東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第32回
5月に行われ盛大なにぎわいをみせた日本酒フェスティバル、Kampai Toronto vol.3。このイベントに参加した岩手県、南部美人の蔵は3.11東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。南部美人の5代目である久慈氏は震災直後から日本酒を通じて地域復興に様々な取り組みを行ってきた。TORJAでは久慈氏が体験したこと、復興に向けての取り組みなどを寄稿してもらった。
「北限のゆず」この言葉を初めて聞いたのが、震災前の2010年秋のことでした。
当時の私は、2008年に商品開発をして、2009年に特許を取得した、新しい時代のリキュール「糖類無添加梅酒」を開発して、商品を全国にPRしていた時でした。
「糖類無添加梅酒」が全国流通し始め、様々なリキュールの販売や酒の会などの場に参加すると、「梅酒」はもちろんリキュールの中で1番人気で、1番商品も販売されていますが、「梅酒」の次となるリキュールを見ていると、断然「ゆず」が続いていました。
「ゆず」は日本人が大好きなかんきつ類で、日本料理にも積極的に使われ、お風呂に入れたり、ポン酢などの調味料にも多く使われ、さらには「ゆずこしょう」などの香辛料もあるほど、日本人と「ゆず」の関係は深く、私の中では、いつかこの「ゆず」を使った糖類無添加リキュールを開発したいと思っていました。しかし、「ゆず」は高知などの四国や、中国地方など暖かい地域での栽培が基本で、産地もそちらがほとんどでした。
当時の私は糖類無添加リキュールを造る上で、「地元岩手の果実をまずは使う」という信念でおりましたし、今でも基本的にその考えは変わりません。
しかし、やってみたい「ゆず」は暖かい地域のもので、岩手での生産などは考えてもおりませんでしたので、やってみたいけど、岩手に「ゆず」が無いのならば商品にするのはちょっと無理だな、とあきらめていました。
しかし、周りからは「南部美人さんの糖類無添加リキュールでゆずを飲んでみたい」という声も大きく、私の中では大きな戸惑いが生まれていたのも事実でした。
そんな中、2010年の秋、岩手県で食のアドバイザーで料理研究家をしている先生から「岩手でもゆずが取れるんですよ」というお話を聞き、耳を疑いました。
暖かい地域でしか栽培されないはずの「ゆず」が、なんと岩手でも栽培されている。
この話を聞いて私はすぐに「どこで栽培されているのですか」と聞いたところ、岩手県陸前高田市で栽培されている、という答えでした。すぐさまその先生に紹介していただき、岩手県庁の職員の方と一緒に陸前高田市に行きました。
目の前にある大きなゆずの木。そこには黄色く染まったゆずが一面になっていました。
どうして岩手でゆずが栽培されているのか、それはみんな知っているのか、どんな味や香りがするのか、すぐにゆずを販売している産直の方々にお話を聞いてまわりました。
ゆずは陸前高田では100年も前からあること、でもそのほとんどが本格的な農産物として栽培されていないこと、陸前高田はゆず生産の日本の最北限であることなど、様々なお話を聞きました。そして私が「糖類無添加ゆず酒」をどうしても造りたい、というお願いをしたら、快くサンプルの取れたてのゆずを出してくれて、すぐに試験醸造を開始しました。
試験醸造の結果はとてもよく、香りが通常のゆずよりも高く出ることも特徴で、まさに思い描いていたものが出来ました。そしてこの「北限のゆず」で新しい商品を造ることを決意して、陸前高田の農家の皆さんに「来年からよろしくお願いします」と握手をして別れたのが、2010年秋、年を越して2011年3月、東日本大震災が発生してしまいました。ゆずはどうなっているのか、農家の皆さんはどうなっているのか・・・
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人
http://www.nanbubijin.co.jp
東京農業大学客員教授
久慈 浩介