カナダワーホリ必読!留学と遊学
トロントは新緑の季節を迎え、これから夏本番。毎年この時期は街中でも多くの新しい留学生やワーキングホリデーを見かけ、海外での新生活に心躍っていることだろうと思う。夏には短期留学として様々な都市に日本の若者が訪れている。カナダは長年ワーキングホリデーの人気都市として申請応募者が殺到することで知られ、またトロント大学やマギル大学、ブリティッシュ・コロンビア大学を始めとする世界的に秀でた教育機関も多数存在し、留学都市としても知られる。ここ数年は専門スキルによる移住や海外就職を目的としたカレッジ進学などを活用する人も増加している。
今回TORJAでは「留学と遊学」と題し、様々なスタイルを紹介するとともに、社会人経験や海外生活の長い人達から様々な留学や遊学の考えを集め、特集を組んでみた。
留学業界のプロフェッショナルに聞く「留学と遊学」
昨今は、大学を1年休学し、就職活動前の英語のブラッシュアップのためのワーキングホリデービザ(以下、WH)の人や、日本で数年働き、一定のキャリアを持ちながら次のキャリアのための資格やスキルのための留学、または移住を目的として自己のスキルを最大限活用するための留学など、若者の海外スティのスタイルも多様化してきている。一方で、カナダの移民局による移民法の改定やワークパーミットの厳格化によるワーホリ・留学後のキャリアステップのハードルが高くなってきたり、今年は4月23日までWH申請の受付が開始されなかったりなどカナダ社会が抱える問題に呼応するかのように少しずつ留学市場が影響を受け、変化をしてきているように感じる。今回、BRAND NEW WAYのトロントマネージャー兼カナダ統括ディレクターの海野芽瑠萌さんとEase-Westカナダ留学センタートロント社代表の高林紘子さんにお話を伺い、現代の若者の留学・WHスタイルを教えてもらうとともに、留学市場に変化を及ぼしているカナダの社会的事情や日本の事情などを聞いてみた。
■ 毎年普通に応募受付が行われていたWHビザの申請受付が今年は4月23日までオープンにならず、多くの人に影響がでました。この理由はどうしてだと思いますか?
海野: 留学生と教育機関をつなぐ各団体からも話を聞く機会がありましたが、カナダ側として、特に留学生の締め出しを行うという意図や方向性はなく、あくまでシステム上の整備が遅れたことも原因の一つで、よりスムーズに手続きをコントロールするためだったとは聞いています。選挙結果、失業率など、もちろん要因としてはあると思いますが、私が渡航した2008年前後のワーホリの要綱は10月〜11月には翌年度分が出ていたと記憶しています。それを考えると近年のように年度が明けてからというのも遅いですから、こういうこともある、と割り切り、1年以内に渡航を決めている方は、その時点でオープンなWHビザを取得する、という方法を取るのが確実だと思います。
高林: 昨年度にオンラインでKompassなどの新しいシステムが導入され、申請者にとっても受け入れ側(移民局)にとっても多くの混乱が生じたという事や、募集定員が例年以上の早さで埋まっていったなどの状況があったことで、今年度のシステムや人数の見直し、日本へのカナダ人のWHの参加数などの要素も考慮した形でプログラムを調節するのに時間が掛かったのではないかと推測しています。また、昨年度の申請者が実際に渡航しているタイミングや時期、その人数や傾向などの要素を含めて何かしらの受け入れ態勢による調節も必要だったのかもしれません。とはいえ、実際の理由は単純に1つや2つなどではなく、色々と複雑な要素や背景があったのだろうとは思います。
■ 昨今の留学事情を教えてください。
海野: 私自身は2006年に留学を、2008年からWHに参加しています。2006〜10年ほどは、「自分探し」「キャリアアップ」という言葉が流行し、仕事を辞めて海外に行くことが社会的にも容認された時期だと認識しています。WHでも、安く、楽しく、海外での生活経験をする、と気軽に来る方も多く、カナダへの渡航人口、また1人の方の平均滞在期間も伸びたと思います。
