第59回 友人が反ワクチン陰謀論者になった|カエデの多言語はぐくみ通信
ドナルド・トランプが選挙に勝ちました。私の友人は反ワクチンや陰謀論を唱え出しました。彼らの前にエビデンスは無力であり、私たちはフェイクニュースを止められず、人々の分断が加速しています。
誰でも陰謀論者になり得る
長年の日本の友人が、友だちに感化されて反ワクチンと政府とメディア陰謀論者に変わりました。他の友人は、ある日本の俳優が亡くなった真相を政府が隠していると真顔で私に語りました。正直、「友よ、お前もか!」という気分です。私がグラフなどエビデンスを出しても、その統計自体が信用できないと言うのです。
実は、私も子どもが生まれた25年前は、ワクチンに対して怖さを感じていました。我が子に打ってよいものなのかと真剣に考え、当時はネット情報はそれほど流行していないものの、調べれば調べるほど、ワクチンに対してネガティブな情報も目に入り怖くなった思い出があります。ですから、彼女たちが陰謀論を信じるに至った心理的過程は理解できます。
最終的に夫と相談したうえで子どもたちにワクチンを接種することにし、今のコロナワクチンも、副反応の可能性が0%ではないことを理解したうえで接種を続けています。
現代のSNSやネットコミュニティーでは、自分の考えに合致する情報と意見ばかりが表示される「エコーチェンバー効果」が働きます。陰謀論や反ワクチンを信じる人のもとには過剰な情報が流入し、それによって現実と異なるゆがんだ形で認識する「認知バイアス」が起こることで信念が強化さていくそうです。
SNSによって加速する分断
SNSやネットコミュニティーは便利な反面、個人や社会の判断に大きな影響を与え、ネット情報操作に長けたポピュリストが選挙に勝つ時代になりました。
先のアメリカ大統領選挙のように、陰謀論や不信感を煽る発言やSNS投稿によって分断や対立を生み、不安に駆られた人たちを自分たちの陣営に誘い込む手段がメジャーになりつつあります。東京都知事選挙や兵庫県知事選挙でもSNSやネットの拡散力が物を言いました。
テレビや新聞など昔からのメディアにも、広告主の意向や読者の興味、国策に沿った偏向報道はもちろんありましたが、現代は、ショッキングなフェイクニュースほど大手を振ってすさまじい速さでインターネットで拡散される時代になりました。そして一旦拡散されるとなかなか取り消せないのがネット情報です。
残念ながら、わざと誤情報を拡散させて人の判断に影響を与えようとするグループの影響力に打つ手立てがない状態で、大手SNSの最高責任者たちも自分たちの利益を優先し、フェイクニュースに何ら対策を立てようとしていません。
反ワクチンや陰謀論者の心理とは
ワクチン反対派や陰謀論者を含む、エビデンスよりもネット情報を信じる人たちの背景には何があるのでしょうか。鹿児島大学の大薗博記准教授らが陰謀論を信じやすい人の特徴について研究しています。
陰謀論にハマる人には次の特徴があります。
- 熟慮性が低く直感的に物事を判断する人(これは頭の良し悪しではなく、物事の判断時の傾向です)。
- 社会不安や不満が高い人。
陰謀論を信じやすい人にはこのような傾向があるのですが、①の「熟慮性」がより一貫して影響することも分かっているそうです。
未知のリスクやコントロールできない状況に直面して不安や恐怖を感じるとき、その恐怖が陰謀論を受け入れる土壌となります。政府、製薬会社、大手メディアといった「権威」への不信感とあいまって、「実は政府や製薬会社が真実を隠している」という明快な回答を得たことで納得がいくのです。陰謀論は「真実を知っている一部の人々」と「隠蔽する権威」といった単純でわかりやすい物語を提供します。
そして、前述の「エコーチェンバー効果」により疑惑が確信に変わり、「自分だけが知っている真実を他の人にも教えないといけない」という使命感で陰謀論が拡散されます。彼らにとってその行動は正義であり良い行いなのです。
どうしたら分かり合えるのか
自分が誤情報を拡散しないために、国際大学の山口真一准教授は次のように提言しています。
- 家族や友人など身近な人からの情報であってもうのみにしない。
- 拡散しようとする前に一呼吸置く。特に「怒り」と「不安」を感じたときは立ち止まり、他の情報源を探したり、一次資料を確認したりするなど、しっかり考えて判断する。
- 分からないことは人に伝えない。調べても分からなかったら拡散しない。
フェイクニュースを流し、対立や分断を煽って選挙や政策を自分たちの都合の良いものにしようとするグループや外国政府の思い通りにならないように、各人が情報を批判的に受け止め、判断力とメディアリテラシーを高める訓練や教育が、今後より一層必要になります。
私は友人にエビデンスを見せて反論したのですが、これは逆効果だったかもしれません。陰謀論を信じる人々に対し、対立的ではなく共感的な態度で接することが重要だそうです。
城西大学助教授の塚越健司さんは、エビデンスを示すよりまず対話だと言っています。陰謀論を信じたい気持ちは不安から起こります。まず共感によって心の底に秘めた気持ちを吐き出してもらわなければ、相手の気持ちを理解することは困難なのです。
読売新聞オンライン2023/11/03、「頭の良い人」は陰謀論にハマるか、学術誌に論文が掲載」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20231101-OYT1T50199/
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