ヨシカと似た生活を送っている子は日本にいると思うので、カナダの方に日本の若い女の子の生活を知ってもらえたら素敵かなと思います。
ー海外と日本の上映会では、観客が笑ったり反応したりするポイントが違うとよく言われますが、松岡さんの演技ではどんな反応があったら嬉しいですか?
共感してもらえたらと思います。日本とカナダでは、生活も考えていることも、親御さんからの教えも違うと思うので。そんな違いはあるけれど人を好きになる想いとか、友達との関係性とか。どのシーンでも良いのですが、日本とカナダは遠い国だけど同じ人間ですので、どこかで共感をしてもらえて共通点を分かり合えてもらえたらすごく良いなと思います。
ー初主演の『勝手にふるえてろ』が、すでに海外でも上映され、7月にはニューヨークでも上映されると聞いています。ご自身の出演作品が海外に飛び立っていくのはどういうお気持ちでしょうか。
東京国際映画祭ではいろいろな国から来た方が映画を観てくれる機会がありました。ヨシカは日本の20代前半のあまり冴えない女の子ですが、そんな女の子の数か月の物語を一緒に観てくれたというだけで嬉しかった思い出があります。なので、ニューヨークも含めて海外のたくさんの人に映画を観てもらえるのでとても光栄なことだと思います。
ー今回の映画祭を通じて初めて松岡さんに魅了された人に対して、過去の作品を含めて特に見てもらいたいご自身の作品をいうとすれば何でしょうか?
とても迷いますがこの映画祭でも上映されたことがある吉田監督の『桐島、部活やめるってよ』です。日本が好きなカナダの方の中にはファンの人もいるんじゃないかなというくらい、今の日本でとても人気がある俳優たちがまだ駆け出しの時の作品です。
主演の神木さんはすでに有名でしたが、お芝居が初めての人もいましたし、今日本で人気の俳優たちが、当時はこれからという時だった映画です。私を含めてぜひこの作品を振り返って高校生の時の私たちを見てもらえたら嬉しいと思います。
ーここカナダには、松岡さんと同年齢の多くの日本人が留学やワーキングホリデーなどで生活をしています。同世代としてメッセージをいただけますか?
実は昨日、関係者の方とのお食事会に留学に来ている日本人の女性がいました。彼女は来て1か月とのことでしたが、カナダの良さも、カナダの人々の温かさも感じていました。自分の生まれた場所ではない国で、何か月も何年も生活をするというのは、とても素敵な体験だと思いますし、羨ましいとも思います。でもやっぱり、日本の味みそ汁が恋しくなったら、日本に帰ってきてゆっくりなさってくださいね。
2夜連続でトロントの観客に英語で挨拶を披露
カナダで初の舞台挨拶となった『勝手にふるえてろ』の上映会場は満席。主催者の日系文化会館(JCCC)のジェームス館長から、松岡さんの近年の略歴と共に、もし松岡さんを知らない人でも、今夜上映2時間後にはきっと好きになっているだろうと紹介がされた。いよいよ松岡さんが会場に入ると、会場は盛大な拍手で出迎えた。
舞台挨拶が始まると、松岡さんは「2行だけ英語を勉強してきたので、2行だけ英語を話します」と言い、この日のために練習してきた英語を使って挨拶を披露。「Thank you for inviting me. I’m so happy that Japanese movies are loved by Canadians. Thank you.」と、可愛らしく、しかし映画祭への感謝の気持ちをしっかりと英語で披露した。これには会場のトロントニアンも感激した様子で、拍手喝采となった。
その後、ここからは日本語で失礼しますと一言入れ、「改めまして、松岡茉優です。今回呼んでもらった映画『勝手にふるえてろ』は、日本の多数派ではない女の子のお話です。でもそんな大多数の人に圧倒されているような心を持つ人が、世代や男女を問わず、カナダにもきっといるはずだと思っています。今回お時間頂きましたので、この2時間の映画の中で、カナダの方も、カナダに住んでいるカナダ人以外の方も、共感するところがあったら嬉しいと思っています。
