Toronto Japanese Film Festival Interview 松山博昭監督
第5回目を迎えた日本映画祭の『信長協奏曲』上映に合わせて、日本から多くのドラマや映画を手掛ける松山博昭監督がトロントに駆けつけた。上映を直前に控えた松山監督にトロントの印象や、上映会に対する期待、映画・ドラマ制作に関することなどについて話を伺った。
初めてのトロントの印象はいかがですか?
いろいな表情のある街だな、と感じました。時差ボケで寝付けず、朝早くに目が覚めてしまったので1日掛けてウォーターフロントやダウンタウンを周ってきたのですが、一本別のストリートに入るだけで街の雰囲気が全く違いますね。オフィス街や綺麗な水辺、おしゃれな街並みや中華街まで、良い意味で小さな広すぎないスペースにいろいろな街が詰まっているように感じました。
信長協奏曲の着想を教えてください。
フジテレビ開局18周年記念プロジェクト企画の一つとして同名の原作漫画元に、アニメ、ドラマ、映画の3媒体で展開したものです。原作漫画ではフラットにいろいろと受け入れていたところを、実写化する上で、今まで殺し合いを見たことのない日本の現代人が戦国時代にいって受けるショックや、そこから戦争に対してどのような思いを抱いていくのかという点を強く意識して作品を作りました。
多くの人に知られる信長という人物を描くにあったって、どのようなことを意識されましたか。
多くの方が元から織田信長という人物のイメージを持っているので、逆に取り上げやすかったです。また、もともとあった事件などを今までと違う解釈で描いたので、みなさんの先入観や知識、もともとの史実を逆手に取った面もあります。
ドラマ作成の段階で映画化の構成は決まっていましたか?また、ドラマと映画の両方を同時に行う上での難しかったことは何ですか。
もともとは本能寺の変までをテレビドラマで放送するつもりだったのですが、いざ連続ドラマを撮り始めると、織田信長の人生はとても長く本能寺の変まで収まりきらないと思い、本能寺の変を映画化することにしました。そうすることで、テレビはテレビで「本能寺の変」とは別にクライマックスを作らないといけなかった点で苦労しました。
今回のJCCCでの上映会で期待されることは何ですか。
私は日本人の方が多く来られると思っていたのですが、実際は現地の方も多く来られるようなので、そういった日本とは全く違う文化圏の方に見ていただける上に、このように日本の歴史に少しでも触れていただけるのはとても嬉しいです。一方で、歴史を少しいじって描いているため、史実を勘違いされる方もいるのではないかと少し不安です。また、今回の作品は観る側が本能寺の変を知ってることを前提に作っている映画なので本能寺の変を知らない人が観る反応の違いを見られるのが興味深いです。
映画、テレビ業界に興味を持ったキッカケを教えて下さい。
学生時代はお笑いが好きで漫才やコントの勉強をしていましたが、ある時にそれに限界を感じて撮る側に回ろうと思いました。その時に、映画がすごく好きだったこともあり、この業界への道を歩むことを決めました。私はお笑いをやっていたことで頭の中にあることと、それを表現することは別であると分かり、自分の向き不向きも自然と分かっていきました。
映画、ドラマ制作の中で大切にされていることはありますか。
私はしっかりと伝わるように作ることを大切にしています。例えば、映画を観ていて「あれ、このセリフどこで言ってたっけ?」となる後で分かるのは、言ってないのにほぼ等しいと思っています。なので私は、この人物は何を考え、何をしているのか、そしてこのシーンが何のためにあるのかという作る側の意図が、しっかりと自然に観ている方に伝わるように心がけています。
制作の上で行き詰った時は、何から発想やアイディアを受け、乗り越えるのですか?
どの段階で行き詰まるかによって違いがありますね。準備の段階であれば似たような映画を観たり、本を読んだりする時間もありますが、撮影が始まり撮るのに手一杯になってしまうと、明後日のシーンはどうしよう、など間近で考え込む時間がない時もあります。そうなるとやはり、映画、ドラマは一人で作るものではないので、周りの人たちとコミュニケーションを取りながら突破口を見つけていくしかないと思います。もちろんそれで見つかることもあれば、見つからずに当日を迎えることもあり、ただ、考えて考えた末にふわっと突然うまくいくことがあるのも事実です。また、映画やドラマ作成は役者の力も大きく、台本上ではどうかな、というセリフであっても、役者の方が芝居の中で言うととても良いセリフになることもあります。なので基本的には自分で突き詰めるだけ突き詰めて、後は現場でやっていくしかないと実感しています。
映像業界を目指す読者へのアドバイスをお願いします。
私がいつも業界に入る若い子に言うことなのですが、映画やドラマを観たあとに、〝面白い〟、〝ドキドキした〟といった感情を持つと思うので、なぜそう感じたのかを考えて欲しいと思います。それぞれの作品は観た人にそう感じてもらえるように作られているので、観た後にただ面白かったで終わるのではなく、このシーンがあったから面白い、この人物に感情移入してきたから悲しい、など考えるようにすると力がつきますよ。
松山博昭監督
演出家・映画監督。1973年、岐阜県出身。国内で、ライアーゲームや信長協奏曲といった多くの映画やテレビドラマを手掛ける。今後もできるだけ多くの人に届くものを作っていきたいと意気込む。