チョウザメを愛しキャビアを愛した Cornel Ceapa博士インタビュー [Interview of the month]
チョウザメ研究家コーネル・シーパ博士は、夢を追い求めてカナダに移住。異国の地で一からビジネスを始め、カナダ産キャビアの生産に成功。チョウザメへの情熱や築き上げてきたご自身のキャリアについて語ってもらった。
チョウザメの魅力に惹かれたきっかけは何ですか?
1994年、私は母国ルーマニアの大学で博士課程の専門分野を選択する必要に迫られていました。その時ドナウ川ではキャビアのためにチョウザメの乱獲が始まった頃で、一気に絶滅の危機へと瀕していました。もともと海洋生物学を専攻していましたので、魅力を感じたというよりはチョウザメを守りたいと強く思ったことが始まりです。
ドナウ川のチョウザメを守ることがきっかけだったにもかかわらず、カナダへ移住することとなった背景を教えてください。
2001年、博士課程が修了する時に様々な理由や根拠を示しながら、絶滅寸前の危機に瀕しているドナウ川のチョウザメ漁をやめるように強く勧めましたが、耳を傾けるものは誰もいませんでした。そして私は次のチョウザメを守るために、2003年に妻と十代の息子と共にカナダに移住することを決めたのです。移住後はニューブランズウィック大学で、短期間ポスドク研究に従事し、2005年から自身の研究も兼ねたチョウザメのビジネスを開始しました。
海外で、新しくビジネスを始めようと決意した時はどのような心情でしたか?
とても大変なことだと分かっていました。その国での信頼も資産もないまま、移民した直後にビジネスを始めるということは、まるで十代の若者が銀行や政府に資金援助をお願いするようなことで、納得してもらうのはとても難しいのです。そのため、私たちのビジネスはかなり画期的なものでなければなりませんでした。また、チョウザメは成熟するまでに時間がかかり、初期投資も多額、かつカナダではチョウザメやキャビアがあまり認知されていないなどの事情もあり、乗り越える問題も多かったです。ただ、キャビアを得るだけではなくチョウザメの生態系を守るという目的もあり、まだまだ改善すべき点は山積みですが、私たちのビジネスは世界的に見ても非常に新しい成功を収めることができました。
日本ではロシア産のキャビアが有名な印象がありますが、アカディアで採れるキャビアのユニークな点とはなんですか?
残念ながら、ロシアや東ヨーロッパでの野生のチョウザメ漁は、絶滅の危機に瀕しているので、今は禁止されています。私たちが行っている大西洋における野生のチョウザメ漁以外では、現在世界中のキャビアはすべて養殖業で生産されています。中国が最大のキャビア生産国で、世界中のキャビアの35%を占めています。しかし、その多くは中国で生産された後にヨーロッパなどで詰め直され、その国のブランド名で販売されているのです。
私たちがキャビアの生産に漁獲しているのは大西洋チョウザメとショートノーズ・スタージョンという種類です。両方とも私たちが住むニューブランズウィック州に生息する在来種で、特に大西洋チョウザメは、世界で最もおいしいキャビアの一つです。カナダはとてもきれいな水に恵まれていて、そのうえ厳しい品質管理体制があるので、私たちのキャビアは世界でも最高級品に位置付けられています。
ご自身のキャリアにおいて、どのようなことにやりがいを感じますか?
自分が研究してきた分野を最大限に活かしてチョウザメを守りながら、キャビアという素晴らしい食品を広めることができるとてもユニークなビジネスを創り上げることができて幸運だと思っています。今後の改善点も多いですが、今の私は人生全てにやりがいを感じています。
これまでのチョウザメ漁では生態系を大きく崩し、絶滅の危機に瀕する種も多いですが、博士はどのようにして生態系を崩さずにこのビジネスを行っているのですか?
野生の動物や植物の収穫は生態系に影響を及ぼしてしまうことを避けられません。なので、生態系を守るための厳しい制限が必要になります。私たちの場合は、年間に捕獲できる量や漁業規制などの厳格な管理体制を敷いて、同時に継続してチョウザメの生息数などを観察しています。その観察データを専門機関に提供しており、過去7年間の調査によると私たちは成魚の野生チョウザメのうち、ほんの1.6%から1.9%しか漁獲していないという結果が出ました。
キャビアは高級食材のイメージがありますが、どのように普及を進めているのですか?
キャビアは高級食材ではなく、特別な日に誰もが楽しめるちょっとしたご褒美やご馳走だと思っています。キャビアの一人分の量は大体5~10gと少なく、一人あたりの価格にすると13.50ドル~20ドル前後になります。これは1杯のワインやカクテルと同様の価格帯で、もしキャビアが高級食材なら、お酒を飲むことだって贅沢だと思いませんか?それにキャビアはとてもヘルシーなので、友人や愛する人と一緒に楽しんでもらいたいですね。
今後はどんなことに取り組みたいですか?
今後もカナダ人にチョウザメやキャビアについて説明し理解してもらい、養殖チョウザメだけが責任をもって扱うことができるのではなく、生態系に危害を及ぼさない野生のチョウザメの漁獲もできるということを伝え続けたいです。また、より再生可能なエネルギーを私たちの事業に取り込み、環境への影響を限りなく減らしたいと思っています。
ご自身の好きなことを突き詰めたコーネル博士から夢を追うTORJA読者へアドバイスをお願いします。
カナダの大学で、客員教授としてプレゼンテーションを行う際のポイントをまとめますね。まずは大好きなことをしてください、そして自分のすることを愛してください。次に何か特別なことをしてください。自分の得意なことはとことん突き詰めてください。そしてチョウザメのように粘り強く、立派な人になってください。
Cornel Ceapa コーネル・シーパ博士
acadian-sturgeon.com
チョウザメの生態を守り、世界中の人々にキャビアの魅力を伝えるため、家族と共にカナダへの移住を決意。ニューブランズウィック大学にて短期間勤務した後、家族経営でカナダ産「Acadian Sturgeon」のキャビアの販売を始める。カナダ国内を始め、海外にも着実に市場を拡げ、チョウザメやキャビアの魅力を届ける一方、生態系を崩さない環境にやさしい漁業を世界中に伝える活動を行っている。
Translator: Ai Yamazoe
CanPacific Collegeにて8週間の日英バイリンガルを受講。ムードメーカー役でクラスをいつも盛り上げる。受講前からすでに高い英語力だったが、日英バイリンガルで通訳翻訳力を向上させ様々な分野での視野を広げ、今後が楽しみなアイさんです!
CanPacific College: www.canpacificcollege.com
初めは、毎日の大量の単語リストや課題に圧倒されていましたが、毎週変わるトピックごとに、英語を通して幅広い知識も学べるので、様々な分野の方と接することの多いメディアのインターンをするにあたって本当に役に立っています。