ここ1〜2年ほどは、これらで帰国した方々の失敗談などを元にしてか、計画的に、さらにはWHや留学後を見越したプランの相談も多くなっています。 また、高校生や大学1〜2回生の方々から、既に2016~17年度の大学・カレッジ進学、大学附属語学プログラムを見越したお申込みや問い合わせも始まっていますね。
日本以外では、ここ5年ほどで一気に増えた感のあるサウジアラビアなどの中東諸国以外にも、ナイジェリアなどのアフリカ諸国からの留学者が増えています。来年以降、これらアフリカ諸国の留学者の流入を予想しています。韓国・日本はフィリピン留学などアジア留学、さらにそこからのカナダ・オーストラリアという2か国留学も盛んになり、カナダには英語だけでなく、専門知識、フランス語、ビザ、移民など、プラスのトピックの需要も高まっています。
高林: 近年ではインターネットやソーシャルメディアの発達の関係もあり、色々な情報も得やすい時代になりましたので、昔に比べて「留学に行く」ということ自体が非常に身近で簡単になり抵抗もあまりなくなったということで、留学を実現される人がとても多くなったと思います。また、その留学の目的やスタイルも皆さんそれぞれ異なりますが海外に出て視野を広げよう、経験を沢山積もう、世界に目を向けよう、としている人が増えていることはすごく良い傾向だと思います。将来的に国際社会で通用するスキルなどを身につけようというすばらしい目的をもった人が多くなれば、私達も是非とも応援させていただきたい、という気持ちが高まります。
ただ、それと同時に留学サポートエージェントや留学に関連した様々な便利サービスも豊富に提供されるようになり、むしろそれが当たり前のように捉えられて逆に自力で全部調べたり手続きしたり計画したりするという感覚が最近の留学生の皆さんには欠けているのでは、と思われる事も多々あります。また、全体的に留学をされに来る皆さんの年齢層も下がってきた印象もあり、ご自身はもうすでに立派な成人なのにも関わらず、手続きや準備に親御さんが随分と関わってくるケースも増えてきているように思います。
■ カナダの大学やカレッジ、語学学校にとって、日本人マーケットというのはどのような位置づけでしょうか?
海野: 90年代にアメリカ・カナダの都市への大きな留学ブームがあったため、日本人を多く受け入れていたカレッジ・大学機関は多く、勤勉で非常に優秀な成績を修める日本人学生は根強い人気があります。とはいえ、特にカレッジ・大学などの場合、中国・韓国・インドなど年間2万人以上の流入がある国籍に比べ、1万人に満たない日本人だけをターゲットにして専任のマーケターを置くのは難しく、どうしても2次的な位置づけにならざるを得ません。一方で、日本人のビジネス気質として、関係性・継続性だけでなく学校窓口が「日本人」であることが好まれる傾向が強く、なかなか開拓が難しいというイメージもあるようです。今はアジア留学なども盛んで、韓国人留学生が減って来ていますので、また改めて日本マーケットに目を向けている教育機関は多いです。
高林: カナダの大学やカレッジ(公立)にとっては、まだまだ日本人マーケットは少数派といえると思います。その理由としては、もともと日本ですでに大学や短大、専門学校などポストセカンダリーの教育を受けている人が殆どなのでまた改めてカナダでカレッジや大学に行って長期間で勉強し直そう、という考えにまで至らない事が多いのではないかと思います。
一方、語学学校にとっては日本人マーケットは多くの場合で大きなマーケットであり、大事なマーケットの1つであると言えます。やはり英語力の意味ではまだまだどうしても日本人は全体的に実践力に乏しい傾向にありますので、やはり日本人が留学をする一番の目的は語学力(実践的な)向上に集中するといえます。
■ 最近、大学を休学し、就職活動前に1年間ワーホリ生活を過ごす人が増えています。この理由を教えてください。
海野: 1〜3ヶ月程度の短期留学では仕事で使えるような英語が身に付かないのは、これまで多くの方々が経験の上実感していると思います。また、短期留学では、ほとんどの方が似たような体験しかできず、就職活動でのアピール力に欠ける、というのが正直な所かと思います。合わせて、就職活動でも、インターン、イベント運営など、ほとんど実務能力に近いようなスキルや経験を求められており、それらを身に付けようと思うと片手間では難しく、自然な流れとしてよりまとまった時間が取れる休学という選択肢になったのだと思います。今就職活動を行う学生さんは本当に大変だと思います。
