北米最大!ドキュメンタリー映画の祭典「Hot Docs」
北米最大!ドキュメンタリー映画の祭典「Hot Docs」
福島第一原発の事故で立ち入り禁止となった警戒区域。そこに残された動物たちの命を守るため、活動を続ける松村直登さんに注目したドキュメンタリー。
HALF-LIFE IN FUKUSHIMA Olexa Mark監督インタビュー
ドキュメンタリー専門に活動を続ける新鋭Olexa Mark監督。様々なトピックに注目する中で、今回福島を題材にしたドキュメンタリーを撮ることになったきっかけや実際に被災地を訪れて感じたこと、映画製作で感じたことなどを語ってもらった。
Olexa Mark dokmobile.ch
スイス出身。2011年にZeLIG Documentary Film Schoolを卒業し、様々なトピックでドキュメンタリーを専門に作品を作り続けている。
福島についてのドキュメンタリーを撮ろうと思ったきっかけはなんですか?
まず始めにイタリア人ジャーナリストのAntonio Pagnottaさんが書いた本で、福島第一原発の事故で立ち入り禁止となった警戒区域に留まり、残されたペットの犬や猫、家畜の牛などの保護活動をしている松村直登さんを知りました。彼がなぜそんな犠牲を払って、孤独を選び、とても不条理なことをしているのか知りたい、そして彼の活動をもっと多くの人に伝えたい、と思い映画を作ることにしました。
松村さんとはどのようにして知り合ったのでしょうか?また、ドキュメンタリーを作ることに関して松村さんの反応はいかがでしたか?
Antonio Pagnottaさんにお願いして松村さんを紹介してもらいました。松村さんにとってメディアへの露出は非常に大切なことで、それがなければ彼の活動は誰にも伝わらず、意味がなくなってしまいます。ただ、他にも松村さんの活動に注目したドキュメンタリーがあり、初めは出演を迷っていました。ですが、私たちが既存の作品とは違った視点で製作する旨を伝えたところ、協力してもらえることになりました。また、私たちは撮影で最新のデジタルカメラではなく、昔からある16ミリフィルムを使用したのですが、そこが気に入ってもらえたようです。
この映画を作る上で難しかったことや特別に感じたことは何ですか?
松村さんと彼のお父さんに会うこと、そして立ち入り禁止となった、人のいない警戒区域の独特な雰囲気を体験することで感傷的な気分にさせられました。多くの人がメディアを通じて震災で何が起きたかを知っていますが、実際に現場にいることで本当に何が起きたか知ることができ、またその結果どうなってしまったかを理解することができます。これはとても印象深い経験、感情として私の中に残りました。
難しいと感じたのは、実際の撮影現場は危険な警戒区域であることです。ただ、その危険な放射能を実際に見ることはできませんので、私たちは放射能に対して何もすることができません。何も見えないということが徐々に恐怖に変わり、自分の意識の中につきまとうように感じました。
震災から今年の3月11日で5年が経ちました。福島の復興についてどのように感じましたか?また福島に住む人とその近く、または全く別の地域に住む人とで震災に対しての考えなどは変わってきているのでしょうか?
私は被災地で行われている多くの放射能除去作業があまり意味を持っていないと感じています。とても若い専門家によって立てられた計画に沿って7千人に近い作業員が週6日間も除去作業を行っています。ただ、この除去作業は彼らの健康によくない影響を与えますし、袋詰めにされた何千もの放射性廃棄物が出来上がるだけで、政府にはこれらの廃棄物を今後どこに保管するかの具体案がまだありません。例え、政府や東京電力が放射性廃棄物を正しく保管することができたとしても、そこに住んでいた人たちが元の家に戻るとは思えません。戻らない理由は放射能に怯えているのではなく、原発事故がトラウマになり、戻りたくないと感じているからです。 その人たちの多くはまだ仮設住宅で生活しています。政府はもっと“rescapés de Fukushima(福島復興)”のために多くのことをやるべきだと思います。
被災地の多くの人は農業や観光で生計を立てていましたが、今回の福島第一原発の事故で大きなダメージを受けました。しかし、被害にあった人たちはただ彼らの状況を悲観するのではなく、日本独特の文化や伝統にある威厳や尊厳と共に自分たちの状況を乗り越えようとしているように感じます。特に印象的だったのは福島の方々の優しさと力強さです。彼らは同情や慈善を求めているわけではありません。私たちは現実に立ち向かう彼らに敬意を払うべきです。彼らの苦しみや犠牲を風化させずにしっかりと受け止め、将来への警告にするべきだと思います。
Hot Docsでの上映に先駆けて、TORJA読者へメッセージをお願いします。
私はこの映画がそんなに過激であるとは思いませんが、観てくださった方が少しでもこれまでの人類の犯した過ちについて考えて欲しいと思います。それと同時にこの映画は松村さんの勇気とその活動に敬意を表すための作品でもあります。私は彼をただ一人の人間というよりはスーパーヒーローだと思っています。私たちにとって、この映画は超現実主義者による孤独と自然についての詩であり、この詩の持つ独特な雰囲気が観客の皆さんを惹きつけると思います。
HALF-LIFE IN FUKUSHIMA 上映日程
5月2日(月) 9:45 PM @Scotiabank Theatre 4
5月4日(水) 10:30 AM @TIFF Bell Lightbox 3
5月8日(日) 10:15 AM @TIFF Bell Lightbox 2
Hot Docs hotdocs.ca
世界中から毎年200本以上のドキュメンタリー映画が集まる北米最大のドキュメンタリー映画祭。今年もサンダンス映画祭でグランプリを受賞したAnthony Weiner監督の「WEINER」をはじめ、数多くの注目作品や新作が発表される。“HALF-LIFE IN FUKUSHIMA”以外にも“ANTS ON SHRIMP”、“THE APOLOGY”、“THE GATEKEEPER”などの日本関連映画が上映されている。