グルメの王様のおしゃれ美食道 第41回
「ニューヨークの美学」


美味礼賛で知られる美食家ブリア・サヴァランは言いました。「新しい料理の発見は新しい天体の発見以上のものである。」流石明言ですね。今回ご紹介するレストラン、ニューヨークの輝く星JUNIは、正にこの言葉を髣髴とさせる名店です。
フランス料理に限らずいわゆるアメリカ料理の世界にも、料理の中に美しさの息吹を入れることが主流となりつつありますが、ここJUNIの料理の美しさは、秀でています。初めての出会いは写真でしたが、綺麗な料理の写真は山ほど見てきているのに、何故このお店の料理は今までと違った何かを感じさせるものがあるのか、しばし考え込んでしまいます。ニューヨークは有名な5番街を南に下った通りから少し入った所にあるHotel Chandlerの中にあるのですが、外観はどちらかと言うと地味で、いったいこのホテルのどこにあのような美しい料理があるのだろう、と思ってしまいます。12 E 31 St., New York, NY
この素晴らしい料理を作る人こそ、今最も注目されるShaun Hergatt. オーストラリア出身で、子供のころから料理に熱心だったそうですね。オーストラリア時代は若い頃から数々の料理賞を獲得、一流ホテルのレストランなどでその味の研鑽を重ね、遂に2000年にアメリカに移住。ここでも進歩の手を休めず、現在に至っています。
コース料理には勿論メニューとしての名前があるのですが、彼の料理こそ百聞は一見に…いや一味にしかずで、メニューの名前を忘れて舌で楽しむ料理だと思いました。
愛して止まない「西遊記」で、孫悟空が天竺から有難い経典を頂き帰路に着く時、突風に見舞われました。ばらばらになった経典を拾い集めると、何と文字が全て消えていました。
これはお釈迦様のいたずらに違いないと、猛烈に抗議すると、お釈迦様は笑いながら「お経には文字などない方が良いのだよ。このことは玄奘(三蔵法師)によく伝えなさい。」…そうです、本来はメニュ-には文字などない方が良いのかも知れません。
店内は狭く、それこそ一点集中ムードなのですが、そこでひとつ驚いたことがありました。それは何と日本語を話す外国人マネージャーが居たことです。それも言葉だけではなく、世界に名高い日本人の親切心おもてなしも同時に学んだ人です。
ドイツ出身者ですが、こういうやさしさ一杯の人からサービスを受けると料理も一段と美味しさを増すような気がします。
さて料理も終わりに近づいた頃、先ほどのマネージャーと少しお話しました。私にとって初めての外国料理レストランはドイツ料理だったと話すととても喜んでくれたのですが、例によって出身国料理の名店を尋ねると、すぐ奥に行って綺麗にプリントアウトしたお店の資料をくれました。これも驚きでした。そして帰り際もう二店の住所電話番号を書いたJUNIの絵葉書も渡され、ここまで親切な人そしてお店は初めてで感激しました。料理は人なりサービスも人なりです。レストランJUNIでの正しいオーダーの仕方は、「ショーン・ハーガットの美学を下さい。」ですね。
辻下忠雄
エッセイスト・生活礼儀情趣導師(生活開発プロデューサー)
1947年東京大田区に生まれる。成城学園出身。フランス料理界、ナイトクラブ界、中国料理界の大御所として多くの逸材を育てた父と、料亭経営の傍ら歌舞伎の舞台にも立った祖父の下で育つ。美食歴59年究極の美食家。紳士の中の紳士。ベストドレッサー。生活信条は「明るく・楽しく・仲良く」超楽天主義者。トロント在住。






