グルメの王様のおしゃれ美食道 第49回
「毛沢東ゆかりの料理」







再三申し上げるように、トロントの各国料理の中で群を抜いているのが中国料理です。街を歩いていて、中国の有名料理の看板を見つけた時の喜びはまた格別です。
今回ご紹介するお店、浏阳蒸菜は正にそれです。そしてこのお店のように、なんとなく読み方に親しみが無い場合は、それが美味しい料理のへの好奇心となって、心躍らされます。
北京・上海・四川・広東という今や誰もが知る中国四大料理の他に、中国八大料理と言われる分類方法もあり興味深いのですが、こちらのお店の専門は、中国は華中地区の湘江の料理、いわゆる湖南料理です。湖南省の省都はこの河の畔の古代都市長沙で、ある著名な偉人が若き日を過ごし、学んだ場所として知られます。ということで湖南料理と言うと必ず登場するのがかの毛沢東です。
湖南料理の特色の一つはその辛さで、有名な四川料理に匹敵します。やや異なる点は、辛さに酸味が効いていることが挙げられます。そして、このお店のように、中国四千年の歴史を料理に反映させている「蒸し料理」も大きな特徴です。唐の時代、孫思邈という薬王と称された偉大な人物が、名著『千金要法』を表したのですが、蒸し料理をこよなく愛し、実に101歳まで生きたことから、その料理の健康志向に光があたりました。ご存知の様に中国料理の魅力の一つに、あのゴウゴウと勇ましい音を立てる物凄い勢いの炎を使い大きな中華鍋で調理する姿がありますが、その一方でこの歴史ある健康的で穏やかな調理法も珍重されている。本当に中国は広いです。
浏阳蒸菜は、トロントのアップタウンYongeとSheppardの交差点を北に向かってすぐ右にあるSpring Gardenという小道を入った所にあります。
蒸し料理は少々時間がかかるので、待って居る間のサービスとして、中国社会では定番の健康スープである肺に潤いを与えると言われる白木耳・パパイヤ・クコの実スープを出してくれたのには感心しました。湖南料理入門的な肉ボール・蒸肉・湯葉・そして辛くて熱気のある料理を鎮める役割の昆布のスープという、四種の料理が一堂に楽しめる「浏阳四蒸」もお得なメニューとして注目です。それから中国料理にもこのようなあっさりしたものがあるのか、と思わせる春雨と中国菜を使った料理もいいですね。そして驚いたのが中国ではよく知られた食材冬虫夏草を使った鶏肉料理です。この料理のスープはまるでフランス料理。目隠しをして食べさせられたらパリのレストランの味と見まがうでしょう。昔上海の世界的な広東料理店「新雅粤菜館」を訪れた際供された蟹肉のスープを思い出しました。正にフランス料理。感激のあまり親友が親しくしている経営者に席に来て貰い賛辞を送った程でした。
またとても可愛い形の「珍珠肉丸」は、ちょっと点心を思わせる入れ物に入ってきますが、これも湖南独特の蒸料理で、もち米に包まれた豚肉と、これはまず皆さんご存知ない中国根菜が入り、そのコリコリ感がとても印象に残ります。歴史を誇る蒸料理の数々。お薦めです。
辻下忠雄 エッセイスト・生活礼儀情趣導師(生活開発プロデューサー)
東京大田区に生まれる。成城学園出身。フランス料理界、ナイトクラブ界、中国料理界の大御所として多くの逸材を育てた父と、料亭経営の傍ら歌舞伎の舞台にも立った祖父の下で育つ。美食歴61年究極の美食家。紳士の中の紳士。ベストドレッサー。生活信条は「明るく・楽しく・仲良く」超楽天主義者。トロント在住。




