押さえておきたい アメリカ中間選挙
オバマ大統領にとって正念場となる中間選挙が2014年11月4日に予定されている。この選挙では上院議員の三分の一、下院議員の全員が改選となるが与党民主党とオバマ大統領にとっても苦しい戦いが予想されている。ただ、この選挙は結果よりもそこに至るまでに起こりうる数々の議論、ゴシップがアメリカのみならず世界を揺れ動かすことになるかもしれない。
2014年、北米ではレームダックという言葉を頻繁に耳にするかもしれない。Lame Duckとは足の不自由なアヒルという意味だが、一般には任期が残っているのに役に立たない議員や首相、大統領を指し、今、それを指すのがバラクオバマ大統領その人と言い切ってもよかろう。
しかし、現時点ではまだ、片足が不自由な程度でヨチヨチと動けるが11月4日のアメリカ中間選挙においてもう片方の足も不自由になるとすればこれは共和党が笑うというより、世界が混乱する可能性すらある。
バラクオバマ氏の支持率を測る世論調査は数々あるが、最新のものでは一様に5割を切り、不支持率は5割を上回る状態が続く。トレンドとしてはこの1年に支持率は10%ポイントほど下げていると考えてよい。
理由はオバマケアのトラブル、債務上限問題、予算措置から一部政府機関の業務停止などの国内問題のほか、スノーデン問題に端を発した通話、メール傍受問題は世界中に波紋を広げ、ブラジル大統領に至っては訪米を中止としたほどである。それだけではない。シリア問題ではオバマ大統領にしては珍しく血気盛んに本気で攻めると意気込んだものの盟友のイギリスが腰砕けになり、アメリカ国内での非難も相次ぎ、挙げたこぶしを持っていくところがなくなった実に格好悪い役を演じてしまった。
その大統領氏は恐妻から逃れるようにゴルフコースに引きこもり、クラブを振り回しているときだけが快感となってしまった。それならばティーパーティーなぞは恐ろしくて腰が抜けてしまうのではないかと思われても仕方がない。
その中間選挙に向けて与党民主党と野党共和党の戦いは白熱することが確実視されている。今の段階でどちらがどう、ということは差し控えるが、オバマ率いる民主党が仮にも負けることになればアメリカが機能するのか、まったく予断を許さないことになる。
では、物理的なその戦いの土壌はどうなのであろうか?まず、下院は全議席の選挙になる。こちらは現在共和党が主導権を握っており、ねじれ解消のため、民主党が主導権をとるには共和党から17席も勝ち取らねばならない。ではそれは可能か、といえば歴史だけ辿ると野党が下院の主導権を握った場合、中間選挙でそれがひっくり返った例はない。
次に与党、民主党が過半を抑える上院だが、こちらは35席の入れ替えになる。この35席のうち、現在21席もつ民主党の議席を6席共和党に奪われれば上院のオセロは入れ替わる。このわずか6席の攻防だが各州の状況を見ると民主党がかろうじて抑えている州での改選が多く、共和党が攻め入れば山を崩せる状況にある。
つまり、上院、下院それぞれ与党、野党となる組み合わせは全部で4通りしかないが、民-民の組み合わせの確率と共-共の組み合わせの確率を考えると後者が有利に見える。仮に共-共の組み合わせが成立すればオバマ大統領の残りの任期2年は本当のレームダックとなってしまうであろう。
オバマ大統領が何故、冴えないか、一つには「演説のオバマ」と称され、「政策とブレーンのオバマ」ではないということかもしれない。例えば外交一つにとっても人事政策は失敗でアジアの時代を迎えたのにアジア外交の専門家がブレーンに少ないのは何故だろう。例えばライス大統領補佐官の発言はどうもそのあたりの理解度が十分ではなくアメリカの対日、対中政策に混乱をきたしているように見える。クリントンが抜けた痛手はあまりにも大きい。
また、オバマ大統領のユダヤ政策も評価が低い。アメリカにはイスラエルにいるユダヤ人とほぼ同数のユダヤ人が住み、政治経済を牛耳っている。そのユダヤを敵に回しては勝てる勝負すら失うも同然である。オバマケアは確かにヒスパニックやアジア系アメリカ人には支持されるかもしれないが、選挙というゲームはまったく違う次元の戦いを要求される。今、オバマ大統領率いる民主党にその準備ができているかといえばどうもすっきりしない。
これを読む読者の方々はアメリカの選挙で何故、熱くならねばならないかとお考えになるだろう。だが、私はこの伯仲する戦いを通じて日々のゴシップ、世論調査で市場は揺れ動き、ボラティリティが高まり、株価や為替は方向感を失うかもしれないと見ている。もちろん、それは日本にも大いに影響するはずだ。
世界は残念ながらアメリカという国に振り回されるようになっている、少なくとも今しばらくは。だから債務上限問題や金融の量的緩和からの離脱時期があれだけ世界で大騒ぎされるのだ。アメリカ国内の中間選挙というこの人為的ゲームが2014年最大のラスベガスショーとなってもおかしくはない。
我々は指をくわえてその行方を見るしかないが、せめて、その動向を抑えておけばなかなかの博識と思われるかもしれない。
了
岡本裕明(おかもとひろあき)
1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、(株)青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模集合住宅開発事業に従 事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を推進し完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場 管理事業、カフェ事業など多角的な事業展開を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。