夏って、こんなに軽かった?|トロント音楽散歩 with Cecili
気がつけばトロントもすっかり夏の色になっていた。思えば日本にいた頃、夏は「いかつい男」だった。むんむんと汗臭く、湿度たっぷりで、ちょっとしたことですぐ怒り雷やスコールを撒き散らし、一緒にいると食欲が失せるような、漢と書く方のオトコだった。
でもトロントの夏は喜びに満ちてる。ここに来てから、夏というのは苦しみではなく幸せを意味することを知った。日本の夏がむさくるしいおっさんであれば、トロントの夏は爽やかイケメンである。こちらの夏は、高身長ですらっとしていて、笑顔が眩しく、汗の匂いとは無縁で、怒ることもなく雨もほとんど降らせず、穏やかでやさしい。「joy」という言葉はトロントの夏を意味するのである。
そんな夏の始まりにふさわしく、街ではNXNE Festivalが開催されていた。これは、トロント全体を舞台に、ライブハウスやクラブを巡りながら新進気鋭のアーティストと出会える都市型音楽フェス。Dundas Squareではステージも設立されて、フリマも賑やかでお祭り騒ぎ。過去にはLizzoやFeist、The WeekndやDaniel Caesarなど、後にスターとなるアーティストたちも参加した夏フェスである。
その夜、私はもともとフェスに行く予定はなく、涙ぐましくもミュージシャン仲間のスタジオで新曲のレコーディングにいそいそと取り組んでいた。しかもそのあと映像撮影の予定まで入っていた。ヘッドフォンをしてラップトップに齧り付いていると、突然一緒にいた友人が「今KhalidのPremiumチケットもらったんだけど、行く?」と言って来たものだから、そんなの音楽の仕事とかどうでもいいので行くに決まってる。ラップトップを放り投げてすべて後回しにして、気づけばみんなでDundas Squareに集合していた。気分屋の音楽仲間たちだがこんなときだけは時間に厳格である。
間近で聴くKhalidの歌声はダイレクトに胸から入ってきて体全体に響き渡り、空は嘘みたいに晴れていて、肌をなでる風が最高に気持ちよかった。大好きな音楽仲間たちと、音楽と最高の夏の始まりを全身で共有して、私はティーネイジャーみたいにミニスカートにサンダルを引っ掛けて、夜の街をほぼスキップしながら軽やかにどこまでも行ける気がした夜だった。






