グルメの王様のおしゃれ美食道 第42回
「ステーキ大好き物語」






我々日本人は『牛肉』にひとかたならぬ思い入れがあります。また日本の牛肉は世界1と言う自負もあります。その昔母から「今夜はビフテキよ。」などと言われると大喜びしたものですが、ビフテキいわゆるステーキはやはり今もご馳走に違いありません。
かくいう私も子供の頃からのステーキ好きで、これは大人になってからのお話ですが、今から40年ほど前それはそれは凄まじい食べ方をした思い出があります。父のお供で仕事上高品質の牛肉を探す関西旅行だったのですが、知り合いから最高の牛肉を贈り物として頂きました。始めはほんの少し、と思っていたのですが、新幹線のプラットホームに持って来て頂いた牛肉はとても一人では持てない大きさ。流石に網棚には乗せられず、入り口に置いて時折見に行きました。出迎えの人たちの協力でひとまず家に戻ったものの、家庭用冷蔵庫に入る訳が無く、翌日から友人知人へ配るのが一苦労でした。でもこれはチャンスとばかり朝昼晩の三食はステーキ三昧。毎日上機嫌だったのですが、私としたことが、流石に11日目からは身体が受け付けず残念な思いをしたことがありました。
トロントにもステーキハウスは数多くありますが、以前トロントで食品会社を経営する、大商社のスタッフとして長年テキサスに駐在したステーキ通の日本の方に、当地でお薦めのステーキハウスを、代表的な店名をあげてお尋ねした際、即答せず笑いながら首を横に振ったことを忘れることが出来ません。
牛肉の産地としてブランドとなっているものに、一般的に松坂・神戸・近江・米沢が良く知られますが、関西系オンパレードの中にあり唯一東北だった米沢牛を食べたくて山形まで飛んで行った思い出があります。やはりこれら全て美味しい牛肉でした。いつも思うことに特にインターネット時代、簡単に情報を手に入れることが出来て、それ自体良いことかも知れませんが、その情報に振り回されることも少なくないかも知れません。研究よりまず楽しく味見ですね。「料理の知識とは人を喜ばせる為にある!」そう堅く信じています。美味しそうな料理を目の前にして、この料理はどこでどの様な一流の師匠のもとで修業を積んだ人が作ったのか、と考える人は少ないかも知れませんが、料理人にとって大切なのは「キャリア」だと思っているので、私としてはまずこのキャリアに注目します。
東京は町田にある「鉄板たかはし」のオーナーシェフ高橋孝幸さんは、それは素晴らしいキャリアを誇る人で、調理にもそれを感じます。お店はフレンチ出身のハンサムな若手調理人の方と美人マネージャーのベストトリオで切り盛りされていますが、このチームワークが見事ですね。東京オリンピックの時代にこの世界に入り、我が父が料理人の構成に貢献した大好きな日々谷日活ホテルで修行後渡欧。本場フランスでは名だたる有名シェフと共に仕事をする偉業を成し遂げ、日本では我が家とも親しい小田急ホテルグループの総料理長も努めました。さてステーキハウスの主役とも言うべき牛肉は何か?これが最大の関心事なのですが、高橋さんの選んだ一品は泣く子も黙る最高峰の「但馬牛」。グルメ憧れの牛肉です。最高級の牛肉は最高級のシェフの手によって命を吹き込まれます。
辻下忠雄
エッセイスト・生活礼儀情趣導師(生活開発プロデューサー)
1947年東京大田区に生まれる。成城学園出身。フランス料理界、ナイトクラブ界、中国料理界の大御所として多くの逸材を育てた父と、料亭経営の傍ら歌舞伎の舞台にも立った祖父の下で育つ。美食歴59年究極の美食家。紳士の中の紳士。ベストドレッサー。生活信条は「明るく・楽しく・仲良く」超楽天主義者。トロント在住。