休学留学は弊社でも応援していますが、大事なのは事前のプランニングだと感じます。先にも言いましたが、海外ボランティア、インターン、ビジネス英語など、経験それ自体は似通ったものになるのは避けられません。なんとか差別化しようとユニークで派手な活動を考えて焦っている方もよく見ますし、あれもこれもと手を出して、筋の通らないカナダ滞在になってしまう方も多いです。
高林: 日本では相変わらず大手企業による「新卒採用」の文化が根強くあるようで、大学を卒業したあとにある程度時間が経っている人や1度社会人やフリーターを経験している人向けのいわゆる中途採用はまだその枠も限られていているようなので、就職を意識している大学生の皆さんとしては、やはり新卒でスムーズに採用をされることを希望しているようです。
その場合、やはり就職活動の際に何か他の学生とは違った経験や、海外留学の体験をして英語力や資格をアピールすることができればプラスになることも多いと考え、大学卒業の前に1年間休学をしてWHを利用する方が増えているのではないかと思います。
■ キャリアチェンジや新たな資格を求めてカナダに来る方が多いですが、どのような視点で取り組むことが大事でしょうか?
海野: 自分の強みを知ること、それからキャリアが階段のようにアップ(別ランクになる)と考えるのではなく、斜め上向きに太くなっていく矢印のようなイメージを持つことでしょうか。例え国が変わっても、経験やキャリアというものは必ず繋がっているものです。今までの自分を捨てて1ランク上の全く新しい自分に生まれ変わると考えるのではなく、これまでの自分をどれだけカナダでブラッシュアップできるか、という目線が大事だと思います。
高林: キャリアチェンジや新たな資格取得に挑戦すべくカナダに来たとしても、そもそもカナダで勉強して資格を取ればその資格が仕事を持ってきてくれるわけではありませんし、あくまでもカナダで勉強してきてトレーニングを受けてきたことを自分でどのように活用させてキャリアをつかんでいくかが重要です。
■ ワークビザ、永住権が厳しくなってきている背景をどのようにお考えですか?
海野: 日本でも、近年は特に都市部で外国人の方々を目にすることが多くなりました。これが日本全国どこに行っても例えば50%以上が日本人ではない状態になっても日本国民は黙っていますでしょうか。日本政府は何も対策を取りませんでしょうか。一方で、日本の経済や雇用に大きく貢献している方を全て締め出すことに、全ての日本国民が賛成するとも思いません。
そういう意味で、程度や方法の差はあってもどこの国でも起こり得る問題・トピックだと思います。移民が取りやすかった時期はあくまでカナダという国がそれを必要としたからであり、時代とともにその方針が変わっていくのは仕方がないと言わざるを得ません。個人的な意見としては、日本人はすごくまじめで勤勉、カナダ人に気質も似ているので、ぜひとももう少し寛大にビザを出してくれないかとは思います。
高林: やはりカナダ国内におけるカナダ市民や永住者の雇用状況に課題が多いことが大きく影響していると思います。カナダ政府としては外国人労働者の受け入れがカナダ市民や永住者の雇用状況にマイナスに影響してしまったり、逆に外国人労働者の労働状況が不当なものに繋がるきっかけになってしまっては大問題となりますので(現にその様な問題が浮上しているようですので)、これらの部分を改善して国政や経済に有利に働く雇用条件を見直す必要があるという意図があるはずです。カナダ市民や永住者の雇用に悪影響を与えず、それ以上に国に利益をもたらしてくれたり、プラスになる優秀な人材のみを選抜して優先的に受け入れていく、という意図を示したいというのが背景なのではないかと思います。
■ 日本では特に就職活動などにおいて、まだまだWHの位置づけが低いと聞きます。どのように思いますか?
