「おいしさ」とは何か?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第26回
本質的な問いに向き合う
コロナによってビジネスが大きな転換を迫られ、自分たちは世の中に対して何を提供できるのかというような本質的な問いに向き合わざるを得ない状況にいるのは、自分だけではないでしょう。ラーメン屋はどうすればおいしいラーメンをお客さんに届けられるのか。そもそも「おいしさ」とは何か。今回はそういったことを考えていきたいと思います。
一杯のラーメンを食べる体験からうまれる価値
「おいしさ」という事を「味」に限定してしまえば、それは塩味、甘味、酸味、苦味、うま味の五味に加えて、辛味、渋味を加えた、味覚で感じることが出来るそれぞれの要素のバランスに尽きるかと思います。しかし「味」を広げて、嗅覚を刺激する香りという要素が加わると、「風味」と呼ぶことができます。さらに五感をフルに使うことで、料理のテクスチャーや温度、見た目やジュージューというような音の要素も加わり、一般的な認識ではこれがイコール「おいしさ」と考えられがちですが、実はこれは「食味」と言われるものです。結論を言うと、その場の雰囲気や誰と食べるかというような外部環境であったり、食習慣や食文化、さらには健康状態、心理状態なんかも整った上で、トータルの体験を通して、人は「おいしさ」を認識することが出来る、と言えるでしょう。
つまり、「おいしさ」を追求することは、ラーメンのクオリティのみを高めていけば良いという事ではなく、一杯のラーメンを食べる一連の体験を通して、どのような価値を提供できるか、ということを考える必要があるわけです。このような事例は飲食業界のみの話ではありません。
例えば、「世界一履き心地の良い靴」との呼び声の高いオールバーズというスニーカーブランドの創業者ジョーイ・ズウィリンガーは、店舗での体験も含めてプロダクトなんだ、という発言をしており、オールバーズがプロダクトに磨きをかけるという場合、スニーカーの素材をブラッシュアップするのと同様、店舗のレイアウトを変更することも、同じ意味を持ちます。言い換えれば、それはプロダクトの意味を拡張することと同義です。ビジネスという点で見てみても、現代はモノ消費からコト消費に移り変わり、商品ではなく体験価値を提供する、というような考え方が世の中にもずいぶん浸透してきているのではないでしょうか。
コロナ禍で突き詰められた誠実で当たり前の店舗環境

雷神の店舗内の様子
「おいしさ」に話を戻すと、ラーメン屋は、ラーメンの「味」を突き詰めるのと同様に、どのような環境下で食事をしてもらうか、という事にも注意を払う必要があり、特にコロナ禍においては、お客様の心理的安全性をどのように担保できるかが、「おいしさ」に直結します。回りくどい言い方にはなってしまいましたが、コロナ対策が不十分であったり、衛生的に気になる飲食店で食事をしても、そちらが気になってしまい味どころではないのは、感覚的にご理解いただけると思います。
また、保健所のレギュレーションがそうだからとか、そうしないとお店を開けられないからとか、そういう事ではなくどうやったら美味しいラーメンを食べてもらえるか?という本質的な問いから行動につなげていく、つまり、売るために誠実さを取り繕うのではなく、ありのままでの誠実であり、それが当たり前に出来ているかどうか、というような厳しい判断軸で店舗を運営していく必要性を強く感じています。
壮大な前フリになってしまいましたが、最後に一つお知らせです。8月17日、ラーメン雷神がようやく店内営業を再開いたしました!コロナ対策もばっちりですので、皆さんぜひ足を運んでもらえると嬉しいです。

「雷神」共同経営者 兼 店長 吉田洋史
ラーメントークはもちろん、自分の興味や、趣味の音楽、経営のことや子育てのことなど、思うままにいろんな話題に触れていきます。とは言え、やはりこちらもラーメン屋。熱がこもってしまったらすいません。