在加日系企業に役立つ最新ビジネストピックス
デロイト & トロント日本商工会 共催
第4回カナダ・マネジメントセミナー
「在加日系企業に役立つ最新ビジネストピックス」を開催!
去る5月22日に、今年で第4回目を迎えるトロント商工会とデロイト共催のビジネス・マネジメントセミナーがデロイト・ノースヨークオフィスで開催された。第1部の「移転価格税制のグローバル・日本・カナダの最新動向編」では、デロイト日系企業サービスグループの移転価格・北米リーダーを務めるダーム・薫さんを講師として招き、昨年OECDが公表した「BEPS(税源浸食と利益移転):移転価格文書化新規定」の概要及び今後の対策を中心にグローバル移転価格マネジメントの重要性についての講義が行われた。また第一部後半では、カナダ税務当局Canada Revenue Agency(CRA)で移転価格を担当した経験を持つデロイト・移転価格部門のパートナーShiraj Keshvaniさんとシニア・マネジャーChris Lukieさんを招き、カナダでの移転価格に関する最新動向やBEPSへの対応状況についてディスカッションが行われ、税務調査の実態や対応策について熱い議論が交わされ、多くの聴講者たちが熱心にメモを取っていた。
Chris Lukieさん(中央)で行われたパネルディスカッション
第2部では規模、業種の異なる日系企業から駐在経験豊 富な方をゲストに招き、「在加日系企業におけるマネジメントの方向性を考える」をテーマにパネルディスカッション が行われた。ゲストスピーカーはHonda Canada Inc. Senior Vice Presidentの池畑義昭さん、Nippon Express Canada, Ltd. Presidentの佐竹陽一さん、Kubota Canada Ltd. VP & Treasurerの朱膳寺尚貴さんの3名で、Nippon Express Canadaでは、日本人駐在員である佐竹さんが社長を務められ、Honda Canadaでは2年前にKubota Canadaでは5年前に現地法人の社長を日本人駐在員から現地人に移行している。この3名にデロイトの福岡宏之さんと山岸康徳さんがファシリテータとして現地化が謳われる昨今、在加駐在員にとってホットなテーマを投げかけパネルディスカッションが進められた。
従来では日系企業の社長といえば日本人が当たり前だった のに対して、近年では現地化が進められ現地人が社長を務めている企業も増えています。皆さんは社長の現地人化についてどう思われますか?
池畑さん:弊社では南米でトップが現地人になったり、カナダで2年前に勤続40年の現地人幹部が社長に就任したりと、徐々に現地化が進み始めています。
現地化が進められる理由として第1にいえることは人材がいることです。現地化をしなければならないから行うわけではなく、そこに優秀な人材がいることがまず重要です。更に現地化できる環境が整っていることもポイントの1つです。環境は国や地域によっても違うと思うのですが、ビジネス上何か問題がある地域での現地化はやはり難しいと 思います。また、さらに現地化によって得られるメリットが明確に分かっている事も重要です。
佐竹さん:弊社では日本人が社長を務めており、そのメリットは日本からの指示やお客様の意向をこちらでしっかり把握できるという点です。輸送業務では日本と海外、日本から見た海外間等いろいろですが、細かいニュアンスでお 客様の物流を管理し連絡し合う必要があり日本語管理環境が必要になります。また3、4年で社長が変わることが多いですが、だからこそいい意味で会社に変化をもたらすことができます。本社からは現地化という言葉はよく使われ、我々もそこへ向かっているとは思うのですが、それを社長というレベルで行うのか、もう少し下のマネジメントから行うのか、という問題もあります。
朱膳寺さん:私も現地化に関しては任せられるだけの人材がいることが重要だと思います。今の社長は弊社に30年以上勤めており、カナダ人気質を持っていますが、日系企業の やり方もある程度熟知しているので、彼になら任せること ができる、ということになりました。事業環境面でも弊社事業ではお客様はカナダ国内のみですので、現地人の感覚に任せた方が良いということもありました。また社長を現地人に任せることで社内のモチベーションも上がり良い人材が集まりやすいと思います。一方日本側の事情として、ここまで広範囲に海外展開が進むと海外でマネジメントを任せられる人材の供給が追いつかないということが挙げられます。そのような状況の中、任せられる部分は現地人に任せようという動きになっています。
マネジメントレベルでの現地化が進んでいますが、日本にある親会社を含め従業員とのコミュニケーションはどのように変化しているのでしょうか?