映画が終わった後にはQ&Aもありますので、些細なことでも構いませんので何でも聞いてください。日本のちょっと可哀そうな女の子の気持ちが皆さんにも届きますように。」と挨拶を締めくくった。笑顔で来場者に挨拶をする姿に、会場からは暖かい拍手と共に、〝キュート〟という声が漏れていた。
海外の観客が映画を楽しめたか気に掛ける松岡さん
映画上映中には会場から多くの笑いが起こり、エンディング後には拍手が巻き起こった。再びステージに戻ってきた松岡さんからは、「映画を観てくれてありがとうございました。退屈せずに観ていただけましたでしょうか。」と、海外の観客を気遣う言葉が投げかけられた。
続いて行われたQ&Aセッションでは、まず初めに、ジェームス館長から作中のミュージカルシーンについて、松岡さんが非常にパワフルに演じていることから、何故ミュージカルを取り入れたのかと質問がされた。松岡さんは、「作中のミュージカルシーンは見ていただくと分かるのですが、どんでん返しのシーンになっています。それを効果的にお客様に分かってもらうためにどうすればいいか、監督が考えた時にそのアイデアが出てきました。」と回答。監督はヨシカの心情が出ることを熱望していて、ボイストレーニングなどに通うことも禁止されたのだと裏話を披露。「実際にはもう少し歌が上手いです!」と付け加え、会場の笑いを誘っていた。
ヨシカは演じたというよりも、ありのままの自分
観客からは松岡さんに直接質問をぶつける機会を逃すまいと、映画にまつわる質問から、松岡さん自身への質問まで、様々な疑問が飛び交った。中には、松岡さんが回答に困り、うーんと考えこむ場面や、質問者に質問を返す場面なども見られ、来場者とコミュニケーションが生まれ、会場が一体感に包まれた。
その他にも松岡さんは、激しい気性のヨシカというキャラクターについて、「ヨシカは演じたというよりも、ありのままの自分に近い人物」と会場を驚かせ、時には悩み、微笑み、可愛らしく質問に対して答えていた。
また演じたキャラクターのバックグラウンドに関する質問に対し、日本のオタク文化などと絡め、鋭い視点で考察する姿が印象的であった。更に、質問者が『モーニング娘。』のメンバーのTシャツを着ているのを見つけた時には、松岡さんは大興奮。自身を大ファンだと自称する松岡さんは、観客に対して『モーニング娘。』推しをするなど、Q&Aセッションを楽しんでいる様子であった。
『勝手にふるえてろ』Q&Aセッション
Q: どういったバックグラウンドが、キャラクターを演じる上での手助けになりましたか?
A: この映画の原作は綿矢りささんの作品なのですが、原作ではヨシカの心の声だけが書かれていて、モノローグだけで話が進み、彼女が見ている風景で物語が進行します。演じるにあたっては、彼女の思っていることをヨシカと同じ気持ちで感じられるようにと意識しました。
ヨシカは松岡さんのパーソナリティーとだいぶ違う人物のように思いますが、どうしてこのキャラクターを演じようと思ったのですか?
それがですね、私の親しい友人や母からは、「あれはお芝居だったんですか?」と聞かれるくらいに、ほとんど私自身と変わらないようなんです。
Q: 松岡さんだったら、どの様なアドバイスをヨシカにかけてあげますか?
A: なかなか取り返しのつかないところまでいってしまっている子なので、何も言えないかもしれないけど、ずっと幸せになってほしいという思いは持っています。これは、今まで演じたどのキャラクターに対しても思っていることです。
Q: 私は27歳でボーイフレンドが出来たことがなく、ヨシカにとても親近感を感じました。何か私にアドバイスをしてもらえますか?また、松岡さんは愛ってなんだと思いますか?
