Tetsuro Shigematsuさんインタビュー [Interview of the month]
アジア人初、カナダのCBCキャスターを務め、さらに自身プロデュースの舞台でも大活躍中
一昨年バンクーバーでワールドプレミアを迎え、公開前に全チケット売り切れとなったEmpire of the Son。昨年末からついに始まったナショナルツアーで2月にトロントを訪れたShigematuさん。各地での公演の様子や舞台を行うまでの秘話、またラジオブロードキャスターとしてのお話や普段の生活まで、Shigematsuさんの魅力がたっぷりと詰まったインタビュー。
Qトロントには何回か来ていると思うのですがトロントの印象はいかがですか?
トロントは都会ですね。いつも舞台公演の為に来ているので、トロントが住むのに良い街かどうかはわからないですが、カナディアンシアターアーティスト的にトロントはカナダのニューヨークみたいだと感じています。私の舞台がこの大きな都市で公演出来ることをとても楽しみにしています。
Qトロントはカナダのニューヨークみたいだと感じるように、カナダ各都市で違った雰囲気を持っていますが、故郷のバンクーバー公演と他の都市でお客さんの反響に違いは見られましたか?
いい質問ですね。 バンクーバーでの公演はとても大盛況で、公演が始まる前には全チケットが完売するほどでした。また再公演を行った際にも全チケット完売するなど、カナダ人作品として稀にみる大成功を収めることができました。理由の一つにバンクーバーが私の故郷であり、多くのシーンはバンクーバーを舞台にしていることがこの大きな反響に繋がったと考えていたので、トロント、オタワやモントリオールでの公演でどれくらいのお客様に来ていただけるのかとても気になっていたのです。特にオタワやモントリオールはバンクーバーに比べて劇場も大きいのですが、嬉しいことにどちらもとてもたくさんの方に来ていただけましたし、明日のトロントでの初日公演も完売だと聞いています。観客の反応という面ではステージマネージャーのスーザン・ナガシマによると、バンクーバーとオタワやモントリオールを比べても、みなさんほとんど同じシーンで笑ったり、驚いたり、息を飲んだりととても似ているリアクションだったみたいです。
Q今回公演しているEmpire of the Sonは21年前に制作されたRising Sonの続編だとお伺いしましたが、なぜこのタイミングで続編を作ろうと思ったのでしょうか?
21年前にRising Sonを公演した際には、楽しさはありましたが規模も小さく観客もほとんどいないようなものでした。しかしある日、母が私に「お父さんが『お前は俺の英語の訛りを笑い者にしてお金を稼いでいるようなものだ』と言っていたわよ。」と話してくれて、私は「それはどういう意味?父さんは冗談で言っていたの?それとも本当に気にしていたのかな」と聞きましたが、母は日本人らしく「私にはよくわからないわ」と回答を濁すだけでした。私の父は悪い冗談をよくいう人でしたが、もちろん母としては私にやめて欲しかったのでしょう。私はRising Sonの公演を続けることをやめましたが、一部がCBCのラジオで流れ、その縁があって“This Hour Has 22 Minutes”というテレビ番組の制作に携わることになり、そのままCBCで働くようになりました。そうして長い間舞台から離れていましたが、20年経ち私自身も父親になり、様々な経験を積んだことで、もう一度私と父の関係性に向き合うことにしたのです。
Q舞台やラジオキャスターなど様々な経験を積まれているShigematsuさんですが、当初のキャリアプランについてお聞かせください。
私はもともと画家になりたくて5年間画家になるための学校に通っていました。しかしビジュアルアーティストとして全く可能性を見出すことができず、教授には私の作品よりも作品を発表するプレゼンテーションの方が面白いと言われてしまうほどでした。当時舞台にも興味を持ち始めていたので、そのまま舞台に関係する仕事に切り替えたのです。私のこの経験は多くの若いアーティストが経験することだと思っています。多くの若者が自然とファッションや音楽に惹かれるように、若いアーティストは直感的に表現できるビジュアルアートから始める人が多いですが、様々なことを経験し成熟していく過程で目指す道が少しずつ変わり、本当に自分にあった道に出会えるのだと思います。
Q先ほどCBCで働くことになったきっかけはお伺いしましたが、アナウンサーに就いたきっかけはなんでしたか?
当時働いていた時にCBCラジオに参加しないかと聞かれたのが始まりです。ただ、私はジャーナリズムを勉強したわけではないので、報道レポーターというよりは面白いことやちょっと変わったことをするレポーターのような形でスタートしました。また私自身は代わり映えしないラジオ制作に興味がなく、普通の企画を担当してくれと言われてもよく断っていました。そんな独自のスタイルが当時のThe Roundupホスト、Bill Richardsonの目に止まり、後継者として番組を引き継ぐことになったのです。
Q当時CBCアナウンサーで初めてのアジア人、かつ日本人として働くことにおいていかがでしたか?
