デロイト・カナダ社 チーフ・イノベーション・オフィサー Terry Stuart氏 基調講演
11月22日に開催された講演に登壇したデロイト・カナダ社のチーフ・イノベーション・オフィサーを務めるTerry Stuart氏は、25年に渡ってクライアントの問題解決や新規事業の開発に伴うコンサルティング業務に携わり、その分野に革新をもたらすことに情熱を捧げてきている第一人者である。基調講演では、同氏が業界で培った経験と知識をもとに現代社会の急速な変革の実態、そしてそれに直面する企業や人々のあり方についてグラフや実例を用いながら講演した。
指数的変化を遂げる時代のイノベーション
プレゼンテーションでは、18世紀半ばに起こった第一次産業革命に始まり、今を生きる私たちが直面しているという第四次産業革命は今まで我々が経験したことのない驚くべきスピードと規模、そして力強さで世の中に変化をもたらしていると述べ、それに伴い、ビジネスモデルや産業も次第に形を変えていき、世界で起こっている失業や低生産性、不均衡の問題とどのように対峙していけば良いのか考える必要があると問題提起した。
ビジネス業界にある現代の変革スピードの速さから生まれた言葉でもある「ディスラプション」という概念は、長くその業界に鎮座してきた企業や商品などの概念を破壊してしまうような創造的破壊とも呼べる革新のことだと説明。同氏は、「Spotify」や「AirBnB」「UBER」などの革新的な新興企業を例にとり、ディスラプションと呼ばれる革新を世界にもたらす企業が増え、それらの企業らが評価額10億ドルを超えるまでのスピードが加速していると説明。ユニコーンクラブと呼ばれる評価額10億ドル越えの企業数はここ5年間で一気に増加し、それらユニコーン企業の仲間入りができれば、他企業の買収や優秀な人材の雇用はもちろん、長年に渡り業界で生き残っている競合他社とも全く新しい方法で戦えることを意味すると分析した。
変革を実現する注目分野
次に同氏は、デロイト・カナダ社が2015年にカナダ企業700社を対象に行った調査をもとに、先述した変革を実現する分野について説明した。
注目が高い人工知能分野では、IBM社が開発した「Watson」やIPsoft社の「Amelia」といった人工知能を取り上げた。これらは、従来のものとは異なり人間が意思決定するのと同じプロセスで情報処理を行い、単なる言葉ではなく話の意味を理解しての会話が可能となっていると説明。これらの優れた人工知能たちは人間が行ってきた実務的な仕事を奪いつつあるのだという。また、ロボット分野ではFellowRobot社が開発した、従業員のようにお店で案内係を務める「Navii」という最新ロボットについても紹介をした。
続いて自律走行車分野では今や世界中の自動車メーカーやネットワーク企業などが、2020年頃に向けて自律走行車の開発に携わり、それは保険会社や交通機関、自動車製造業など多岐にわたって大きな衝撃を与えることとなると述べた。また依然として課題となっているのはバッテリーの充電量であるとも付け加え、次の時代の発展に期待を込めた。
急速な変化とカナダ企業の対応
カナダ企業がこれらの急速な変化にどのように対応していくべきかという点について、同氏はカナダの87%の企業が技術革新により起こりうるディスラプションへの準備が完全に整っていないことを指摘し、これは企業だけの問題ではなく、国もこの変化に対応していく必要があると述べた。また、ここで大切なことは目に見える事象だけでなく、世の中の流れのパターンや傾向、システムダイナミクスについてよく理解することだと述べ、有能な革新者たちに備わっているという四つの重要原理について、一つ目は革新を起こすことの真の目的を明らかにすること、二つ目は商品開発の先にあるその革新が顧客にもたらす意味を考えること、三つ目は型破りながら深い洞察力を持って革新を操ること、そして四つ目は規律に焦点を当てることだと考えを述べた。そしてさらには製品革新の構造について説明した後、このディスラプションの伴う変革期を生き残るにはイノベーション・エコシステムの形成と繋がりが非常に重要であると説明した。
同氏は、最後に今日ビジネス界を震撼させているこのディスラプションを理解し、勇気を持って行動し続けることの大切さを強調し、「一期一会のこの出会いに心より感謝します。」と日本語を織り交ぜ、基調講演を締めくくった。
講演後、The Japan Societyプレジデントであり、2014年には外務大臣表彰の授与歴もあるBen Ciprietti氏より、感謝の言葉とセミナー参加者らのサイン入りの日本庭園の写真集が贈られた。
デジタル・ディスラプションと言われる既存産業の在り方を覆すようになった革新的な企業を例にした講演は、多くの参加者にとってとても有意義かつ多くの刺激を与えてくれたことであろう。