【高まる“音”の人気仕事の喜びに】フォーリーアーティスト 小山吾郎さんインタビュー
映像の音に合わせて音を入れるフォーリーアーティストとして、ハリウッド映画などに数多く携わっている小山吾郎さん。2018年の初インタビューではフォーリーとの出会いからキャリアについて伺ったが、それから5年。10月にジャパンファウンデーションで一般向けのフォーリーワークショップを開いた小山さんに、パンデミック中の音制作や思い出深い作品などについて語ってもらった。
コロナ禍で映画の力感じる
―2018年から現在まで、大きな変化といえば新型コロナによるパンデミックがあったと思います。仕事に影響はありましたか?
コロナが始まった時、一旦仕事がストップしました。でも、まもなくしてみんな家から出られずに家で映画を見るという状況になりましたよね。プロダクションからは撮影分が終わっているものに関しては、完成させてストリーミングに出さないといけないと言われて、わりと私たちはスタジオにすぐ戻ってレコーディング作業を進めました。最初に『DUNE』を完成させて、『ハンドメイズ・テイル』『ヴァルハラ』などシリーズものを多く担当しました。むしろコロナ禍でも忙しくなりましたね。
―確かに家でストリーミングサービスを楽しむ人が増えましたよね。
ロックダウンで外出できない中、世界中の人が映画を見ているという現状に、映画はまだまだすごいものなのだなと感じました。コロナ以前からですが、家で大画面テレビと良いスピーカーを使って、より良い音質で映画を楽しみたい人が増えていると思います。そういう意味で仕事へのプレッシャーというか喜びはとても感じていますね。
―2023年にはハリウッドでのストライキもありましたが、そちらの影響は?
最初はありました。ライターと俳優さんがストライキしてしまって、やるはずだった仕事が全部押しました。俳優さんがアフレコできないという問題はありましたが、それでも俳優の声なしに周りの音は先に入れようということになり、コンスタントに仕事はこなしました。
日常の音こそおもしろい
―コロナ禍といえば、ASMRも人気になりましたよね。
森の音や川のせせらぎのような音だけではなく、人が食べる音や耳かきの音、爪で化粧品のボトルをカリカリとかく音などさまざまな音が流行りましたよね。リラックスするためや気持ちを盛り上げるためにASMRを聞くなんて、興味深いです。個人的には、東京の漫画喫茶の音を延々と録音したものを見つけて、とてもおもしろいと思いました。単に漫画をめくる音や歩く音がするくらいですが、とても気に入りました。
―なんでもない音でもおもしろいものなんですね。
私は旅先でもいろんな音を録音することにしていて、東京の音、池袋の音、マツモトキヨシの前の音などさまざまな音を録音するようにしています。普段からいろんな音を聴くようにしていますし、普通の人とちょっと変わった聴き方をしているかもしれません。
夢が叶った“代表作”
―2018年のインタビューでは、出世作について「何だったんでしょう」とはっきり答えていらっしゃいませんでした。それから5年、答えは変わりましたか?
子どもの頃、ハリウッド映画が大好きになったきっかけの映画が『ロッキー』でした。いつかシルベスター・スタローンの映画に名前を刻めたらいいなとずっと思ってきたのですが、その機会がついに巡ってきたんです!『Creed II(邦題:クリード 炎の宿敵)』という『ロッキー』のスピンオフ映画で、スタローンさん自身もロッキー役で出演しています。私が担当したのは、ロッキーの足音です。特別すごい音というわけではありませんが、もう本当にドキドキしましたね。
―夢が叶ったわけですね。
そうなんです。ロッキーがコンバースの靴を履いて出てくるんですが、その瞬間やばい!と思いましたね。映像に合わせ靴を履いて足音をつけるだけでしたが、とても緊張しましたし私の中で大きなマイルストーンになった作品です。スタローンさんがもう結構な歳なのでロッキー役はもうしないかもしれないと言われていた中、ロッキー役として最後にこの映画に出演されて、そんな意味のある作品に私も携わることができてとても嬉しかったです。
小山吾郎(コヤマ・ゴロウ)
1973年埼玉県生まれ。映画『ロッキー』を見てハリウッド映画に興味を持つ。1991年に英語を学ぶためカナダ・オタワへ渡り、その後大学で映画制作について学ぶ。卒業後はトロントサウンドスタジオに入社しその後独立。2012年には『ヘミングウェイ&ゲルホーン』でエミー賞受賞。主な作品に『バービー』(2023年)、『リトル・マーメイド』(2022年)、『DUNE』(2021年)、『ブレードランナー2047』(2017年)など。