第58回 減る海外旅行と増える海外移住|カエデの多言語はぐくみ通信
日本人のパスポート取得率が低下しているという話を耳にする一方、日本から海外に移住する人が増えています。この相反する現象はなぜ起こっているのでしょうか?
日本人が海外旅行をしなくなった
日本政府観光局(JNTO)の調査によれば、日本人のパスポート保有率はコロナ禍以前の2019年の23.8%から2023年の17.0%に低下しています。アメリカのパスポート保有率は50%以上、韓国は約40%、台湾は約60%と、日本は他国に比べても海外に行く人がコロナ禍前から少ないようです。カナダのパスポート保有率は分かりませんでしたが、移民の国ですし、隣のアメリカにも行きやすいので、皆さん普通にパスポートは持っている印象です。
コロナ禍以降の日本人の出国者数も減ったままです。2024年7月度の日本人出国者数は105万人で2019年比で37%程度減っています。日本人が海外旅行に行かなくなった理由は、昨今の社会情勢や個人の価値観の変化に密接に関わっています。
円安で海外旅行は高くつくこと、海外に興味がない、または海外は安全面で心配というのが理由のようです。しかし、経済的な理由が、日本人が海外旅行をしなくなった最も大きい理由ではないでしょうか。日本は30年間賃金が上がらず、2022年の日本の平均賃金は4万1509ドル(約452万円)とOECD加盟国平均を130万円ほど下回っており、38カ国中25位でした。そして、コロナ後はどこの国も物価が高騰し、そこに30数年ぶりの円安が追い打ちをかけています。
また、今は娯楽も多様化し、オンラインのエンターテイメントも豊富で、楽しいことは日本にもたくさんあるから別に海外に出ないくてもいいという気持ちになっている人が多い印象です。私は日本がバブル景気になる前に初めて海外に出ましたが、当時は海外を見てみたいという気持ちが強く、円が安くてもどうにか海外に出る方法を探っていました。しかし、今の若者は海外にそれほど憧れないようです。
海外移住は増えている
日本人の海外旅行が減少する一方で、海外移住者が増加しています。外務省の統計を見ると、海外在留邦人は長期滞在者と永住者を合わせて2023年では129万4千人でした。在留邦人の多い国は、アメリカ、中国、オーストラリア、カナダ、そしてタイの順です。コロナ禍以降、海外在留邦人の総数は年々減少していますが、それは海外駐在員の減少を反映しており、生活拠点を日本の外に置く海外移住者は増え続けています。
海外に永住している人の数は過去最高で、2023年には57万5千人になりました。また、ワーキングホリデーを利用する日本人の若者も増えており、オーストラリアの日本人向けワーホリビザの発給は2023年は1万4千件を超えて過去最高だそうです。
短期的に海外へ行くよりは、日本を出て外国で今後の人生を生きていこうと大きく舵を切る人が増えています。特に永住者は男性より女性が多く、女性にとってより良い生活環境を求めて海外移住に踏み切るようです。移住の方法としては、カナダを例に取ると、ワーキングホリデーを利用して移住を試みたり、教育移住で親が現地のカレッジに入ると子どもは無料でカナダの公立学校に通えることを利用して、家族で永住を目指す家庭が増えています。また、老後に生活費の安いアジアの国に移住する人も増えています。
海外へ日本人学生を50万人
日本人の学位取得目的の海外長期留学は2004年の8万人以降減少傾向で、コロナ禍後は6万人前後で推移しています。世界トップの大学を有するアメリカの大学に在籍する留学生が多い上位3国は、中国、インド、韓国で、日本は大きく後れを取り11位です。カナダの大学でも色々な国から来た留学生が学んでいます。日本人留学生が減った理由はもちろん経済的困難や円安ですが、英語力不足も海外に飛び出すことに抵抗を感じる理由の1つです。
学位取得や研究目的で留学する若者が減るということは、海外トップ大学で切磋琢磨したグローバルで活躍できる人材が減り、ひいては日本の国際競争力が低下することを意味します。日本政府は危機感をもって、海外へ日本人学生を50万人送り出す目標を立てています。
海外は若いうちに行った方がいい
日本経済が弱体化し、海外旅行をすることさえ贅沢になってきているのは寂しいかぎりです。しかし、たとえ短期の旅行であっても、20代の多感な時に見る海外と、落ち着いてしまった40代とでは感じ方がまるで違います。私は熟年になった今でも初めての国へ海外旅行をしますが、20代のころのような、小さなことでも感動していたあのキラキラ感はもうありません。
また、経済力や語学力以外にも、日本の若者が海外に出にくいのは、ギャップイヤーという概念がないことも理由の1つかもしれません。ギャップイヤーとは、大学進学や就職する前に1年間ほどボランティアや海外旅行など、若いうちにできることをやっておく猶予期間のことを指します。息子もギャップイヤーを利用して、高校卒業後に日本でボランティアをしたことが人生の大きな転換期となりました。
スマホの画面で見る海外と、未知の世界に自分の身を置く体験は全く別物です。たくさんの若者に海外を経験してほしいと思います。
参考:野村の経済教育金融サイト「世界から見た日本の平均賃金とモノ・サービスの価格」
https://www.nomura.co.jp/fin-wing/column/wages-and-prices/#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%B9%B3%E5%9D%87%E8%B3%83%E9%87%91%E3%81%AF%E4%B8%AD25%E4%BD%8D%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
カエデのマルチリンガル子育てブログ」を読みたい方はこちらへ
▶︎ https://warmankaede.com/