池畑さん:昔は日本の本社と現地法人が直接やり取りをしていたのですが、現在はカナダ、アメリカ、メキシコの3つを一つにまとめた地域本部とのやり取りがメインになります。この地域本部はアメリカにあり、毎月の定例会など主なコミュニケーションは地域本部を通して英語で行われています。現社長も日本の本社に報告というよりは地域本部への報告を自身の仕事だと認識しているようですし、同じ地域内でコミュニケーションを取っているのでとてもスムーズですね。
佐竹さん:会話しても私があと数年で帰るとなるとなかな か本音を言ってくれないことがあり、カナダの人が考えて いることを共有できない場合もありますね。これはカナダに限らずどの海外現地法人でも起こり得ることで、私はコミュニケーションが取れていると思っていても、取れていないかもしれないです。私の役割は親会社と現地人の間に立つことで、本社からの指示をただ単に英訳して伝えるのではなく、カナダ人の考え方を考慮して対策を立てていかなければなりません。
朱膳寺さん:弊社は今も日本とのやり取りがメインです。昔は全て日本語で通達が作成され、現地で英語に翻訳していましたが、今は英語の通達も作成されるようになっており、直接英語でコミュニ ケーションが取られています。それは電話会議などでも同じで、できるだけ英語で対応し、現地人社長が直接日本とやり取りできるように日本側が体勢を整えています。これは初めからそうだったわけではないのですが 、現地人社長を採用するようになってからの試行錯誤の結果です。
現地化が進められる中で重要な人材の育成はどのようにして行われていますか?
朱膳寺さん:カナダではポジションがあって、そこに見合っ た人を採用するという傾向で、人材育成のシステムはあまり整っていない感じがします。現社長は、弊社に長く務め、日加両方に通じる知識・人格により昇格し現職についていますが、今後は次の現地人社長を計画的に育成することが重要だと考えています。社内のモチベーションを高めるという面で現地人社長を据えることはとても有益だと思いますので、弊社では現地人社長を継続していく方向で考えています。
佐竹さん:弊社では集中マネージメント教育と呼ばれる次期経営者を育てるプログラムがあり、まだ現地人社長の実現には至っていませんが、年に3回全世界から選りすぐられた社員を集めていわゆる英才教育というものを行っています。過去に“次期社長を現地人に…”と1度試したことがありますが、日本人の考え方を理解して、良いところも悪いところも理解してくれるのが1番なのですが、なかなかそう簡単にはいきませんでした。人材登用については、外部から変化を求めて人を入れた際には社内で育ってきたものと水と油のようになってしまって業務に差し障りが起こりかけたこともあり、弊社では出来る限り社内育成で育てていきたいという思いがあります。
池畑さん:カナダの場合は割と人材が揃っていて、将来的に も現地人社長が続いていく可能性は高いですが、現時点で決まったことはありません。人材育成に関して言うと、現在弊社では日本人に限らずいろいろな国籍の人を対象にマネジメント研修を行っています。もちろん北米内でもマネジメント研修を行っておりシニアレベルまで含めると現地人でも多くの方に育成の機会があります。ただ、トップをやれる人材を育てるとなると研修だけでは難しいです。トップと言うのは下した決断に部下が付いてくるかどうかが問われます。経営が良好な時に社長を務めるのは難しくないですが、困難な時や修羅場にどのようにしてその状況に向き合い、決断していくか、そしてその決断に会社が一丸となって取り組めるかが重要だからです。
セミナー第1部では複雑な税務環境に関する知識が深まるとともに、第2部では盛り上がりを見せたパネルディスカッションは時間一杯まで続けられ、これからの現地法人としてのマネジメントの方向性を考える良いきっかけとなった。今回のようなセミナーを通して、企業同士の繋がりが広く深くなることでさらなる日系企業のカナダ市場における躍進に期待をしたい。