テレビとラジオの両方に出演したことがあるからこそだと思うのですが、とても興味深い経験をすることができました。カナダの政治関連の話題を取り上げるRick Mercer Reportでアナウンサーとして出演した際には、主な視聴者層である中年の白人層にはあまり好感的に受け入れられなかったようです。当時はアジア人も少なかったですし、純日本人の見た目の私が英語を話すということにとても違和感があったのだと思います。その反面、ラジオでは私の姿は見えないですし、ロンドン生まれ、カナダ育ちの私の喋り方にはアジア人の訛りはありません。唯一外国人らしいことといえば私の名前ぐらいでしょう。カナダ郊外に住む視聴者にとって私は初めての彼らが出会った日系カナダ人だったと思いますよ。スクリーン上では少しネガティブな反応を得ることもありましたが、ラジオだと顔が映ることがないので視聴者に受け入れ易かったようですよ。
Q様々なメディアで『伝える』ことをお仕事にしてきたShigematsuさんですが、ご自身にぴったりだと感じるメディアはなんですか?
面白いもので、私という同じ人でも違う媒体を介すことで伝えられるものが変わってくるのです。Marshall McLuhanというメディア学者が「メディアが伝えるメッセージは真実である。」と言っていますが、例えば、私がCBCラジオでキャスターとして出演している時とYouTubeに上がった動画内では全く別の意味を持ってしまうこともあります。すべてのメディアは抑制と可能性を同時に持ち、それぞれに難しいことと簡単なことがあるのです。もっと具体的にいうと、私個人はスタンドアップコメディが好きなのですが、その舞台では伝えられる内容に制限があり、とても真面目な話や感情を刺激しする内容を盛り込むことは難しいのです。そんな中で舞台は他のメディアと異なり、制限がとても少ないと思っています。強いて言うならば、観客は白人の俳優たちに見慣れていることですが、それはあまり大きな問題ではありません。様々なメディアを経験してきましたが、制限の少ない舞台が私にとても合っていると思います。
Q舞台では体が資本だと思いますが、健康を維持するために意識していることはありますか?
特にツアーなどの移動中に健康的な生活を維持することは難しいですが、私はレストランのような人が集まる場所を避け、できる限り自分で食事を作るようにしています。滞在先で毎回キッチンを探すことも大変ですが、毎日そこで2時間ほど調理をし、このクスクスサラダを作ります。栄養バランスを考えて作っていますし、これ一食で3000キロカロリー摂取することが可能で、私は基本的に1日1食しか食べません。それに普段から運動もしています。もし友人と外食に行くことになっても私は食べずに見ているだけなので少し非社会的ではありますが、この手作りの食事と運動が私の健康法ですね。
Q毎日続けていることやモットーなどはありますか?
友人から僧侶みたいだと言われたことがありますが、私は基本的に夜7時に寝て、明け方の3時に起きるようにしています。起床後は書き物やエクササイズなど自分のために時間を使って、朝7時頃になると家族を起こしてみんなで過ごすようにしています。この1日の流れを保つことは私にとってとても大切で、エナジーを与えてくれるだけでなく健康を維持できますし、 目的や目標を持った人生を送れると思います。
Qこのナショナルツアー後の取り組みや目標について教えてください。
今年の秋には次の舞台“1 Hour Photo”のワールドプレミアを迎えます。内容は、第二次世界大戦中にキャンプに収容されていた友人の父、Masu Yamamotoさんの人生を元にした話です。今度も一人舞台になる予定でうまく観客に受け入れてもらい、ナショナルツアーができればいいなと思っています。難しいトピックであっても演劇や物語を介すことで興味を持ってもらえるということが物語の持つ力だと思っています。
Qアジア人として成功しているShigematsuさんから読者に向けて、海外で成功するためのアドバイスをお願いします。
一生懸命働くことや時間を守ることはとても大切なことだと思いますが、特に日本人にアドバイスしたいことは、個性を大事にするということ。そして、人と違うことに挑戦することを恐れないで欲しいということです。私が成功することができたのは、人と違っても私の個性を大切にしてきたからです。日本から来ている読者の皆さんも、カナダに来たからといってカナダの風習全てに従う必要はないと思います。日本の風潮として、人に合わせることや、順応することを求められるかもしれませんが、人とは違うオリジナリティを大切にすることはとても大事だと思いますよ。
Tetsuro Shigematsu
shiggy.com
ラジオブロードキャスター、コメディアンそして映像制作・作家としてバンクーバーを中心に活動中。CBCラジオで放送されたThis Hour Has 22 Minutesの作家として有名になった後、CBCキャスターとラジオホストに。また舞台制作にも力を入れており、一人舞台であるEmpire of the SonはThe Best Theater Show of 2015に輝いており、多方面で大活躍中。
Translator: Momoka Arakaki
英語を使って色んな国の人とコミュニケーションを取りたい思いから大学卒業後トロントへ。CanPacific College のプログラムを修了。将来はメディアを通して海外と日本繋ぐ仕事に携わることが目標。そのために日々奮闘中。
CanPacific College: www.canpacificcollege.com
私が通っていたビジネスコースでは、ビジネスメールのやり取りを学ぶ事が出来ます。基本的なビジネスメールもちろん、目上の方への敬語を使ったメール仕方など、数回授業に取り組まれており、難しいビジネスメールも自然と身につきました。インターン先のTORJAさんでは雑誌に掲載するための写真や情報を取材先にメールを通してお願いする機会が多々あり、そこでビジネスコースで学んだ知識がとても役に立っていると思います。