海野: 少し言葉が乱暴になるかもしれませんが、「ワーキング『ホリデー』」ですから、就職活動において評価が高いわけがない、と考える方が正しいのかもしれません。英語の勉強がしたければ学生ビザがありますし、半年未満しか学校に行かないのであれば観光ビザでも渡加はできます。なぜWHなのか、という点は後付けの理由でも持っていると就職活動の準備によいかもしれません。
とはいえ、WHを否定するつもりはありません。WHは、仕事・観光・勉強すべてを経験できるとても特殊で貴重なビザです。その使い方は人によって千差万別なため、就職においては、『WHをしてきました』ではなく、その中身を具体的にアピールする必要があると思います。 例え活動自体はありきたりなものでも、それを活き活きと目を輝かせて語れる人は、人としても、雇う対象としても魅力的だと思います。
高林: これは日本での就職の際にWHでの経験が役に立つかどうかについて、雇用主側や就職戦線における全体的な認識と受け入れ意識が薄い、というのが問題ではなく、今までWHを120%有効に活用して納得のいくスキルと経験を持ち合わせた形で上手く理想のキャリアにつなげたという人の例がまだまだ少ないからではないかと思います。しかしながら、数は多くないとはいえ、実際WH経験を有効に活用してキャリアにつなげていった方のケースは私自身何人も見ています。
実際、WH経験を就職につなげられるものにしたいのであれば、最初から意識を高くもってWHに挑むべきであり、就職につながりにくい状況を、決して日本の就職戦線での企業や周りからの認識度や風潮のせいにすべきものではないと思います。
■ 留学と遊学の違いをどのように思いますか?
海野: 留学=まじめに勉強する留学
遊学=遊びメインの留学
として、遊学が留学の下に位置づけられることが多いのかもしれません。でも、何が留学で何が遊学か、という定義は人によって、場所によって異なると思います。 大事なことは、実行者本人がこの海外滞在において、自分は何を目的として、何をしているのかを把握しているか、という点だと思います。
日本人が日常会話の英語を身に付けるには、義務教育を抜くと最低でも2000時間以上が必要と聞いたことがあります。その場合、1日10時間勉強しても半年以上かかります。しかし、ただ英語だけを身につけたいのであれば、今はオンラインの教材やレッスンも揃っているので、カナダに来なくても構いません。それでもカナダに来る(既にいる)方はたくさんいます。自分の予算や予定が許す、限られた期間内で、英語をどこまで伸ばしてどんな経験がしたいか、それを考えずになんとなく来てみた留学は、たとえ長期でも遊学と言えると思います。経験重視!と決めて、カナダでしかできないことを選んで遊び倒す遊学は、決してただの遊びではなく、大きな意味があると思います。
私自身、Facebookなどで多くの生徒さんとつながっていますが、私が知らないこと、聞いたこともないような体験をトロントでしている方がたくさんいます。比較して優劣をつけることはとてもできず、すごいなぁと思うばかりですが、一方で、実際に自分自身が留学生だった時を振り返ると、友人や知り合いに対する嫉妬や焦りがすごくあったように感じます。楽しそうに遊んでいる姿を見れば、自分も楽しまなきゃ!と思い、英語が上手な姿を見れば、このままじゃいけない、もっと勉強しなきゃ!と、ピンポン玉のように行ったり来たり…。今から考えればそんな小さなことに一喜一憂したり、何か特別なことをしようなんて考えず、私だけの留学(ワーホリ)をもっと楽しめばよかったと思います。
高林: 留学が長期間しっかり覚悟を決めて目標を掲げて勉強をしに海外に出る、というイメージに対し、遊学は期間は比較的短くても異国の地で体験できることや学べることを得るために海外に出るといった印象を持ちます。決して短期間の趣味や遊びの延長で気楽な留学という意味ではないはずです。どちらも海外に出て学ぶ、という意味では同じはずですし、目的はあくまでも「学ぶこと」だと思います。
最近は留学や遊学という言葉を使い、海外にまとまった期間でやってくる人は沢山増えましたが、なぜかその中には(特にWHで来た場合)「学びに来た」という意識があるのかが不明で、旅行の延長や流行りに乗った感じで何となく行ってみたかったから、というような様子で渡航してくる方が多く見受けられるように思います。せっかくまとまった資金をはたいて、長時間のフライトに乗って、まとまった期間を海外で滞在しにくるのですから、「学び」という言葉を意識して来られることをお勧めしたいです。