国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるオンタリオ州・オシャワ市におけるスマートコミュニティ実証事業の成果報告会
2月19日、オシャワ市庁舎にて国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるスマートコミュニティ実証事業の成果報告会が行われた。NEDOと田淵電機株式会社、そしてオシャワ電力が合同で行った今回の報告会。2015年よりこれらの団体の協力により実施されてきた住宅へのソーラーパネルや発電システムの導入など、スマートコミュニティの実現の前身となるプロジェクトの成果が報告された。
今回のプロジェクトは太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの有効性を検証すべく始動。現在、オンタリオ州では中長期的計画として再生可能エネルギーのさらなる導入を図っている。しかし、それと同時に今回プロジェクトが行われたオシャワ市では凍害などによる停電が大きな課題となっているそうだ。これを踏まえ、課題解決へと一歩を踏み出すべくNEDOと田淵電機がオシャワ電力と協力して今回のプロジェクトが実現した。
冒頭、オシャワ電力(OPUC)のCEOであるイバノ・ラブリチョッサ氏は、このプロジェクトのこれまでの道のり、そして功績を称えた。2015年にプロジェクトが始動してほんの6ヶ月で30戸もの家庭がプロジェクトの一部となった。そのスピードはもちろんだが、その上に今まで挑んだことのない未開拓の市場だったため様々な不安があったと語った。そんな中、このプロジェクトは成功したとラブリチョッサ氏は語った。しかしながら、これは新たな挑戦のスタート地点に過ぎないと加え、これから先30年も続くだろうと期待を寄せた。この長期的なプロジェクトに取り掛かる中、このような顕著な結果と心強い関係をNEDOと田淵電機とともに築けたことがありがたいと結んだ。
続いて登壇したNEDOの表理事は関係者に謝辞を述べた後、今回のプロジェクトのような協力の大切さについて言及した。世界規模の環境問題を解決するには複数の国家が協力し合うことが不可欠だとした上で、今回のプロジェクトはカナダが抱える環境問題に日本の技術力で立ち向かったと述べた。
続いてこのプロジェクトの概要が田淵電気より説明された。プロジェクトに参加した30戸の家庭には蓄電池と太陽光インバータのシステムを設置し、さらに、このシステムでは住民が三つの異なる「運転モード」から選択出来るのが強みであると語った。中には「ノーマルモード」や「省エネモード」、さらには「蓄電モード」もあり、充放電のレベルを自由に調整することが可能だ。これにより、例えば「蓄電モード」にした際には電気を蓄え、災害時にも備えることが可能となる。
また二つの主な実績を説明。一つ目に、このシステムがプロジェクト参加者にとって有効だったと述べた。環境に配慮したエネルギーであるだけでなく、経済的かつ安全なエネルギーであることが実証出来たと述べた表理事。使用エネルギーの平均60%が太陽光発電により生み出されたと同時に、各家庭において年に平均760ドルもの節約が実現したそうだ。そしてこのプロジェクトの趣旨の一つでもあった災害時の対応も実証されたと加えた。これを踏まえ、太陽光パネルのコストが下がるにつれ、電力の自給がさらに普及するのではないかと期待を寄せた。
二つ目に、電力会社にとっての利点も今回明らかになったと述べた。電力を計画的に蓄えることが可能となった今回のシステム。今回のプロジェクトでその可能性が実証されたことにより、これからはOPUCなどの電力会社も需要の変動に応じて効率的に電力を配給することが可能となると説明した。これにより、電力会社にも新たな価値が生まれるのではないかと述べられ、現在OPUCもこれに基づき新たなビジネスモデルに挑戦していると、このプロジェクトがいかに大きな影響を与えているかを強調した。
また、今回のプロジェクトの将来性についても言及された。NEDOとして今回得た知見をこれからカナダのみならず世界中で行う事業に役立てていきたいと語った。事業の実現を可能にした全ての関係者に謝辞を述べると同時に、これからさらに環境へ配慮したオシャワ市の発展に貢献していきたいと結んだ。
また、来賓として在トロント日本国総領事館・大湊首席領事が今回の報告会に参加し、日加両国が環境問題に立ち向かうべく協力している姿を称賛した。「既に成功しているように思える」と述べた上で、このプロジェクトの重要性を改めて指摘し、これから先どのように環境問題へ貢献していくのかを見るのが楽しみだと期待を寄せていた。さらには、オシャワ市が皮切りとなり他の国や都市でも同じように再生可能エネルギーへのシフトが見られることを願うと加えた。
OPUCのラブリチョッサ氏は今回のプロジェクトが長期的にも重要であると指摘。今回用いられた技術はどれも最新技術であり、今までにも例を見ないものであったと言う。しかし、今回のプロジェクトによりその可能性が実証され、これから先さらに普及するだろうと加えた。しかし、普及させるためには課題もいくつかある。中でも、ラブリチョッサ氏は電力や環境への挑戦は一度限りではなく長期的なものであると強調。今下す決断が20年・30年後にも影響があるため、今回のようにしっかりと実証した上で実用へと持ち込むことが肝心だと加えた。そんな中、今回のNEDOと田淵電機が開発したシステムは安全性と信頼性に優れていると述べ、だからこそオシャワ市としてもこのプロジェクトに参画する決断を下したと強い意思をあらわにした。
また、今回の報告会ではプロジェクトの参加者による質疑応答も目立った。中でもその実用性や最適化の方法など、これからこのシステムをさらに長期的に使用していく上で不安要素となり得る点についての質問が多く聞かれた。これを受け、ラブリチョッサ氏は一つ一つの質問に対し丁寧に応答。今回の実証の重要性や、長期的な投資であるためOPUCとしてユーザーに寄り添っていかなければならないということを改めて強調した。
また、田淵電機は電力会社がこの先導入するであろうビジネスモデルについて言及。中でも、電気を電力会社に売る卸供給事業者(IPP)の役割の重要性を指摘した。ビジネスモデルの一つとして、IPPが電力会社に電気を販売し、電力会社がその電力を住民に配給する、というモデルを強調。ハワイ州では既にこのモデルが用いられ、現在では多くの企業がこのビジネスモデルへの参入を計画していると述べた。さらに、住民への安定した電力供給のためにもこのビジネスモデルが役に立つのではないかと加えた。
太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの可能性と将来性が改めて明らかになった今回のNEDO・田淵電機・OPUCの合同プロジェクト。オシャワ市のみならず他の都市でもこのモデルを導入する動きがこれから増えるのではないか。このように最新技術の面においてもカナダと日本が協力を続け、サステナブルな社会の実現に貢献していく姿をこれからも期待したい。