東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第38回
5月に行われ盛大なにぎわいをみせた日本酒フェスティバル、Kampai Toronto vol.4。
このイベントに参加した岩手県、南部美人の蔵は3.11東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。南部美人の5代目である久慈氏は震災直後から日本酒を通じて地域復興に様々な取り組みを行ってきた。TORJAでは久慈氏が体験したこと、復興に向けての取り組みなどを寄稿してもらった。
第1回の北限のゆずを楽しむ会を大成功に終わらせた北限のゆず研究会では、今後の北限のゆずの振興について、震災復興とともに取り組んでいくという事で、長い目で育てていなければいけないという事を話し合いました。
北限のゆずを楽しむ会などのイベントの開催や、リキュール以外の新商品の開発、新しいゆずの苗木を植えていく事、さらにもっと根本的な事の1つに、今陸前高田に生息する北限のゆずは全て収穫されているわけではなく、一部しか収穫されていない現状を何とかしなければいけないことが1番最優先の課題でした。
おかげさまで北限のゆずを使ったリキュールは初年度、2年目と発売してすぐに売れきれてしまうほどの人気商品に育ちました。しかし、北限のゆずが少ないため、追加で商品をつくることが難しく、しばらくは品切れの状態が続きます。
さらには、東北の震災復興の象徴として、この陸前高田の北限のゆずの取り組みは各方面のマスコミにも取り上げられ、多くの取材記事が出ました。そのおかげもあり、少しずつですが北限のゆずの知名度は上がっていきます。
しかし、原材料に限りがあります。新しい苗木を植えていくにも、その新しい苗木が育ち、収穫できるまで7年近くかかることから、それを待っているだけでは遅いです。
さらに震災復興の取り組みはスピード感が求められ、出来るだけ早い期間に陸前高田の名産品に北限のゆずを育てなければいけません。
そうなると、今ある北限のゆずの木から収穫しているゆずはまだ20%程度しか収穫出来ておらず、それ以外は収穫できずに落ちてしまったり廃棄になったりしています。なぜそんなに収穫が出来ないか、という事を調べていくと、一番の理由は「収穫する人が足りない」という事が大きな原因でした。
北限のゆずは11月に収穫されますが、その短い時間に一気に人をかけて収穫することがまだまだ被災地では難しい事、さらにはゆずの木はトゲが多く、収穫するにはより多くの人数をかけてやらなければいけないこともあり、何とか人手の確保を考えました。
しかし被災地は震災復興工事などの関係もあり、慢性的な人手不足です。さらには、北限のゆず研究会やゆず農家にはたくさんの人を雇うお金の余裕もありません。
そこで、私たちが注目したのは、「震災復興ボランティア」の活動でした。ボランティアは、震災当初はがれきの撤去などの力仕事、復旧作業が多かったのですが、震災から年月が経過すると、そういった力仕事以外のソフトパワーが必要な仕事が増えてきました。
そのボランティア活動として北限のゆずの「ゆず狩り」を提案したところ、とても好意的にとらえてくれて、ゆず狩りのボランティア活動がスタートしました。
内陸部や都会からボランティアで来る人に、11月から12月はゆず狩りのボランティアで参加してもらいました。これが大成功で、参加したボランティアの方々もとても楽しそうに作業をしてくれました。
たくさんの人々の優しさと善意の上にこの北限のゆずは成り立っているのだと感じています。来月は北限のゆずの新商品開発についてお話しします。
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人
http://www.nanbubijin.co.jp

東京農業大学客員教授
久慈 浩介