トロントの居酒屋風雲児 #4
衛生管理について
今年の冬は例年と比べるとやはり暖かかったですね。マイナス30度になる日はほとんど無く、例年毎日のように着るカナダグースも今年は着る機会が少なかったように思います。世界各地で暖冬だったようですが、来年の冬はどうなるでしょうか。そんなカナダグースが近年、日本で流行っているみたいで友達のFBや日本のニュースで来ている人を見かけると何故か親近感が湧いてしまうのは私だけでしょうか。
飲食店で働き、食材を扱う私達は常に衛生管理に気を配っています。お客様に安心して召し上がって頂くために仕入れから仕込み、調理と食材の管理や清掃、スタッフの手洗いなど常に衛生面に関して細心の注意を払っているはずです。中には気を配っていないレストランがあり、食中毒を出したり、衛生局の検査で衛生管理に問題があり営業停止になる店もあります。トロントではDineSafeという衛生局の検査が抜き打ちで定期的にあり、その検査をパスしないと営業出来ない事になっています。冷蔵庫や冷凍庫の温度、その中に保存されている食材の管理状況、トイレや食洗機、清掃状況、ゴミの管理、害虫駆除など色々な点を確認され、何もなければ緑色のパス、改善の箇所がある場合は条件付きでのパスとなり後日再検査が行われる黄色のパス。最悪の結果は営業停止になるレッドカードの3段階で結果が出てきます。よくレストランの入り口に緑の紙が貼ってありますよね。もし入り口に緑色でなく黄色だったらそのレストランは要注意です。またこの結果はトロント市役所のウェブサイトで誰でも確認できますし、問題のあったレストランを毎週知らせるサイトもあるので、レストランで働くスタッフはこの検査にビクビクしています。私も実際この検査に何回も立ち会った事がありますが、検査を行う検査員によって結果がかなり左右される事が多いのが事実です。トロントは色々な人種が多く住み、色々な料理店があり、色々な食材と色々な調理方法があります。私達、日本人が当たり前と思う事を当たり前と思わない方も多くいます。今でこそ当たり前のようにカナディアンも食べている寿司も日本特有の料理のため、生魚の使用やシャリの保存方法、木製のまな板や調理器具の使用など色々と議論があったようですが、先輩方の頑張りのお陰で今では理解があるようです。
去年アメリカのニューヨーク州で、完全に加熱しない食品を扱う際には素手で触らずにゴムまたはプラスティック製の手袋の着用を義務付けるという衛生基準があり、それを無視したとの事で、ある寿司屋が一時的に営業停止になりました。日本人の私達からすると手袋をしている寿司職人に違和感を感じますが、アメリカでの日本人寿司職人は5%以下と言われ、日本人寿司職人と同じ衛生管理を行うのは難しい現状なのかもしれません。現地では多くの寿司シェフや寿司愛好家を巻き込みこの義務に関して論争になっているようです。実際グローブをして調理をする事は悪い事ではないですが、グローブをしている事によって自分の手が綺麗だと勘違いする事も多々あると思います。作業のたびにこまめにグローブを変えるのであればいいですが、同じグローブをつけっぱなしで作業する事は素手で作業するよりもかえって不衛生なので気を付けなくてはいけません。カリフォルニアでも同じ義務化が2014年1月にあったようですが、同年6月には廃止された経緯もあるので、今後ニューヨークでどのようになるか気になりますが、カナダでも同じように義務化されない事を切に願います。日本人が食生活の中で培ってきた衛生管理の伝統的な技が、豊かな日本食文化を支えてきたはずです。古き良き日本食文化を少しでも正しい形で守っていかなくてはいけないですね。
小笠原 克 Ogasawara Masaru
日本ではファッションブランドGapでアルバイトからマネージャーまで7年間勤務、新規店の立ち上げや日本売り上げNo.1店舗での管理職を経験し、2005年にワーキングホリデーでバンクーバーに渡加。ファッション業界からの転身となるが、調理師免許保持や両親の飲食関係の仕事の影響などもあり、大人気居酒屋Guuでワークビザを取得し男前店で副店長を務める。その後2009年トロントでのFC立ち上げ総責任者に任命されトロントへ。寒い冬でも毎日行列のできる大繁盛店となり、トロントの日本食パイオニアとなる。2014年にはKinkaFamily Inc.の副社長に就任し、居酒屋の他、ラーメン、寿司、焼き鳥などのブランドを管理、2015年10月末GuuとのFC契約終了とともに独立・起業。現在は世界で皆に愛される飲食店を開業できるようにと奮闘中。