A: 私は映画に出演したりしていますが、日本の俳優さんの中でも大変地味な方でして。あまり華やかなアドバイスはできないと思います。でも、日本でこういう上映後のQ&Aがあっても積極的に手を挙げて質問してくれる方は少ない方です。だからこのような場で手を挙げてくれて、今お話してくれたことや、明るい様子を見ていても、絶対に素敵な男性が現れると思います。前向きだし、日本の多くの女の子にはない強さを持っていると思いました。愛は…、私も探しています。
Q: 何がヨシカを他人に触れることから遠のかせているのだと思いますか?
A: 人に嫌われたくないというか、周りの人にどう思われているのかというのが異常に気になるタイプなのだと思います。周りがどう思っていようと、私はこれが好きなんだという風には出来なかった子だと思います。その思いが色々な所とぶつかって、ああいう中身の彼女になってしまったのだと思います。
Q: 多くの日本の女性が、ヨシカのような一面があると話がありましたが、それは日本の文化が影響しているのでしょうか?
A: これはおそらく、海外でも変わらないと思いますが、学校生活において、特に女の子は順番をつけることがありますよね。その中で、彼女は多感な時期にどんどん下に追いやられていってしまったのだと思います。
あと日本特有だと思うのはオタク文化です。カナダ人の皆さんも秋葉原のメイドさんなどはご存知かと思います。でもオタク文化ってもっと種類があります。ヨシカも下に追いやられていく中で、たくさん逃げ道があって日本特有の逃げ方をした結果、ああいう人と接するのが苦手な女の子になっていったのだと思います。ヨシカの人間形成はオタク文化と密接に繋がっていると信じています。
Q: 『勝手にふるえてろ』というタイトルを見た時、私はストーリーが全く想像できなかったんですが、松岡さんはどういうイメージを持ちましたか?
A: 俳優として気になったのは、劇中にその言葉を私が言うのか、誰かが言うのか、誰も言わないのかという点です。映画になると、原作とはまた違う人が言うということも多々あると思うので、原作を読んでいて、まずはあの台詞を誰が言うのかということが気になっていました。
Q&Aセッション最後まで多くの人が手を挙げ続け盛況に包まれていた。多くの人が質問をするその様子には、松岡さんも大変感心した様子だった。会場を訪れた多くの人が一本の日本映画を笑い、悲しみ、共に観賞することができた一夜で、松岡さんが言及していた「共感する」ということを体現できたのではないだろうか。
国は異なっても、人々が感情を共有している事実に対し、松岡さんは「(共感してもらえるのは)とても嬉しい。それなら、映画を作る上で、どの国のクリエイターさんとも同じ感覚で作れますね」とコメントし、映画制作に携わる立場からも喜びの声を見せていた。
『ちはやふる-結び』舞台挨拶
続く13日には『ちはやふる-結び』の上映がされ、この日も英語で冒頭スピーチをし、拍手を浴びた松岡さん。服装は前日とはガラリと雰囲気を変え、大人らしい落ち着いたドレスで登場。ゲストとしての最終日となるこの日も、トロントの人々との交流を楽しんでいる様子であった。
印象的だったのは松岡さんから会場に向けた最後の挨拶だ。「今日、この映画を観ようと思ってくださって、Q&Aセッションにまで参加してくださって、本当にありがとうございました。色々な世代の方が、しかも私からすると13時間のフライトをかけて訪れたこの国の方が、この映画を観てくれたことに自信を持って、日本に帰ろうと思えるくらい、最高の体験でした。これからも色々な種類の映画に出ていきたいと思うので、私や監督の名前をどこか頭の片隅に残してもらえたら嬉しいですし、日本の映画を好きになってもらえたら嬉しいので頑張っていこうと思います。これからも日本の映画と日本を楽しんでもらいたいですし、私もカナダの映画や文化を愛していきたいと思います。」と会場を感動の渦に包み込んだ。